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黒き七竈の魔女 ⑪

 冒険者ギルドに赴くと、会館の一階ホールに、ククルとフォコンドがいた。

 それまで隣を歩いていたアトラファが「うぇ」とうめき声を発して、コーリーの背後に隠れる。

 しかし、それを見逃すククルではない。


「なになに、なーに? 可愛い格好してんじゃーん!」

「……だからこんな服、着たくなかった」


 肩を抱き寄せられたアトラファが、げんなりとした呟きを漏らす。

 ククルにからかわれるのが嫌だったから、お下がりの夏服を着たがらなかったのだろうか。ふだんあんまり、ククルのことは意識していなそうなアトラファだけど……ローブの下が全裸という出で立ちよりは、だいぶマシなはず。


 コーリーはフォコンドに挨拶をする。

 あまり親しくしているとは言えないけど、何度か大変お世話になっている、大先輩の冒険者だ。


「お久しぶりです、フォコンドさん」

「ああ。こうして話すのは人狼の件以来だな、迷子のコーリー」


 未だに「迷子の」って呼んで来るし。

 何かと命名するのが好きな人なので、コーリーに不名誉な二つ名を付けたのも、実はフォコンドなのではないかと、コーリーは密かに疑っていた。

 何にしても、フォコンドが率いる冒険者チームは、王都でもトップクラスの精鋭チームなので、そのリーダーである彼がここに居るということは、大きな事件が起こったに違いない。


「今日はどうして? フォコンドさんの隊が動くような案件、今ありましたっけ?」

「……お前は少し勘違いをしているようだな」


 フォコンドは肩をすくめて言った。

 言われたことの意味が分からず、困惑するコーリーに、彼は続けて言った。


「確かに我々はチームだ。しかし、所詮は一介の冒険者の集まりに過ぎないのだ。普段からチーム一丸となって大きな案件に取り組んでいるのではない。普段は個々でそれぞれの依頼をこなしている……マンパワーが必要な時は集まるがな」

「えっ……、じゃあ、冒険者パーティって、いっつも一緒に居なくて良いんですか?」

「小さな所帯なら、共に仕事に取り組む方が効率は良いだろうと思うが」


 そうなんだ……。

 アトラファとパーティを組んだ時、アイオンが信用金庫で共通の口座開設を勧めて来たものだから、仕事は絶対一緒にやらなければならない、と思い込んでいた。

 フォコンドは更に続ける。


「それに、冒険者は長く続けられる職業ではない。続けていれば、いつか衰え、取り返しの付かないしくじりをする時が来る。そうなる前に足を洗うべきだ」

「フォコンドさんも……? すごい冒険者なのに」

「まあな。金が貯まったらベーンブルで土地を買って、牧場を経営しようかと考えている。牛を飼いたいが、最初は豚だな……ソーセージを作るのだ」


 フォコンドが腕を組んで、自分の夢の牧場のことを語り出したが、コーリーは彼の話をあまり聞いていなかった。


 冒険者は長く続けられる職業ではない――。


 じゃあ、アトラファはこのままだとどうなってしまうの? 命知らずで、困っている人がいたら見捨てられなくて……冒険者、アトラファは。

 普段から抱いていた懸念が、現実のものとして近付いて来るのを感じるコーリーだった。

 何としてもアトラファを〈学びの塔〉に編入させなくては。

 やっぱり大先輩の言葉はためになる。コーリーは礼を述べた。


「お話聞けて良かったです。ありがとうございました」

「うむ。ククルが『占い師の身辺調査』とかいう胡散臭い依頼を拾って来たので、念のため付き添って来たのだが……迷子のコーリー。たまたま会えて幸いだった」


「……んっ?」


 コーリーは、その言葉に頭を下げつつ眉をひそめた。

 依頼がブッキングしてる? 「占い師の身辺調査」はコーリーたちだけの依頼だったはず。アイオンも、キミたちにしか頼めない……みたいなことを言っていた。

 コーリーは訊ねた。


「……聞いて良いですか。その依頼って、アイオンさんから?」

「いや、リーフ・ポンドからだ」


 あの、ゆったり喋るギルド職員。リーフさんか……。

 話し易いんだけど、度々うっかりミスをやらかすので、コーリーはあまり彼女に信頼を置いていなかった。


 占い師――ティトに警戒心を抱かせてはいけないから、極秘、という程ではないけど、慎重に探ろうとしていたはず。冒険者ギルドとしては。

 アイオンさんはその方針に則って、コーリーたちにだけ依頼を斡旋したけど、要らない気を利かせたリーフさんが、フォコンドさんにも話を振ってしまったんだ。


 各人の性格を理解しているコーリーは、ここに至るまでの顛末が何となく理解できた。

 しかし「元々、私たちにだけ来てた話なんで、フォコンドさんたちは引っ込んでて下さい」とは言えない。冒険者の格でいえばこちらが引っ込むべきだし、何より、互いに生業なのだから引くわけにいかない。

 察したらしいフォコンドが、珍しく口角を上げて言う。


「今回は競争というわけだな。面白い。俺は、アトラファをそこらの小娘と同じだと思っていない……あいつと競って見たかったのだ」

「うっ……」


 コーリーは呻く他に無かった。



     ◆◇◆



 ギルド窓口で、アイオンに「成功報酬ではない」ということを確認する。

 フォコンド隊が参戦してきて、成功じゃないと報酬無しとかになったら、目も当てられない。

 成功というのはつまり、ティトの犯罪を立証する、ということなのだが……。


 ただ、フォコンド隊が同じ案件に取り組んでいるとしても、こっちの方が一歩リードしているという確信がコーリーにはあった。

 何せ、こちらはすでに「占い師グリルルス」本人との面識があるし。アトラファにとっては昔の知り合いで、しかも向こうがアトラファのことを好ましく思っているっぽいし。

 でも……、フォコンドさんはすごいんだよな……侮ったことなんて一度も無い。


 印象に残ってるのは、人狼事件の時、何の手掛かりも無い状態から一気に真相に迫り、最終局面では現場の指揮まで取ってたこと。

 今回も、ティトの術の真相に迫って行くだろう。

「協力者はいる」ってアトラファは言ってたけど……。


 フォコンドの視点に立って考えるなら……彼はどうするだろう。

 たぶん、人員を活用する。

 客として占いをして貰う人――たぶん、ククルあたり――を配役して、残りの人員は周辺を監視……でも、それじゃ駄目なんだ。


 それはすでに、コーリーとアトラファがやった。

 ティトは即、今何が起きているかを言い当てて来た。協力者は確認できなかった。

 何かをしているんだ。誰かが「今何が起きているか」を見て、ティトに伝えているんだ。


 一度ティトの占いを経験したら、フォコンド隊もそれを学習してしまう。

 そうなったら。こちらの優位は無くなり、優秀な人材が多数いるフォコンド隊が圧倒的優勢になってしまう。

 別に失敗しても報酬が無いわけではない依頼、ではあるのだけど。

 いくらお世話になったフォコンドさんのチームとはいえ、先に受けた仕事を後から奪われるのは癪だ。


 アトラファと相談してみよう。

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