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91話:夢から目覚めが始まりそうです()

 何も無く、暗闇だけがただ無限に広がる空間。

 この中で、ペネムエはただ1人さ迷っていた。


 (ここは……わたくしはアイリーン様に敗れて……その後は……)


 意識はハッキリとしているが何か自分の中の大切な物が抜け落ちている、そんな感覚に襲われていた。


 (天使の死は魂の消滅……それは存在が消滅するという意味では無かったのですか?)


 何もない空間に1人でいるのにも関わらず怖いという感情は全く湧いて来ない。

 自分でも不思議だった。

 魂の消滅が、どういった状態なのかペネムエは知らなかったが、今の自分の状況こそが魂の消滅なのかも知れないと思った。


 

 だが、この無限の暗闇だと思っていた空間に一筋の光が差し込み、遠くに薄っすらと人影のような物が見えた。




 (あれは……)



 ペネムエは光の中に見える人影をジッと見つめていると、その正体気が付く。

 すると暗闇に来てから、何の感情も感じられなかったのに、勝手に涙が溢れ出してきた。


 

 「翔矢様!!」


 

 この上下が存在するのか分からない空間の中、ペネムエは無我夢中で泳ぐように、翔矢の名前を叫びながら進み続ける。

 どれだけの時間、泳ぎ続けたのか分からないが、ペネムエは、ようやく翔矢の元に辿り着いた。


 

 「はぁ……はぁ……翔矢様!!」


 

 なぜ翔矢が、こんな空間にいるのか、疑問に思う事もなく、ただ喜びの気持ちをぶつけた。

 だが、翔矢の様子が何かおかしい、自分の姿を見ても何がなんだか分からないという表情をするばかりなのだ。


 「翔矢……様?」


 だんだんペネムエの頭の中が、嫌な予感で一杯になる。


 「君、誰?」


 その短い言葉は、ペネムエを絶望させるには十分だった。


 さっきの涙とは別の涙が溢れ出して止まらなくなってしまったのだった。






 *****






 「ネムエ!! ……ペネムエ!!」


 心が絶望に支配されそうになる中、誰かが自分を必死に呼ぶ声がした。

 聞き覚えのある、女性の声だ。


 「はっ!!」


 ペネムエは何かに気が付くと、勢いよく起き上がった。

 すると、ここが天界の神の頂の治療室だと分かった。


 「うぇあーーーん、よかったぁ!! 起きたぁ!!

 2週間も寝込んでたから、心配したんだからぁ!!」


 起き上がったのと、ほぼ同時に誰かが、すごい勢いで抱きついてきた。

 リールだ。


 「リール……? えっと……」


 さっきまで、なんだか嫌な感情に支配されていたが、それが何故だったかペネムエは思い出せなかった。

 だが、自分は生きている。それだけは分かった。


 その思いにふけっていると、自分に抱きついたままのリールの頭上の方から、ゴンという鈍い音が聞こえてきた。


 「黙っていれば起きると言ったじゃろ!! 何を起こしておるんじゃ!!

 休ませてやらんかい!!」


 鈍い音の正体は、いつから部屋にいたのか、女神アルマが、リールの頭をハンマーに変化させた杖で殴った事により物だった。

 リールは、頭にできた大きなタンコブを悶絶しながら押さえている。


 「ははは、元気そうで良いではないか、ペネムエ。

 体に異常はないかな?」


 部屋に入って来ていたのはアルマだけではない。

 オーディンもいたのだ。


 「オーディン様!? ご心配おかけしました。

 事情は分かりかねますが、特に痛みなどはありません」


 「君が派遣されていた世界で、帰りを待っている人の名前は思い出せるかな?」


 「はい!! 宮本翔矢様です!!」


 その質問には、ペネムエは、この上ない明るさで即答した。

 医療機関のベッドで、起き上がったばかりの者の声とは誰も思わないだろう。


 「それが分かるのであれば、アイリーンは本当に何もしなかったようだな……」


 その明るい声に、オーディンはホッと肩の力を抜いた。


 「そうだ……わたくし、ブリューナクの奥義を発動させて、それでもアイリーン様には敵わなくて……」


 ペネムエは、さっきの明るい声が嘘だったかのようにシュンと落ち込んでしまった。


 「いや落ち込む事はない、若いのに神器の奥義を発動できただけでも大したものだ。

 私も、奥義を初めて発動できたのは200歳を過ぎてからであった。

 今回は、相手が悪すぎたのだ……」


 「それで……敗れてしまった、わたくしが何故、無事でいられたのでしょう?」


 その質問には、アルマが答えた。


 「それはな、お主がA級天使へと昇格したからじゃ」


 アルマは、そう言うと四角い木箱に入った、勲章を手渡した。

 勲章は金色で、天使のような輪と羽が掘られている。 


 「えっ? えっ?」


 ペネムエは、驚きで声が出ない、敗れた自分が無事な上に昇格まで果たすなど想定外だった。


 「驚く事は無かろう、今回の試験の合格条件は『相手のA級天使に実力を、認めさせる』じゃからな」


 得意気に説明するアルマの姿は、最初からこうなる事を知っていたかのようだった。

 少なくとも、ペネムエとオーディンの目には、そう移った。


 「試験官は、あのアイリーン、お主が納得いかない気持ちも分かるが、まぁ素直に受け取って置くんじゃな」


 アルマはペネムエの左胸に勲章を付けた。

 反射的に、頭をスッっと下げた、しかしアイリーンも言っていたように、納得できない表情をしていた。


 「ペネムエ、おめでとう!! すごい!! 天才の私でもまだなのにすごいよぉ!!」


 だが、その気持ちに気が付けなかったのか、リールは嬉しそうに祝福してくれた。


 「あっ……ありがとうございます」


 呆れと戸惑いはあったが、親友の祝福してくれている気持ちは素直に受け取り、不器用ながらも笑顔で返して見せた。


 「アイリーンの真意は不明だが、今回で何も無かったのだから、しばらくは手を出してくる事は無いだろう」


 オーディンは、真面目ながらも優しい表情していた。

 わずかな緊張が、この場を支配したが、次にリールが口を開くと、この空気はガラッと変わってしまう。


 

 「えっ? えっ? えっ?

 オーディン様ですか? おっお初、お目目にかかります!!

 リールといいます!!」


 礼を尽くし深々と頭を下げるリールだったが、オーディン本人に女神アルマ、親友のペネムエにも、今更何を言っているんだという空気が流れる。


 「私、何か変な事言いました?」


 しかしリールは、それにさえも気が付かず、目上であるオーディンに何か失礼な事でもしたのではないかと不安になっていた。


 「色々言いたいことはあるがのぉ……

 とりあえず、オーディンだけでなく、ワシもいると言っておこうかのぉ」


 アルマは呆れたように、ため息を付いている。


 「アルマ様とは、前々から、会ってますし、私はアテナ派の天使なので」


 「さっぱりしとるのぉ……」



 リールのせいで、緊張感がなくなってしまったが、ここでオーディンが真面目な口調で話し出した。


 「アイリーンの狙いは、全く読めん。

 ペネムエ……気を引き締めるのだな」


 「はい!! そうだ、わたくしはノーマジカルに戻れるのでしょうか?」


 昇格して別の任務を言い渡されるケースも少なくない、わずかな不安があったペネムエは恐る恐る訊ねる。


 「もちろんじゃ、頼むお主が寝ている間にアテナは『宮本翔矢の件』を一旦見送ると決定した。

 じゃが、北風エネルギーに関する調査は必要なのでな、今後は、その任務に着いてもらうつもりじゃ」


 「かしこまりました!! すぐにノーマジカルへ戻ります!!」


 ペネムエは、勢いよくベットから飛び上がった。


 「待て待て、ノーマジカルへのゲートは、こっちの時間で、あと一週間は開かんぞ!!」


 アルマに呼び止められたペネムエは、急ブレーキが掛かったように、キィっと止まった。

 

 「そうでしたか……」


 ペネムエは、ガッカリと肩を落とす。


 「そう焦るでない、それにそんな顔で戻っては、翔矢が心配するぞ?」


 「はい?」

 

 アルマが取り出した手鏡を見ると、ペネムエの顔は、まだ硫酸で焼けている個所が目立った。

 ペネムエは自分でも、ヒィっと引いてしまった。


 「クローバーに薬は造らせたが、化学物質による怪我は、魔法薬では少し時間がかかるからのぉ」


 「翔矢様に、再会するまでに治りますよね?」


 「まぁクローバーの魔法薬だし、治るじゃろう。

 ワシの時間魔法で治してもよいが、体に良い治し方じゃないからのぉ」


 「いえ、このままで治るのであれば、安静にさせて頂きます」


 ここで、オーディンが床をドンと、神剣アンサラーを納めている鞘で叩いた。


 「『治る』いや『直る』そうであった、リールは私と来てもらうぞ!!」


 「うっ、忘れてました……オーディン様の管轄でしたもんね」


 オーディンはリールをギロリと睨み付けた。

 リールは怖気付いてしまってた様子だ。


 「ではペネムエ、大事にな!!」


 「まっまたノーマジカルで会いましょう!!」


 そのままリールは、オーディンに連れていかれ、部屋から出て行ってしまった。



 「アルマ様、何かあったんですか?」


 「ワシの口からは言えん!! 絶対言えん!! 後で本人に聞いて見るんじゃな!!」


 2人の様子を疑問に思い聞いて見たが、アルマの様子も、また怪く、らしくもない慌てぶりを見せるのだった。

  


 


 

 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 ストーリは一生懸命練って執筆しております。

 

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