90話:思いら奥義が始まりそうです()
アイリーンの生み出した虹色のシャボン玉に隠されていた硫酸を浴びてしまい、全身を焼けるような痛みに襲われたペネムエ。
最初こそ、痛みのあまり声を上げていたが、今は身動き1つせずに倒れ込んでしまっている。
「さすがに、可愛そうだったかしら?」
戦いを見て、ドヨメク観客の様子に、アイリーンは首を傾げた。
それでも、自身にやりすぎたという感覚は全くない。
「魔力が通ってない科学物質は、浴びちゃうと、どうしようもないものね」
動かないペネムエを見下しながらアイリーンは、クスクスと笑みを浮かべる。
「まぁ、安心なさい。天使は実態のある魂。
普通の生物とちが死んでしまえば何も残りませんから、死骸が見にくくなる心配は無いわよ」
アイリーンは、話しながらも杖で空中に魔方陣を描いている。
「消えなさい【バブル・インパクトLv160】」
倒れたままのペネムエの体は、巨大な1つの泡に包まれた。
「この泡が弾けた時が、あなたの最後よ!!」
アイリーンが、指をパチンと鳴らすと泡は割れ、その水が雨のように降り注いだ。
「なっ……」
しかし、アイリーンの目には信じられない光景が映った。
地べたに倒れていたペネムエに、跡形もなく消え去るような魔法を打った。
そのはずなのに姿が残っているどころか、立ち上がっていたのだ。
「いったい、どんな魔法を使って……」
コロシアムにおける戦闘では、回復魔法は禁止されている。
痛みに負けて使用してしまう者も稀にいるが、その場合は即刻失格が言い渡されるのだ。
もっとも、アイリーンはペネムエを処分するつもりで、この戦いに臨んでいるので失格など受け入れずに戦闘を続行するつもりではいた。
しかし、その痕跡は全くなかった。
「……そこですか!!」
「しまっ……」
アイリーンが驚いている隙に、ペネムエは瞬間移動で目の前まで移動し、ブリューナクで突きを仕掛けた。
だが間一髪で後ろに下がったことで、この攻撃は通らなかった。
近くにペネムエが来たことで、アイリーンは、ある事に気が付いた。
「目が開いてない? 硫酸でつぶれてしまってるわね……」
ペネムエは、魔力と気配だけで自分に攻撃を仕掛けているのだと感じた。
こんな事を考えている間も、ペネムエは休む事無く攻撃を仕掛けてくる。
【アイス・ファング】
【アイス・スラッシュ】
【アイス・ハンマー】
ブリューナクによる攻撃だけでなく、氷の魔法も次々と発動してきた。
その攻撃は、全てアイリーンを直撃する。
「なんで……どうして……」
だが、この程度の攻撃ならば全くダメージにはならない避けるまでもない攻撃だった。
しかし彼女は避けなかったのではない、何故か体が動かず避けられなかったのだ。
「相手は死にぞこないなのに!! 人形なのに!!」
目が見えなければマジカル・スレイヤーは使えない、そんなペネムエを倒すなど、彼女には容易い。
そのはずなのに、必死に自分に向かってくる彼女の姿を見ると、ブリューナクによる攻撃を避ける事しかできなかった。
しかしそんな状況も長くは続かなかった。
「あぁもぅ!! 訳が分からないわ!! でも、もう終わりよ!!」
何故か、やきもきとした自分自信のの心を理解できずイライラした様子のアイリーンだったが、吹っ切れた様子で右手に持つ杖を振り回し、魔法の水を作り出し巨大化させていく。
「くらいなさい!!」
その攻撃を、今もブリューナクによる接近戦を仕掛けているペネムエに向かい放った。
目が見えないながらも、魔力を感じ取ったペネムエは、体の正面でブリューナクを斜めに構え、水球を受け止た。
しかし水球はペネムエを、そのまま後ろへと押し出していく。
「まだです!! まだ倒れません!! あなたが、わたくしを消滅させるつもりなら、消滅するまでは決着じゃありません!!」
ブリューナクは、ペネムエの心に答えているかのように白い輝きを放つ。
その輝きが強くなるに連れて、水球は徐々に凍っていき、10秒も掛かる事なく氷の塊となってしまった。
「真の神の武器であるブリューナクが……人形の味方をするなんて……」
アイリーンの心は、怒りに加え、驚き哀しみが積み重なっていた。
「だけど所詮、神器も道具は道具。
同じ道具である人形が使ったって、その力はたかが知れてるはず……
恐れる必要はないでしょうけど念のため、本気を出しましょうか。
これ以上、苦しめさせるのは流石に可愛そうですし……」
深呼吸をして自分を落ち着かせると、アイリーンは地面に魔方陣を描き始めた。
その魔方陣に、大気など、あらゆる所から魔力が集まって来ているのが、ここにいる誰もが分かり息を飲んでいた。
【ワールド・エンド・フラード】
そこから、アイリーンの最初に生み出されたとは比べ物にならないほどの巨大な洪水が発生し、ペネムエに襲い掛かる。
「リールと同じ、ワールド・エンドクラスの魔法……
万に一つ、わたくしに対応策があるとすれば……修行中にオーディン様から見せて頂いた、あの技しかありません!!」
ペネムエは目を開けていなかったが、呪文が聞こえていたので、放たれた魔法が何なのかは理解出来ていた。
そして、覚悟を決めたように、硫酸で焼けてしまっている目を大きく開ける。
*
「いかん!! ペネムエ!! その技は、まだ無理だ!!」
戦いを静観していたオーディンが身を乗り出し大声を上げる。
「ふーむ、しかし何もしなければ『ペネムエ』は、どのみちアイリーンに消滅ささられますよ。あっ……させられるボーン」
同じ12神官のピエルンはオーディンの反応を、冷静に返すのだった。
*
「自分に向けられた全ての魔力を感じ、その魔力の中心に神器の魔力を流し込む……」
ペネムエは視界がボヤケながらも自分に向かってくる津波を、じっと見つめていた。
その様子は、見る者によっては、全てを諦めてしまったように見えるかもしれない。
だが、その目は決して死んでいなかった。
「今です!! 残ったわたくしの魔力も全てぶつけ、相手の力も倍にして跳ね返す……
【奥義・銀世界ノオロチ】」
ペネムエがブリューナクを一振りすると、津波は消滅し、代わりに巨大な8つの雪の竜巻が発生しアイリーンに向かう。
その迫力に、観客の天使の中には、結界の存在を忘れ逃げ出す者も、いる程だった。
あたりが銀の景色に変わるが、やがて視界が開けてくる。
「やりました……」
これで、また愛する者に会える、ペネムエはそう確信し、その安心感に加え、魔力と体力も尽きたのも合わさり、その場にヘタっと座り込んでしまった。
「そんな……」
しかし、その安堵は一瞬で消え去ってしまった。
視界が開け、目に入ったのは無傷のアイリーンの姿だった。
「今のは流石に寒かったわね……
安心しなさい、宮本翔矢のあなたに関する記憶は消しておくから、帰りを待つ人を裏切る事にはならないわ」
冷たい目で、自分を見下すアイリーンに、ペネムエの覚悟は決まってしまった。
「試験……ありがとうございました」
立ち上がる事が、できないままペネムエは頭を下げた。
「良い心がけよ、最後に言い残す事はあるかしら?」
「……あなたが消せるのは記憶だけ。
翔矢様が……わたくしを家族と言ってくれた事。
わたくしが、翔矢様に抱いた気持ち。
この場で、応援して下さった天使がいた事……
この真実は、わたくしが消えても、記憶が消えても、決して嘘にはなりません!!」
力をふり絞りペネムエは声を上げた。
「そう? じゃあ消えなさい!!」
(翔矢様……申し訳ありません……
もっと、一緒にいたかったです……
もっと、あなたの事、知りたかったです……
それと……この気持ち……伝えたかったな……)
ペネムエの体を、無数の泡が飲み込んでいったのだった。
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