8話:休日から睡眠が始まりそうです
深夜、翔矢が部屋で眠っていると1階からドーーーンと物音がした。
翔矢は驚き目を覚まし、階段を駆け足で下りてリビングに向かう。
そこには尻餅をついて倒れている父親と、ベッド代わりにしている雲から落ちて漫画だったら頭の上をヒヨコが3匹くらい飛んでいそうな状態のペネムエの姿があった。
「翔矢、起こしてしまったか。すまない。少し飲みすぎたのかフラついて転んでしまった」
尻もちを付いた親父が謝ってきたが、状況から見てリビングで寝ているぺネムエに父親がつまずいて転んだのだろう。
魔法の道具の効果で、翔矢以外にはぺネムエの姿は見えないのだ。
しかし父親が飲んで帰ってきたのが好都合だった。酔っぱらったせいだと思っており、これなら簡単にごまかせる。
「親父、しっかりしてくれよなーーー、今日はこのまま寝た方がいいよ」
「そうする、おやすみ」
「おやすみー」
父親は疑問に思うことなく寝室に向かった。
*****
「ぺネちゃん……大丈夫か?」
親父が寝室に入ったのを確認してペネムエに声をかける。
「お騒がせしました。わたくしは大丈夫です。お父様も大事にいたらず安心しました。
しかしここで寝るのは危険ですね。これからは翔矢様の部屋で寝ることにします」
「そうだなーーー」
眠い目をこすりながら2人は部屋に向かった。
*****
そして翌朝。翔矢が目を覚ますと、目の前にはベット代わりの雲から転がってきたのか自分のベッドにペネムエの寝姿が……
(落ち着け……状況を整理するんだ……)
翔矢は、夜中のことを思い出した。
眠すぎて頭が回らなくて適当に受け答えして、この状況を作ってしまった。だが部屋で寝ると言って来たのはペネムエの方からだったはず。
ならば、たぶん……きっとセーフだ。文化の違いという奴だろう。なら仕方ない。仕方ないのだ。
状況を整理して落ち着こうとしたが、隣で美少女が寝ている状況で思春期の男子が落ち着けるわけがない。
とりあえず、他の事を考えよう。ペネムエが翔矢のベッドまで転がってきているという事は、ペネムエがベッド変わりにしている雲は誰も乗っていないはず。
ペネムエには悪いと思いながらも、この機会に雲の寝心地を試させてもらう事にした。
翔矢はベッドからそっと起き上がり、ぺネムエの雲にそっと右足から乗せようとしたが雲に乗る寸前に一端足が止まる。
(これって心が邪悪な人は乗れません。なんてオチはないよな?)
最近は真面目に過ごしているが、少し昔の話になると疾しい事が無い訳ではない。
「誰でも乗れますし、翔矢様はそんな邪悪な心ではないと思いますよ」
「ならよか……うぇぇぇぇぇあああああ」
いつの間にか起きていたぺネムエに、心の声に急に返事をされて驚き、変な声が出てしまった。
「そんなに気になっていたなら、言って下されば乗せてあげますのに」
ぺネムエは呆れたような表情で話す。
「すいませんでした……女の子が寝具として使っている物に乗ってみたいと言うのもどうかと思いまして……」
「まぁ疾しい気持ちでなくて【マジックラウド】に対する興味で乗ってみたいと思っているのは分かっているので大丈夫ですよ。
確か、こちらの世界の人気の漫画や昔話に似た物が登場するんでしたね。」
「はい、それで寝心地や感触に興味を持ち、乗ろうとした次第であります」
ぺネムエは呆れてはいるものの怒った様子はなかった。しかし申し訳なくなり、つい変に堅い言葉になってしまった。
「もういいですよ、乗ってみてください。横になってもいいですよ」
「では失礼して……」
思い切ってマジックラウドという名前らしい雲に横になってみる
使ったことはないがハンモックに近いような寝心地に感じる。
感触はフワフワであったかい。体が雲に埋もれて包まれるおかげで、冬だとしても毛布などいらないと思えるくらい暖かい。
「思考は何となくは伝わってきますが念願のマジックラウドの寝心地はいかがでしょうか?」
そういえばぺネムエには強く思っていることは、話さなくてもだいたい伝わるんだった。
「最高です。今日はもう動きたくありません」
「まだ朝ですよ。ちなみにマジックラウドは別世界の人間が開発した魔法の道具ですが、その国の人々はマジックラウドのあまりにもの寝心地の良さと移動にも使える利便性で歩く事が無くなり、足が衰退して歩けなくなってしまっているので、気をつけてくださいね」
ぺネムエは何故か優しい笑顔をしている。
「へぇ……ってまじかよ」
急に怖くなってマジックラウドから飛び降りた。
「魔法のある世界ではよくある話ですよ。重いものとか魔法使えば持つ必要ないですから手も衰えやすいんです」
「夢も希望もない気分になったぞ……」
魔法のある世界の実情に少しゾッとした。
「肉体強化系の魔法や道具もたくさんあるので、実質ノーマジカルの方と変わらないと思いますけどね。まぁ上級の魔法兵様は牛とか片手で運べます」
「やっぱ魔法の使い手ともなるとすげぇな……でもこっちじゃ道具以外の魔法使えないんだろ?自分の魔法で筋力アップみたいなことしてる兵隊が、こっちの世界に来たらどうなるの?」
翔矢の質問にぺネムエは数秒考えて答えを出した。
「人間は異世界、ましてノーマジカルには簡単に行くことができないので事例は無いですが、恐らくは牛を持てる兵隊様でも御老人並み。民間人は動くことすらできなくなるかもですね」
「やっぱ魔法怖いな……」
「わたくし達からすれば、魔法のないノーマジカルがここしかないのでレア中のレアで異常なんですが、翔矢様の異世界転生阻止のために派遣された身としては少し助かります」
「ところでぺネちゃん?」
「なんでしょうか?」
「マジックラウドとやらに寝かせてもらって難なんだけど、そこは俺のベッドの上だ」
今まで、ぺネムエは翔矢のベッドに正座して話していた。
「こっこれは失礼しました。人間世界の寝具は眠るためだけに設計されているので、わたくしにはこっちも寝心地がいいのです」
ペネムエは目を眠そうにこすりながら話す。
マジックラウドは、移動に使ったりもしているので寝具とは違うのかもしれないが、翔矢的には、最高の寝心地だった。いつも使っている物は慣れてしまって恩恵を感じないとか、そういう感じだろうか?
「それはそうとスクールに行く準備はよろしいのですか?」
そういえば、話し込んでしまったが、いつもなら朝食を食べ終わるくらいの時間だ。
急いで準備をしようとしたが、あることに気が付いた。
「今日土曜日で休みじゃねぇか」
昨日父親が飲んで帰ってきたのも、金曜だったからだ。
まぁ父親は休みの日は、ほぼゴルフに行くので仕事の日より早く出かけたりもするのだが。
「では、もう少し休みますか?」
「だな」
ペネムエは翔矢のベットに、翔矢はペネムエのマジックラウドに、そのまま寝てしまい、再び目を覚ましたのは昼前だった。
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