80話:観戦から出会いが始まりそうです
天界のコロシアムでは次々と試合が行われていた。
会場全体に聞こえる実況もあり、試験というよりもお祭りに近い雰囲気で盛り上がりを見せる。
しかし、それは客席での話。待合室で自分の番を待つ天使たちは、緊張感に包まれていた。
ペネムエは部屋の角で身を潜めた上に、簡単な隠密魔法まで使用し目立たないようにしているが、そんな事をしなくても自分の存在に気が付く者はいないかもしれない。
それでもペネムエは、身を潜め、モニターに映る試合を見つめていた。
*****
「さぁさぁ、注目の対戦カード!!
破壊の魔眼を持つシフィン選手!! 大剣使いのワルパ選手!! そして重力使いのグラビ選手!!
全員がパワーのある魔法の使い手だけあって、激しい戦いが続いております!!
しかし、これだけの戦いでもまだ、3人ともダウンしておりません!!」
すでにコロシアムが半壊している激しい戦いに実況担当の天使のテンションも今日一番の高さになっていた。
「ふん!! さすがに御2人様も手ごわいでごわす」
大剣使いの大男、ワルパは汗をぬぐいながら大剣を一旦地面に突き刺す。
「あぁ……試合が長引く……肩が重い……」
髪が長く背の低い男、重力使いのグラビはガックリと肩を落とす。
「ウチの破壊魔法受けてピンピンしてるとか、おっさん達まじ受けるぅ!!」
薄いピンクの髪でギャル風の少女、破壊の魔眼のシフィンは腕をパンパン叩いて爆笑している。
「小娘が!! ワシはまだ230歳でごわす!!」
「おっさんって……僕まだ191です……年上に見られて荷が重い……」
シフィンの言葉にワルパとグラビはムッっとした様子で反論した。
「十分、おっさんじゃん!! ウケるぅ、ちなみにウチは152ぃ。
ってかさぁ、ウチらの試合長引いてるせいで後の人押してね? ウケるんですけどぉ」
「……後の人に迷惑を掛けるのは、気が重い……」
「では、パワー系の試合らしく、全員の最強魔法をぶつけて決着を付けるでごわす!!」
ワルパの一言を合図に、シフィンとグラビも魔力を貯め始める。
「いくでごわす!! 【テラ・ガイア・ブレイク】」
ワルパが大剣を大きく振りかざすと、大地が大きく割れ、中からマグマが噴き出してきた。
「僕には……А級に上がりたい理由がある。
【テラ・グラビティオ】」
グラビの魔法は人の倍ほどの大きさのブラックホールが発生し、ワルパのワザとぶつかり合う。
ブラックホールにマグマが次々に飲み込まれて行くが、全てが吸い込まれる訳ではなく、残ったマグマは隕石のように降り注ぐ。
「激しい魔法と魔法のぶつかり合いだぁ!! 果たして最後まで立っているのわ誰だぁ!?」
コロシアムは黒い煙で、決着を確認する事は出来ない。
観客たちが息を飲み、煙が晴れるのを待つと、数秒で中の様子が薄っすら見えるようになった。
そして、コロシアムには二人が倒れているのが見えた。
「おぉっと!! 勝ち残ったのは破滅の魔眼を持つシフィン選手だぁ!!」
コロシアムの地面が割れ、砕け散り、ワルパとグラビが倒れる中、シフィンの立っている地面だけは原型を保っていた。
決着が付いた事で、会場からシフィンを称える大きな歓声が上がったが、中には疑問を持つ者もいた。
「あれ? シフィンって子、最後の技のぶつかり合いに参加してたか?」
「何言ってるんだ? 丈夫なコロシアムが、あんだけ壊れてるんだから破滅の魔眼だって……ん?」
「シフィン選手は参加してないよな?」
大きな魔法の激突の迫力に魅入られ、ほとんどの天使は気が付かなかったが、1割くらいの天使はシフィンが最後に魔法を打っていない事に気が付いていた。
「バッカじゃない? おっさん達の魔法にウチまで激突したら、神聖なコロシアムが消滅するっつうの!!
やるなら2人で勝手にやってろって感じ!!」
シフィンはそう言いながら、腹を抱えて笑っていた。
「小娘に負けるとは無念でごわす……」
「僕にА級は、まだ重いということですか……」
深手を負ったものの、意識のあったワルパとグラビは、ゆっくりと起き上がり、結果を受け入れた。
「えぇ、今の試合でコロシアムが粉々になってしまいましたので修復のため一旦休憩とします」
実況の天使が、紙を加えてきた白いフクロウから受け取った内容を読み上げると、客席にいた天使も、飲み物や食べ物を買いにゾロゾロと外に向かった。
*****
今の試合の様子をペネムエも、観戦していた。
(まるで、リールの戦いを見ているようでした……
いまの御三方が、わたくしの相手やなくて良かったです、いや今の試合の以外も凄まじい物でした……
やはり、わたくし程度の者が受けるような試験では……)
戦いを見る度に自信を失ってしまうペネムエだが、それでも自分の一番大切な人が待ってくれている、それが心の支えとなっていた。
「あちゃー、そろそろ出番だと思ったアルけど、休憩になってるアルか?」
ペネムエが考え込んでいると、チャイナ服に似た服を着たツインテイルの少女が隣に立ってきた。
独り言だと思っていたがペネムエの方に話している気がした。
「君、なんでこんな所で隠密の魔法なんて使ってるアル?」
今使っている隠密魔法は簡易的な物なので、見破られてもおかしくないのだが、それでも思わず身構えてしまう。
「あぁ、警戒させてしまったアルネ!! 私は、リンシャっていうアル」
「わたくしは……ペネムエと申します……」
相手が名乗って自分が名乗らない訳にも行かず、ペネムエも自分の名前だけを小声で伝えた。
「ペネムエ? なんか聞いたことのある名前アルなぁ……」
幸い、このリンシャという天使はペネムエの名前を聞いても、その存在を思い出せないでいるようだった。
(お願いですから気が付かないで……)
それでも、アゴに人差し指を当て、上を向き、思い出そうとしているリンシャの姿に不安を感じずにはいられない。
「会場の準備が整いました。次の試合の選手はコロシアムに入場してください!!」
場内アナウンスが流れたことで、リンシャは我に返った。
「おっと、出番アル!! ペネムエ、A級に上がったら、また会おうアル!!」
「はっ、はい!!」
屈託のない笑顔で手を振りながら去っていくリンシャに、思わずペネムエも明るい声で返事をしてしまった。
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