79話:コロシアムから開会式が始まりそうです
天の頂から一番近いコロシアム。ここではA級天使昇格試験の実技試験が行われる。
客席は勉強のための見学に訪れたC級の天使。魔法列車や筆記試験を通過する事の叶わなかったB級天使。
自分と同じ階級に上がる者を見極めようとしているA級天使など様々な事情の天使たちが観戦に訪れ客席は賑わっていた。
そのコロシアムの一番高い所に位置するボックス席には12神官が勢ぞろいしている。
「人形は、筆記試験を突破したようですなぁ」
その1人、クローバーは頭の大きな四つ葉を振りながらアイリーンと話している。
「えぇ、当然のように全科目で満点だったわ」
「知っております、私も魔法薬学の問題を製作しましたからな。
しかし驚きました、満点を取る事を想定した試験ではないのですがなぁ」
「まぁ、私が造ったんですもの。記憶力に関しては右にいる者はいないでしょうね」
「しかし、天界図書館の全てを記憶したからと言って満点など取れるものですかなぁ」
「2人とも、静かに。開会の儀が始まるぞ」
スタジアムの中央に、女神アルマ・アテナの両女神が入って来た事を確認したオーディンがアイリーンとクローバーに静粛を促した。
2つの大理石でできたポール状の台に、アルマ・アテナが浮遊魔法でフワフワと上に上ると開会のあいさつが始まる。
その周りには、これから、このコロシアムで試験を受ける天使たちが整列し息を飲んでいる。
「筆記試験を天使を見事に合格した天使の諸君、まずはおめでとうと言っておこうかのう」
最初に口を開いたのはアルマの方だった。見た目は年齢が2桁にも達していないように見え、声も幼いのだが、少し話しただけでも12神官を含めた場の全員がプレッシャーを感じずにはいられない。
「まぁ例年は筆記とコロシアムでの実技試験のみだったのに、今回は筆記前に余興があったみたいなのよぉ」
アテナは優しい声で演説をしながら、アイリーンのいる方を厳しい目で見上げた。
「まぁA級の天使の任務ともなれば、危険な世界や、人間が強すぎて天の介入が必要無い世界など予想外の事など山ほど起こる。
いや、予想できる事態の方が少ないかもしれんのぉ」
「実技は最初に受験者同士の戦いを行い、さらに勝ち残った者がA級天使と戦い認められれば見事にA級に昇格なのよぉ」
アテナから発表された試験内容に、天使たちはザワツキ始める。
「A級に勝たなきゃ合格にならないって事か?」
「んな事ができるなら、B級にいないっつぅの」
「誤解しないで欲しいのよぉ、実力を認められれさえすれば勝つ必要は無いのよぉ」
「まぁ、もちろん勝ってしまっても構わんがのぉ。
まずは、目の前の受験者同士の戦いを勝つ事だけを考える事じゃのぉ」
その後は、堅苦しい話が続き、開会式は幕を閉じた。
しかし天使たちの頭の中は、A級に実力を認めさせるという部分で埋め尽くされていた。
ペネムエも、その例外ではなかった。
(A級天使……嫌な予感がしてなりませんね……)
*****
開会式終了後、2人の女神は専用の通路をゆっくりと歩いていた。
30メートル程先を歩いているアルマをアテナは強い声で呼びとめた。
「待ちなさい!!」
「お主の方から声を掛けてくるとは珍しいのぉ」
その声にアルマは立ち止まり振り向いた。
「アイリーンは本気でペネムエを亡き者にするつもりなのよぉ!!
あなたは、それでいいの?」
「ペネムエは、わしの側に付いている天使じゃ。随分と気にかけてくれるのじゃのぉ」
「質問に答えなさい!!」
この状況においても落ち着いた態度のアルマに、アテナは怒りを隠し切れなくなっていた。
「わしらには、どうする事もできんのぉ」
アルマは首を傾げその一言だけを言うと、スゥっと姿を消してしまった。
「自分に仕えている天使を、何とも思ってないの……?」
アテナは手のひらに爪が食い込み血が出るほど、自分の手を強く握っていた。
*****
開会式終了時から時間が過ぎ、間もなく試験が始まる。
コロシアムの客席は満員。
控えの天使たちは広いホールに設置されているモニターで、試験の様子を見守る。
ペネムエは、隅の方で簡易的な隠密魔法を使い、目立たないようにしていた。
(試験内容は3人でのバトルロイヤルですか。
戦闘に積極的でないアイリーン様の監督の試験とは思えませんね)
ペネムエもモニターを見つめる中、最初の試合が今始まる。
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