77話:試験結果から呼び出しが始まりそうです
『終点~天界ぃ~天界ぃ~
どなた様も、お忘れ物の無いよう、ご注意くださいぃ~』
キィィィィィというブレーキ音とともに車内アナウンスが流れる。
ペネムエが『異物を排除せよ』という試験内容にしたがい、最後尾のノーマジカル製の車両を脱線させ多くの天使が試験を脱落させたものの、その車両に乗っていなかった天使が全体の7割程度、生き延びていた。
「おびき寄せたと言っても1車両に収まる人数には限界がありますからね」
ゾロゾロと魔法列車から降りていく天使の数が、イメージよりも多かったが、あくまで受験する人数を絞るためのテストなので、むしろこれくらいの人数が生き残る事を想定されていたのかもしれないとペネムエは感じた。
「しまった!! 天界に到着してしまいましたわ!!
試験は? どうなりました? 私は不合格!?」
少し前まで、ペネムエと戦っていたメイジは、ノーマジカルの車両にはいなかったので、落下する事は無く魔法列車の試験は突破していた。
しかし、自分が合格した事に気が付かず大騒ぎをしている。
メイジだけでなくノーマジカルの車両から離れていた者は自分の合否が分かっていない者が多く状況を飲み込めていない者も多かった。
「っと、最初のテストに合格した程度で満足してはいけませんね。
……ノーマジカルで生活している、わたくしに有利な答えでしたし」
自分の合否が気になりつつも天使たちは下車するしかなかった。
ほとんどの天使が下車したのを見計らいペネムエも降りる事にすると、白く広い駅には他にも何台もの魔法列車が止まっていた。
どの魔法列車も、最後尾の車両の連結部分は魔法などで切断された痕跡がある。
通例通り、全員が同じ試験の内容だったのだろう。
「お会いした事は無くても、顔と名前が一致する天使が多いですね……
例年の合格率から考えると、この中の1割も合格するかどうか……」
ペネムエに下された処分は、今回のA級天使昇格試験を受けることのみで結果は関係ないと聞いている。
それでも、試験を突破しA級に昇格しなければ、もう二度と大切な人に会えなくなる。
そんな不安が頭の中を離れなくなってしまっていた。
*****
天界の中にひと際高くそびえる塔『天の頂』
12神官はこの中に、個室の仕事部屋を持っている。
その1人であるアイリーンの部屋に、同じく12神官で緑の4つ葉のような髪が特徴的なクローバーが訪ねていた。
「アイリーン!! 人形は試験を突破したようですぞ?
始末すると言っておきながら、どういうつもりですかな?
辞任ですかな? 辞任!! 辞任!!」
クローバーは顔を真っ赤にして怒りを表に出しながら、机をバンバンと叩いている。
「ははははは!! トリマーはともかくメイジまで退くとは思わなかったわね。
さすが、うっかりとはいえ私が造っただけの事はあるわ」
「笑っとる場合ですかな? 辞任ですかな?」
「いくら人形って言っても見た目も魔力も天使と何の違いも無いもの。
試験の結果はともかく、命まで奪おうとする天使がいると思う?
まぁトリマーは、私が思っていたよりも本気で殺しにかかっていたようだけど。
生き延びたけど、試験は不合格でした!! で次が無くなったら、それこそ始末する機会を失ってしまいますから」
「魔法列車での試験は、人形にはクリアさせるつもりだったと?」
「そうでなければノーマジカルでしたか?
人形の派遣されている世界にしか存在しない車両を、クリア条件に使用したりしないわよ」
「あくまで真神祭が近く多すぎた受験希望者を絞るためのテストだったということですか」
2人の話が続いているとノック音ともに1人の天使が部屋に入って来た。
「誰じゃ!! 取り込み中ですぞ!!」
「ごめんなさい、私が呼んでおいたんです。
彼はゼウ、今回のA級天使昇格試験を受けている天使の1人よ。
試験官の推薦枠で受けているから、魔法列車の試験は免除してあるけど」
「ゼウ? 知らん名ですなぁ」
「そうかもしれませんねぇ。
彼は『ザ・シャイニング』ですから」
「『ザ・シャイニング』? あなたが何年か前に発足した天界学校に変わる教育機関ですか?」
「魔力って、どんな生き物も長生きするほど増えていくから長命な天使って強い方じゃない?
だけど、肉体と精神の成長が人間の10分の1くらいだから教育には時間がかかる。
そこを何とかしようと発足したのが『ザ・シャイニング』よ。
彼は、その最初の卒業生。」
「50人ほどの子供の天使を入れて、卒業はたったの1人?
ザ・シャイニングの施設は閉鎖的で胡散臭い。
まさか、子供たちに非人道的な教育をしている訳ではありませんな?」
クローバーの目は、今までとはまた違った鋭さとなる。
「そんな事をしていたら、それこそ辞任ねぇ。
本来の天使の成長速度を無視して育成している訳だから厳しい事には違いないけど、非人道的って事はないと思うわ」
「ふん!! で? そのゼウとやらを、この場に連れてきた理由は?」
「12神官としての在籍歴の長いクローバー様に、彼の実力を見てもらおうと思いまして。
ゼウ君!!」
アイリーンがゼウの名前を呼んだのが合図となり、雷を体にまとった。
すると、ゼウの姿はバチバチという音を立てて姿を消した。
「瞬間移動? いや、高速で動いているだけですか。
そこまで広くない室内で、姿が確認できないほど高速で移動し続けるとは……
実力は確かなようですが……こいつが何か?」
クローバーは、ゼウの姿が確認できないと言いつつも、目線はキョロキョロと動いており位置を確認できているようだった。
「人形は……俺が殺す!!」
ここまでしゃべらなかったゼウが、クローバーの真横で止まると、ただその一言だけ呟いた。
「ははははは、何か人形に、只ならぬ恨みがあるみたいなのよねぇ」
クローバーは、人形を殺すと断言したゼウよりも、その姿に高笑いを浮かべたアイリーンに狂気を感じたのだった。
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