76話:呆れから突破が始まりそうです
魔法列車の上でのトリマーとの戦いを制したペネムエは、内部に瞬間移動してトリマーの主でもあるメイジと対峙していた。
周りにも試験を受けている天使は大勢いるのだが、ペネムエのブリューナクとメイジの杖がぶつかり合うたびに生まれる衝撃波が強大で誰1人近づこうとはしなかった。
「くっ……ブリューナクの神の魔力と互角に渡り合える杖が存在するとは……」
「あたりまえですわ!! 神剣アンサラーは、まだ受け継げておりませんが、次期女神となる私の前では、人形に使われ宝の持ち腐れとなっているブリューナクなど敵ではなくてよ!!」
お互いに魔法は使用せず武器を振るい、まるで様子見をしているかのようだった。
*
「……お前、メイジ様に助太刀しろよ」
その戦いを唖然と見つめながら1人の男の天使が、隣の天使に耳打ちした。
「あそこの空気が怖すぎて手出しができない、ってかしたくない」
おそらく、この場にいる天使全員が同じ気持ちだったのだろう。ほぼ全員がB級の天使でペネムエよりもランクが上であるにも関わらず、2人の戦いに横やりを入れて来る者はいなかった。
*
「はぁ……はぁ……」
「さすがはアイリーン様の造った人形、戦いはそれなりにできますわね……」
数分間の亀甲が続き、2人には疲労の色が見えてきた。
しかし、体が小さい上にトリマーとの戦いを終えたばかりのペネムエの方が明らかに消耗していた。
「一応は、わたくしの力を褒めて下さったと受け取っておきます」
「神獣化したトリマーを倒し、ろくに回復もせずに私と張り合っているのですから当然ですわ」
「このままでは勝ち目はないので、そろそろ魔法を解禁させて頂きます!!」
ペネムエは瞬間移動でメイジの後ろに回り、ブリューナクで突きを仕掛けた。
「……えっ?」
しかし、その攻撃はメイジに届く事はなく、反対にペネムエの腹部に槍が貫通したかのような穴が開いていた。
「甘いですわね!! せっかくブリューナクを持っているのに、この程度の反射魔法を許してしまうなんて。
瞬間移動を使える者が死角から攻撃を仕掛けてくるのは当然の事!! 分かっていれば大した事はなくってよ!!」
腹を抱え膝を付いたペネムエを見下ろしながら、メイジは勝利を確信したような顔をしていた。
「流石に強いですね……わたくしを見た途端にトリマー様は我を失ったかのように怒り任せに攻撃をしかけてきたのですが……」
「トリマーは私に忠実すぎるところがありました。あなたが人形の分際で神器を継承した事に不満を持っていたようですが、あなたがブリューナクを継承したしないは私のアンサラー継承には関係ない事ですわ」
「意外ですね……メイジ様にはもっと嫌われていると思っておりましたが」
「あなたの存在については天使として認める訳にはいきません!! ですが神器を継承できなかったのは私に至らない点があったから。
そこを人形がどうこう言うのは違うでしょう?」
「わたくしも、あなたを誤解していたようですね……
さすがに回復させて頂きますか」
ペネムエは立ち上がり、目を閉じて両手を広げると空から銀色の光の粒子が降り注ぎ見る見るうちに体の傷をふさいでいった。
「回復した所で、あなたの実力では私に勝つことは不可能ですわ!!」
メイジは500円玉ほどの大きさの鏡の破片を無数に生み出した。
鏡からは光の光線が一斉に放たれる。ペネムエはブリューナクで氷の壁を生成し防ごうとした。
「しまった!!」
しかし光は氷の中を反射し何重にも拡散されてペネムエを直撃した。
「せっかくの回復が無駄に終わってしまいましたわね、私の光魔法の前では氷の防御など不可能!! どんなに強大な魔力で生み出した氷であっても、氷の性質は変わらないのですから」
「えぇ、実力で負けている上に相性も悪くてはどうしようもないですね」
ペネムエは体のあちこちに追ってしまった火傷を、ふたたび魔法で回復した。
「あら? 負けを認めますの?」
「そうするのが賢いかもしれません、回復できるといっても攻撃を食らってしまえば痛いですし苦しいし魔力に限界もあります。
でも……それは、これが戦闘能力を測る試験だった場合の話です!!」
ペネムエは回復を終えると、すぐに後ろの車両に駆けて行った。
「ふん、得意の瞬間移動を使う魔力も残ってないのですの? アンサラー以外の神器がどれほどの威力か、もう少し体験してみたかったのですが……使い手があの程度では話になりませんわね。
この程度の相手に神獣化を使って敗北なんてトリマーには後で言って聞かせなければいけませんわね。
みなさん、後は任せますわ」
拍子抜けしてしまったメイジは、今が試験中であるのも忘れて自分の席へ戻っていってしまった。
*****
「何だか分からないけどラッキーだぜ!!」
「あぁ、あんな戦いの中には正直入って行けないからな」
「メイジ様はもちろんだが、人形も使える魔法の種類だけなら女神様クラスだし、何より神槍ブリューナク。
ちょっとやそっとの氷耐性だと使用者も、カッチンコッチンに氷っちまうって話だからなぁ」
「だが、メイジ様は試験中って事も忘れ席に戻っちまっている。
体力も魔力もゼロに近い人形なら、ブリューナクを持っていても大した事ないぜ!!」
そんな事を話しながら、魔法列車内にいた、ほとんどの天使がペネムエを追っていく。
といっても、列車の端から端まで駆け足で移動するのに掛かる時間などたかが知れている。
天使たちは、すぐにペネムエの姿を目で捕らえた。
獲物が視界に入った事により天使たちの足取りは一層早くなる。
『ガタン、ゴトン』
「おっと!!」
「おい!! 気をつけろよ!!」
「悪い……」
しかしペネムエのいる最後尾の車両に入った途端にバランスを崩し何人かの天使はよろけてしまう者が現れた。
急ぎ歩いていた中で、不意に止まってしまったので、あちこちで天使がぶつかったりしている。
『次は~終点、天界ぃ~天界ぃ~』
ちょうど、そんなタイミングで車内アナウンスが入ってきた。
「やべぇ……」
「たぶん、天界に到着したら時間切れだよな?」
「そうなったら、私たち全員不合格?」
アナウンスを聞いた天使たちの中には、焦りから軽いパニックに陥ってしまうものも現れた。
「失礼ながら、試験はもう終了しております。
『異物を排除せよ』は、わたくしが実行しておりますので」
たくさんの天使が押し寄せても沈黙を貫いていたペネムエが、ここでようやく口を開いた。
「なにを!!」
「人形のくせに生意気だぞ!!」
「悪いな、この試験の合格は俺たち用なんだ!!」
「まだ時間は残ってる!! 一斉攻撃だ!!」
天使たちは一斉に攻撃魔法を放った。
しかし、それらの攻撃は属性などを問わずにペネムエの体をすり抜けていく。
「しまった!! 幻術か!!」
「逃げて時間を稼ぐ気か!!」
だが、後ろの車両にペネムエがいる事に気が付いた何人かは、即座に振り返った。
「今更、初対面の天使に人形と言われても何とも思いませんが、頭に血が上ってしまっては、勝てる相手にも勝てませんよ?」
ペネムエがそう言ったのと同時に、大量の天使が乗っていた車両がグラリと揺れて、レールからはずれ次元の裂け目から落ちてしまう。
「な、なんてことを!!」
「連結部分を破壊しやがったのか!!」
それでも、飛行魔法で飛び車両に戻ろうとする天使は大勢いた。
「なっ……」
しかし上手く飛ぶことができず、車両と同様に次元の裂け目の中で落ちて行ってしまった。
「『異物を排除せよ』の異物は最後尾の車両の事です。
その車両だけは、ノーマジカルの列車と同じ物、魔法の安全装備が何も設置されていないので揺れも激しく立っていられなくなったのです。
いかにそれに早く気が付き、他の天使をおびきよせ車両を落とすかの試験……飛行魔法の類は使用できなくなっていた様ですね」
ペネムエは、そう呟きながら落下していく列車を見つめるのだった。
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