74話:神槍から怒りが始まりそうです
ペネムエがトリマーの攻撃から逃れている頃、魔法列車内部でも捜索が行われていた。
「ここは次元の狭間、まだ列車にいるはずです!! みなさん、忌々しい人形を探すのです!!」
すっかり、この場のリーダーのようなっているメイジは大きな声で指示している。
しかし100人以上もの天使が乗っているので必ずしもメイジを知っている者ばかりではない。
*
「なんであいつ仕切ってるんだ?」
この男の天使はペネムエを捜索はしているもののメイジが指揮しているのには懐疑的だった。
「お前知らないのか? メイジ様は、12神官のオーディン様の孫娘なんだぜ」
隣にいた別の男の天使は、その質問に答えてみせた。
「はっ? あの戦闘能力じゃアイリーン様にも匹敵するっていうオーディン様の? それで若いのにB級天使なのか」
「コネ無しにしても実力は確からしいぜ、次期女神候補の筆頭さ!!」
「そりゃ今回の試験も楽々クリアだろうな、いくら人形って言っても見つかったらどうなるか……少し同情するぜ」
コソコソと会話をしながらも2人は他の天使と同じようにペネムエの捜索を続けるのだった。
*
メイジも、もちろんペネムエを捜索しているのだが彼女は他の事を気にかけていた。
(トリマーの姿が見えない……いったい何処へ行きましたの?)
幼い頃から自分の使用人として働いていたトリマーが、急に姿を消してしまった事に不安を覚えていたのだった。
*****
一方そのトリマーは、魔法列車の屋根の上でペネムエを追っていた。
「列車の中に行けば大勢の天使。かといって屋根の上では隠れる場所はありません。
観念してはどうですか?」
確実に列車の最後尾の方へと追い込まれているペネムエにトリマーは冷たい声で語りかける。
「降参したら見逃して下さるのでしょうか?」
「さぁ? 『異物を排除せよ』の『排除』が、どの程度を意味しているか分かりませんからね」
すでにペネムエとトリマーの距離は数メートルまで詰まっていた。
トリマーは指の間に針を構え、今にも攻撃を仕掛けて来そうな体勢だ。
「であれば少し抵抗させて頂きましょうか、あなたの目的は分かりかねますが、ここに来るまで誰も呼ばないという事は、助っ人を呼ぶ気は無いのでしょう?」
ペネムエは、追いつめられても落ち着いた様子で答える。
まるで、ここまでの状況を想定していたかのようだった。
「排除の意味も合格人数も分かっていませんからね、まずは私があなたを始末して本当に合格になるか試させてもらいます!!」
トリマーは勢いよく無数の針を放った。
(トリマー様を相手に魔力を抑えながら戦うには、これしかありません!!)
「ブリューナク!!」
ペネムエは魔法のポーチから取り出した神槍ブリューナクで強烈な吹雪を生み出し防いでみせた。
「この魔法列車は最先端の安全装置が搭載されているようです。2人で全力でぶつかっても下に振動が伝わる事はないでしょう」
「苦しまないように死ねるよう、せめてもの情けをと思ったのですが……
人の親切は素直に受け取るものですよ?」
今のの言葉と、散らばった針でぺネムエは、トリマーが本気で自分の命を奪いに来ているのだと確認できた。
針には全て即効性の毒が付与されていたのだ。天使の体といえど1針でも当たっていたら無事だった保証はない。
「どうしてここまで……」
天界でのペネムエは、無視や嫌がらせは日常的に受けていた。
それでも被害は、回復魔法でギリギリ修復が間に合うくらいの物だった。
トリマーが使えているメイジも、例外ではなく、その範囲の嫌がらせだった。
しかし、トリマーに関しては大怪我になりかねない嫌がらせを、今まで何度もペネムエにしてきていたのだ。
「あなたが……あなたが……人形の分際でぇ!!」
トリマーはペネムエの疑問に答える事無く、針を放ち続けた。
だがブリューナクは神の道具の一つ。これらの攻撃から吹雪でペネムエを守るなど造作もなかった。
「はぁ……はぁ……」
大量の魔力を消費したトリマーは、息を上げ始める。それでも攻撃を止めようとはしなかった。
「冷静な、あなたらしくもありませんね、針による攻撃は応用範囲は広いですが、1つ1つの威力は高くありません。
ブリューナクの前では、わたくしに当てる事は叶いませんよ?」
「黙れ!! ブリューナクが無ければ何もできないくせに!!
どんな手を使ったか知りませんが、人形のお前が神槍を手にするなんて認めない!!」
トリマーは残った魔力を振り絞り、針を放とうとする。
だが、すでに魔力は尽きていたのか、その魔法が発動する事は無かった。
「ちくしょう!! 神槍が無ければお前なんか!!」
膝を着き、泣き崩れるトリマー。
その姿を見たペネムエは、他の天使が自分を醜いと思っているのとは違う何かを感じたのだった。
*****
天界学校の卒業式の日。
トリマーとメイジは帰り道を2人で歩いていた。
「メイジ様、ご卒業おめでとうございます」
「何言ってるんですの、トリマー。
同級生だから一緒に卒業したのに、おめでとうは変な気分ですわ」
「私としては、代々メイジ様の家系に仕えてきた一族の誇りがありますので、祝うのが当然なのですが……」
トリマーは納得の浮かない表情を浮かべた。
「まぁ無事天界学校を上位で卒業したからには、おじい様から神剣アンサラーが受け継がれるはずですわ!!
その時は盛大に祝ってくださいな!!」
「かしこまりました!!」
メイジは天界学校を7位の成績で卒業していた。
なので一家に代々伝わる神剣アンサラーを12神官の1人でもある祖父のオーディンから継承できる。
そう2人は信じていた。
*
「メイジよ、残念だがお前に神剣アンサラーを継承させる事はできん」
しかしオーディンの決定は残酷なものだった。
「なぜです!! おじい様!! 1位では無かったからですか?」
半分泣き目になりながらもメイジは必死に訴えた。
「そんなにも神剣アンサラーを継承したいのか?」
オーディンは厳しいまなざしでメイジを見つめる。
「私はいずれ女神になってみせます!!
そのためには、アンサラーの力が必要なのですわ」
「ふん、次期女神か。
天界学校は卒業しても10年間は研修として学校に席を置くことになる。
その間に結果を出せば、神剣アンサラーの継承を考えんでもない」
それから7年後にペネムエは神槍ブリューナクを継承、メイジは未だに継承を許されていない。
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