73話:いじめから再会が始まりそうです
ペネムエは魔法列車の上から内部の様子を、魔法で強化した五感を頼りに探っていた。
今回の試験の内容である『異物を排除ぜよ』の意味が分かったペネムエは油断もあったのか、背後から近づいている無数の針に気が付いていなかった。
その針の存在にペネムエが気が付いた時には、すでに背中に千本近い針が突き刺さっていた。
いや、刺さっているだけでなく、数百本は体を貫通してしまっている。
「がはっ……」
ペネムエは血を吐き出しながら地面に両手と膝を付き倒れ込んでしまった。
すぐに起き上がる事はできなかったが、顔は針の飛んできた方向を見つめる。
「ちゃんと心臓を貫いたと思ったのですが……残念です」
視界がぼやけてしまいハッキリと姿は見えないが針の魔法と声でトリマーだと分かった。
「トリマー様……メイジ様は一緒ではないのですね」
痛みをこらえながら、相手に覚られないようにゆっくりと起き上がろうとした。
「貴様ごときがメイジ様の名を口にするな!!」
ペネムエが、あと少しで起き上がろうかというタイミングで、一層表情が険しくなったトリマーはペネムエの顔面を思いっきり蹴とばした。
蹴られた体は宙へと舞い、屋根に体が付いてもゴロゴロと勢いよく転がる。
「ぐっ……御一人で来られたのが珍しいと思っただけですよ。
失礼ながらメイジ様がいなければ、何もできないと思っておりましたので」
ダメージは受けてしまったが、転がったおかげでトリマーと距離を取ることができたペネムエは、しっかりと立ち上がることができた。
すでにペネムエの目つきは、翔矢には見せることが無いであろう鋭い物になっていた。
「本当に失礼ですね!! いつから、私にそんな口が利けるようになったんですか?
天界学校にいた頃は、怯えるばかりで無視するのが精いっぱいだったくせに!!」
トリマーの目も、ペネムエとは違った鋭い物になった。
もっともこちらは敵意よりも軽蔑の感情が強く表れている。
「別に精いっぱいだった訳ではありませんよ。
それが正しい事だと思っていた……いえ、自分に言い聞かせていただけです」
ペネムエとトリマーは、そのまま睨みあった。
*****
時はペネムエが、天界学校に通いリールと友達になったばかりの頃に遡る。
今は授業中で、生徒の天使たちは全員教師の方に顔を向け真剣に授業を聞いている。
「であるからしてぇ、ゲートを通る事ができるのは魂だけである。
我々は普段は意識しないが、天使というのは実態のある魂のようなものなので様々な世界に行ける訳だ。
例外として悪魔族はゲートを使用せずに世界を移動する術を使えるので、肉体を持っていても世界を移動できるのだな」
そんな授業をペネムエも受けていた。
しかし、その顔は苦痛を堪えているような表情をしている。
「こら!! にんぎょ……ペネムエ君、聞いているのかね!!」
「もっ、申し訳ありません」
集中を欠いている事に気が付かれ、教師から注意を受けたペネムエは立ち上がり頭を下げた。
そんな様子を生徒たちがクスクスと笑い者にしたが、離れた席で授業を受けていたリールだけは違和感を覚えて見ていた。
*
授業終了後、リールはペネムエの席に急いで駆け寄った。
「リール、どうしましたか? 授業で分からない所でもありましたか?」
ペネムエは自分の席に座ったまま、平然とした様子でリールに話かける。
「どうかしましたか? じゃないわよ!!
ってか、どうかしたのはペネムエの方でしょうが!!
さっきの授業、様子おかしかったじゃない!?」
「わたくしだって集中を欠くことはありますよ。
昨夜は徹夜して本を読んでしまったんです」
このリールの質問にペネムエは表情を変える事無く答えた。
「……あんた、ちょっと背中見せなさいよ!!」
ペネムエの一言で急に強い口調になったリールは、ペネムエの服の襟を後ろから思いっきり引っ張った。
「キャッ、何するんですか!!」
「あれ? 何もない?」
しかし服の隙間から、あらわになったペネムエの背中は、白く綺麗な肌だった。
「あっ、当たり前じゃないですか」
急に服を引っ張られたら怒ったりしそうなものだが、ペネムエは苦笑いをするのみだった。
「ごっごめんなさい……でも何か困った事があったら相談しなさいよ」
「そうですね、しいて言うなら急に服を脱がされそうになり困ってしまいました」
「うっ、本当に悪かったわ……」
そのペネムエの返事には、さすがのリールも落ち込んでしまった。
「じょっ冗談ですよ!! 困った事があれば相談させて頂きます!!」
冗談が通じなかった事に今度はペネムエが、あたふたと動揺してしまった。
「約束よ!!」
「はい!!」
こうして2人は約束を交わし、リールは安心した様子で教室を後にした。
*
リールが教室を去った後、1人になった教室でペネムエは俯いてしまっていた。
「……わたくしは、困ってなんていません」
そう小さく呟くとペネムエの背中から、魔方陣がすぅっと体から抜けるように消えて行った。
「覚えたての幻術でしたが、強大な魔力を持つリールの目も欺く事が出来ました」
ペネムエの背中には無数の針の跡が残っていた。
微弱ながら毒も付着していたのか紫色に変色してしまっている所もある。
「確かに授業中、後ろの席のトリマー様から魔法による攻撃っを受けていました。
でも今日の授業は、すでに本で読んだ事のあるところでした。
勉強に支障はありません。
それに……覚えたての幻術を試す機会が出来ました……
傷跡を治すのに回復魔法の練習にもなるでしょう。
だから……わたくしは困ってなんかいません……」
教室に、すでにリールはいないのだが、自分の顔を誰かに見せないように下を向いた。
そして自分の机に手を当てると、さきほど背中にかけていたのと同じ魔方陣が机から抜け出てきた。
すると机には、目を覆いたくなるような言葉が、ぎっしりと書かれていたのだ。
「これも、修復魔法の練習に最適です……
定期的に、こういう事をして頂いた方が魔法の成長度を把握するのに都合が良いのです……」
そう自分に言い聞かせるように呟きながら、机に修復魔法を使い1分ほどで元の状態に戻した。
「元に戻せると言っても自分で汚してしまうのは気が引けますからね……
これは、わたくしの成長に必要な事……なので困ってません……」
ペネムエの声は震えていたのだった。
*****
ペネムエは、そんな過去の事が頭をよぎりながら、トリマーと睨みあっていた。
「卒業してから会ってませんでしたからね。
もちろん、あなたのような汚らわしい存在を見ないに越した事はなかったのですが……
それでも、私への恐怖を忘れていたのは不愉快です!!」
トリマーは怒りの表情とともに、再び無数の針を放った。
その針はペネムエの体をすり抜けていった。
「幻術……結局は逃げる事しかできないようですね!!」
自分が攻撃した相手が幻だと気が付いたトリマーだが心を乱すことなく、うでに3両目の屋根まで逃げていたペネムエの姿を追い始めるのだった。
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