7話:厨二から部活が始まりそうです
「翔矢様。授業はすべて終わったようですが、これからどうするのですか?」
授業はいつもと変わらず終わり、今は放課後。
ペネムエは学校の廊下を、徒歩で翔矢にぴったりくっついて移動している。
姿は翔矢以外には見えないので、くっついていないと誰かにぶつかってしまう可能性があるからだ。
翔矢は美少女に密着されて歩くのは悪い気はしなかったし、むしろ嬉しかったりした。
しかしペネムエの質問にはどうやって答えようか? ペネムエの言葉は魔法の道具とやらで姿と同じく翔矢にしか認識できないが、翔矢がペネムエに話すのは対象外。
廊下にはそこそこ人がいるので、いま答えるのは変な独り言に思われるし、かといって無視するのも忍びない。
「あっわたくしに話したいときは心の中で思って頂ければ伝わりますので」
いわゆる、『こいつ頭に直接話しかけてやがる』という事か。
この場合頭に直接話しかけるのは翔矢でペネムエは普通に口で話しているのだが。
「ちなみに今までのも全部聞こえておりました。これだけくっついて歩くのは不快に思われないか不安でしたが、逆に喜んで頂けて光栄でございます」
今までのを全部聞かれていたというのか? すごく恥ずかしい。普通の女の子ならセクハラ扱いになるようなことを考えていた気がするが、ペネムエは嫌な素振りを全く見せない神対応。
(ペネちゃんマジ天使!!)
「ペネちゃん? わたくしのことでございますか? なんだか可愛いあだ名を頂きありがとうございます。そしてわたくしは本当に天使でございますよ?」
勢いで心の中で言ったあだ名を気に入られてしまった。すごく恥ずかしいが、これからはこの名前で呼ぶべきなのだろうか? 翔矢は少し恥ずかしくなった。
しかし伝えたくないことまで伝わってしまうのは恥ずかしいし不便だ。会話も進まない。
ペネムエの性格じゃなかったら大惨事になる所だったかもしれない。
「申し訳ございません。心の声が聞こえるのは道具などでなく天使の体質みたいなものなのでしてどうする事も……わたくしの事を考えないときの心の声までは聞こえないのですが……翔矢様の意識と慣れで会話したいときだけ話せるようには、なるはずですが……」
一応、意識と慣れ次第で思考が筒抜けになるのは避けられるらしい。
難しい事は置いておいてとりあえずさっきの質問に心の声で答えてみることにした。
(話が進まなくなっちまったが、今から部活に行くんだ)
「部活という言葉は初めて聞きますが、イメージで伝わってきます」
うまく用件だけ伝えられたのだろうか? 部活の意味まで通じたということは、単に言葉が伝わってるというより、伝えたい事のイメージが湧いている感じなのかもしれない。
「いまは、ぴったり密着しているので心の声が聞こえやすいだけで、普段の距離なら、そこまで筒抜けにならないので安心してくださいまし。逆に翔矢様が本当にわたくしを呼びたい場合は多少の距離があっても声が届きます」
慣れればかなり便利な能力だと思うが、受けとる側より伝える側の能力が問われるというのが、面倒なところだ。
どれくらいの間、ペネムエと生活をする事になるのか分からないが、これは早く慣れなければいけないと思った。
このテレパシー的な能力について練習しながらしながら部活に向かった。
*****
「大魔王め覚悟しろーーー」
現在、翔矢は部活中。だが決して演劇部などではない。所属している部は剣道部だ。
向かってくる相手に対して翔矢は、思いっきり面を入れた。
「ぐののののーーー。おのれ大魔王。次こそは我の『聖剣インフィニティエクスカリバー』で引導を渡してくれる」
今、翔矢を大魔王扱いして竹刀を打ち込んで来たのは、一年の後輩『阿部瑠々』だ。
名前の通り女子である。
剣道部は男女合わせて6人しかいないので合同で練習している弱小部だ。
個人戦の大会には一応出場しているが団体戦は人数が足りなく出場できない。
廃部になってもおかしくない状況だが、何十年も前は、そこそこ強豪校だったらしく学校としても廃部は避けたいらしい。
「誰が大魔王だ」
「貴様の悪行は聞いているーーー。また完全体に覚醒する前にこの『聖剣ギャラクシーグングニル』で、とどめを刺さなければーーー」
「さっきはインフィニティ何とかって言ってただろ……あとグングニルは確か槍の名前じゃなかったか?」
「うっうるさーーーーーい。バーーーカバーーーーーカ」
瑠々は防具の面を外してたあと、翔矢を罵倒し始める。
「先輩に向かって馬鹿とは何事だ。大魔王もダメだが」
翔矢は竹刀で瑠々の頭上を軽くペシペシしながら注意する。
「やめろーーー!! 防具外してる時に竹刀ペシペシはやめろーーー」
あくまで軽く叩いただけだが、瑠々は痛そうに頭を抱えている。
「おい翔矢。あんまり瑠々をいじめるなよー」
翔矢を注意したのは、3年の渡辺健吾先輩。この剣道部でただ一人ちゃんと剣道をやっているといってもいい先輩だ。
「いや、例のごとく瑠々がちょっかい出してきたんで……」
さすがに先輩には強く言い返せないが、いつも突っかかって来るのは瑠々の方だ。
しかし竹刀ペシペシは普通の剣道部なら厳重注意なので可能な限りひかえようと思った。
ちなみに顧問の先生はくじ引きで決めたらしく剣道のルールもほとんど知らないし武道精神的な事で注意されることはまずない。
怪我なく、みんな元気ならそれでOKというタイプの先生だ。
「可愛いんだから、これくらい許してやれよ」
「そんな理由で許されるなら警察はいりませんよ。先輩」
「でも可愛いとは思うだろ?」
翔矢は瑠々を一瞬見て答えた。
「そうですね。しゃべらなくて動かなければ可愛いと思います」
「さすが大魔王、容赦ない意見。だが我は男子から何度も告白されておるぞ」
まぁ小柄で見た目は可愛いので、告白されたのは嘘ではないんだろう。
「それで誰かと付き合ったのか?」
別に、どっちでもいいんだが話の流れで聞いてしまった。
「我と同等の魔力を持つものがいなかったので全て断った」
どんな奴らが告白したのか知らないが、可愛そうに。いろいろな意味で。
「あぁ魔力が足りないならしかたないな」
瑠々に話を合わせたのは、渡辺先輩。優しいというか女に甘い人だ。
「まぁ我と同等というのが難題なのだがな」
「ちなみに俺と翔矢の魔力とやらは?」
(いや、なに話広げてるんだこの人は)
「うむ、渡辺先輩はそれなりに高いが我には及ばぬ。大魔王は魔力だけなら同等だが闇の魔力なので却下」
「……練習をしましょうよ」
忘れてはいけない、今は部活中。
「それもそうだな、大魔王よ。我と決闘だ」
訳:翔矢先輩試合しましょう。
「まぁ試合は全然OKだが」
「我が勝ったら改心して我の弟子になれーーー」
「これでも『改心』は、昔にしてるつもりなんだけどな……弟子は嫌だが……俺が勝ったら?」
「我に敗北はあり得ぬが、まぁその時は何でも言うこと聞いてやろう」
「おっ言ったな」
翔矢はニッコリと笑みを浮かべる。
「翔矢……おまえ瑠々にどんな鬼畜な事を要求するつもりだ」
健吾が引いたような顔で翔矢を見る。
「さぁなんでしょうねーー」
渡辺先輩、心配は無用。正義に敗北はない」
お互いに準備をして試合開始。
*****
「メーーーン」
勝負は一瞬だった。
「おまえ何で、この条件で試合しようと思ったんだよ」
翔矢は笑いをこらえながら話す。瑠々はお世辞にも強いとは言えない。というより今まで一度も勝ったことがない。
「ぐぬぬぬ、約束だ。煮るなり焼くなり好きにしろ。だが私の体は自由にできても心まではーーー」
「脱がすのか?脱がすのか?」
健吾は妙に嬉しそうにしている。
「そんな外道な事はしませんよ」
「翔矢先輩……でも体で払えないとすると、私財布に1000円くらいしかないです」
さっきまでの威勢はどっかにいき『翔矢先輩』呼びになった上に人が変わったように急にオドオドしだした瑠々。正直、常にこれなら可愛いと思う。
「あなたたち二人の中での俺のキャラどうなってるんだよ」
体か金の択になっているような話の流れに呆れて頭をかかえる。
「「だって昔は」」
「わーーー!! 要求言う!! 要求言う!!」
二人がハモってあることを言い出しそうになったので、翔矢は慌てて話をさえぎって続けて要求をいう。
「瑠々は今後、俺を大魔王扱いするの禁止で。さっきの『翔矢先輩』は気分良かったからそっちで呼ぶこと」
そもそも、その呼び方が普通なので、それで気分良かったというのもおかしい話な気もする。
「よかろう、大魔王の封印に成功した。翔矢先輩。これからは共に戦おう!!」
「いや、何とだよ……」
とはいえ、瑠々から入部して以来初めて大魔王以外の名称で呼ばれた。
(これも天使のご利益か?)
そう思いペネムエの方に目をやると、道場の掛け軸の前で正座して、時々紅茶を飲んでいた。
(……ペネちゃん効果ではなさそうだな)
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