72話:切符から試験が始まりそうです
クラウディアに到着して2日後、ペネムエは再び魔法列車の停留所に来ていた。
そこには2日前とは違い100人近い天使の姿があった。
その天使たちの様子をペネムエは木の陰に隠れて見つめていた。
「真天祭が近いので多いだろうとは予想していましたが、1つの世界にこれだけの天使が集まろうとは……」
天使の多さに驚き、停留所に行くに行けず、ペネムエはこの場を動けない。
なので魔法列車の到着を、この場で待ち最後に乗り込む事にした。
(リールがいてくれたらなぁ……)
十数分後、魔法列車が無事到着したがペネムエには、この時間が何時間にも思えた。
「誰にも気が付かれずに、やり過ごせました」
天使たちが全員、魔法列車に乗り込んだのを確認すると、自分の服を目が隠れるくらい深いフードの付いたデザインに変えて、それをすっぽりと被り自分も乗り込んだ。
*****
「席はここですね」
深いフードを被ったまま、切符に書かれた自分の席を確認して席に座る。
「しかし移動魔法が発展した現代でも、このような立派な魔法列車が残っていたとは驚きです」
顔が見えないように注意しながら列車の内装を見渡す。
「この魔法列車であれば翔矢様もガッカリは、なされなかったでしょうか……」
ノーマジカルでトロッコ式の魔法列車を見てテンションが下がってしまった翔矢の顔を思い出しながらポーチから試験勉強用の本とティーセットを取り出した。
筆記試験には自信があったが、本を読みながら大好きな紅茶を飲めば天使だらけの魔法列車の中でも気が紛れるし、顔も隠れて自分に誰も気が付かないだろうと思った。
もっとも、他の天使たちも試験で頭がいっぱいで、気が付かれる心配はしなくてもよさそうだったのだが、それでも、天使が近くにこれだけいると気持ちが落ち着かない。
本を数分間読んでいると、後から2人の女性の天使が乗車してきたのに気が付いた。
(そういえば、まだ出発していませんでしたか。
わたくしが最後ではなかったのですね)
乗車してきた天使に一瞬だけ目線をやると、すぐに目をそらした。
1人は金髪で巻き髪にピンクのドレス。もう1人は黒髪にタキシードを着たボーイッシュな女。
この2人には、嫌と言うほど見覚えがあったのだ。
自分に気が付かないように祈りながら本のページをめくったり、紅茶を飲んだりして気持ちを落ち着かせた。
そして金髪巻き髪の女はペネムエの真横まで来ると、こう言い放った。
「トリマー、この列車なんだか匂いませんこと?」
金髪巻き髪の女は、黒髪タキシードの女、トリマーに問いかけた。
「それはですね、メイジ様。
これが『異物を排除せよ』の答えだからでしょう」
トリマーはペネムエの方向に手をかざすと灰色の魔方陣を展開した。
そこから無数の細長い針をペネムエの顔に目掛けて放たれた。
しかし、ペネムエはこれを予想していたかのように顔の前に氷の壁を作り出した。
トリマーの放った針は、全て氷の壁に刺さり防がれた。
ペネムエは2人をギロリと睨みつけた。
「あらあら、どおりで汚らわしい匂いがすると思ったら人形がおりましたのね!!」
金髪巻き髪の女メイジは、ペネムエに直接的に攻撃をしようとはしないが、この車両にいる全員に聞こえる大きな声でペネムエの存在を告げる。
「なんだって、あの人形が?」
「この列車は呪われるんじゃないのか?」
「こんな、汚らわしい魔法列車に乗っていられるか!! 俺は降りるぞ!!」
などと乗車している天使たちが一斉に騒ぎ始めた。
「恐れることはありませんわ!! すでに試験は始まっているのです!!」
騒いでいる天使に対し演説するかのような雰囲気でメイジは話を続けた。
その後にトリマーが続く。
「切符をご覧ください!! 最初は何の変哲もありませんでしたが列車に全員が乗ると文字が浮かび上がる仕掛けになっていたようです」
トリマーの言葉に全員が一斉に切符を確認する。
ペネムエも自分の切符を確認すると、こう記されていた。
『異物を排除せよ』
「毎回1次試験は筆記が定番でしたが今回は試験の受験者が多かったので、受験者を絞り込む目的があったのでしょう。
そして今回の試験の責任者は、あのアイリーン様。であればこの問題の答えは1つですわ!!」
まるでメイジの言葉が合図になったかのように、一斉にペネムエに敵意が向けられる。
そして、ほかの車両からもゾロゾロと天使が集まってきた。
(しまった……さっきの話、乗客全員に拡散されていたんだ)
あっという間にペネムエの周りは天使でいっぱいになってしまった。
この全員が自分に敵意を持っていると思うと、さすがに背筋が凍ってしまう。
「さて、排除と言ってもどうすれば排除した事になるんですかね?」
トリマーは天使とは思えない冷たい目でペネムエを見つめる。
「そんなの、アイリーン様の事ですから命を奪う事に決まっていますわ!!
まぁ命と言っても、これの場合は命と呼べる物じゃありませんし」
メイジは、さっきのトリマーの魔方陣よりも目に見えて強力だと分かる規模の魔方陣を展開した。
メイジだけではない。大勢の天使たちが攻撃の準備を始めていた。
(まずい……)
さすがに、この人数が一斉に攻撃してくるのは予想外だった。
炎に水や岩、雷に植物など多種多様な攻撃がペネムエ1人に向かって放たれる。
恐らくは、この天使たち全員がB級の天使。
1人1人が強力な魔力を持っており1対1だったとしてもペネムエが勝てる相手は一部だろう。
放たれた魔法がぶつかり合うと、巨大な爆発が発生する。
モクモクと煙があがると、煙が晴れるのを天使たちは静かに見守る。
「いない?」
しかし、煙が晴れた先にペネムエの姿はなかった。
「死体も残らないくらいのダメージではなかったはず……」
「列車の外には行けないはず!! みんさん!! 協力して探すのですわ!!」
メイジと面識のない天使もいるはずなのだが、まるでメイジが指示したかのように一斉に天使たちがペネムエを探し始めた。
*****
その頃、ペネムエは魔法列車の屋根の上に瞬間移動していた。
ちょうど自分の座席の真上に位置する場所だ。
「はぁ……はぁ……
なんとか瞬間移動が間に合いました。」
ギリギリの所で瞬間移動が間に合い、一時しのぎにはなりそうだが、それでも一斉に放たれた攻撃の全てを回避するには至らなかった。
体のあちこちに切り傷や火傷など様々な傷を負ってしまっている。
「回復魔法かポーションを……
いえ、あれだけの天使に狙われている今、魔力のペース配分を考えなければ」
痛みは、あるが我慢すれば動ける。肉体の回復よりも魔力の節約を優先するべきと判断してここは耐える事にした。
「先日の北風エネルギーの件で手痛い目にあったせいか、体の痛みに対しては鈍くなってしまっているようです」
屋根の上から天使たちの動向を探るために、このまま先頭車両の方にゆっくりと歩いて行くことにした。
探索魔法を使うと、逆に天使たちに気が付かれる可能性が高いので、五感を強化する魔法を頼りに進んでいく。
「相手がB級の天使といえども、わたくしだって使える魔法の種類と知識なら負けていないはず……
この試験を乗り切るのは不可能と決めつけるのは早いはずです!!」
そう自分に言い聞かせながら歩みを進める。
車両と車両の間はピョンとジャンプで飛び越えて、2両目まで来ることができた。
「この魔法列車、かなり高度な魔法が何十にも掛けられていますね。
車両の上を歩いていても揺れを気にする事なく、ここまで来る事ができました。
それ以前に、あれだけの天使の攻撃を受けても穴1つ開いていません」
考えを巡らせながらペネムエは2両目の車両から先頭車両へ、ピョンと乗り移った。
ここまで移動するだけで、かなりの情報を得ていた。
先頭車両の様子も、強化された五感のみで把握すると、1呼吸置いてポーチから切符を取り出し、試験の内容を確認した。
「『異物を排除せよ』毎回の受験希望者の人数を考えれば、試験に使われている車両が、これだけという訳はないでしょうが、全員が同じ試験を受けるのが慣例であったはず……
これが、同じ試験を受けていると言えるのでしょうか……」
ペネムエは、そう呟き、ため息をついた。
しかし、ここで油断してしまっていたペネムエは背後から迫っていた無数の針に気が付いていなかった。
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