71話:クラウディアからウォーミングアップが始まりそうです
異世界クラウディアの駅へと到着したペネムエは、乗り換えの魔法列車を待っていた。
だが列車を待つといっても駅舎がある訳ではない。
魔法列車の停車場所はゲートの安定制などで決定されるので、同じ世界であっても毎回違う場所になるのだ。
現在ペネムエは、森林のど真ん中にいる。
「クラウディアには、初めて来ました。確かマジックラウドの発祥の世界でしたか」
ペネムエが独り言を呟くと、首から下げていた魔法のポーチがモコモコと膨らみ始めた。
「なっ何事ですか?」
たまらず魔法のポーチを開けると中から凄い勢いで、空を飛べる雲、マジックラウド飛び出してきた。
飛び出したマジックラウドは、グルグルとペネムエの周りを回っている。
「故郷に来て喜んでいるのでしょうか? いや……そんな事はあり得ませんね」
魔法の道具は、愛着がどんなにあっても道具には変わりはない。
式紙などは、意思があるとしか思えないような動きをするが、あくまでそう見えてしまうだけ。
どんなに高度な魔法が掛けられていても道具に意思は無いのだ。
それでもマジックラウドの様子を見かねたペネムエは乗ってみる事にした。
「仕方ないですね、列車が来るまでですよ」
マジックラウドは、ペネムエの言葉に頷いているかのようにへの字に曲がった。
そして、ペネムエが乗った瞬間、今まで出した事が無いようなスピードで急上昇を始めた。
「きゃっ!!」
ペネムエは一瞬で振り下ろされてしまい、木の枝に引っ掛かってしまう。
「うぅ……」
たいてい、木の枝に引っ掛かれば宙吊りになるか、木の枝が折れて地面に落ちてしまうのだろうが、そのどちらにも当てはまらない状態になっていた。
服は枝に引っ掛かったまま、足のつま先は地面についているのだ。
「クラウディアは、その名の通り1年の半分以上が曇りで植物の育ちが悪いですからね、木の背丈が低いのです。
って、わたくしは1人で何を解説しているのでしょう……」
服を木の枝から外し、かかとまでしっかり地面に付けると空を見上げマジックラウドの様子を確認した。
「こんな事は初めてです……どうしましょう」
マジックラウドはペネムエを振り下ろしてなお、空を自由に飛び回っている。
数秒その様子を眺めていると、ハッと思い立った。
「そうでした、ここはノーマジカルではないので魔法が使えるではないですか!!
しばらく使ってませんでしたので、試験前のウォーミングアップをさせて頂きますか」
ペネムエは深呼吸をして、柏手を打つように手をパンと叩いた。
すると一瞬でマジックラウドの上へ瞬間移動してみせた。
「久しぶりの使用で不安でしたが、瞬間移動は得意な魔法ですからね。
衰えていなくて良かったです」
と安心したのもつかの間、マジックラウドはペネムエが乗り直しても上空を高速でグルグル移動を続けている。
「もう!! 言う事を聞いてください!!」
さすがにカッとなってしまい、勢いで右手に冷気を纏いマジックラウドの中に手を突っ込んだ。
これには、たまらずマジックラウドも降下する。
そして、ようやく落ち着いて地面に着地した。
「もう!! どうしてしまったのですか!!」
ペネムエに叱られたマジックラウドは、頭を下げているかのようにペコペコとへの字に曲がったり戻ったりを繰り返している。
「まさか本当に故郷に戻って来れて、はしゃいでいるのでしょうか……
マジックラウドには、いつもお世話になっていますからね、魔法列車の到着まで時間があります。
少し散歩しましょうか?」
この提案にマジックラウドは、綿菓子が作られているかのように縦になってクルクル回りだした。
「では、競争しましょうか!! わたくしも少しなら飛行魔法が使えます」
ペネムエの背中に白い翼が生え、体が少し宙に浮いた。
天使といっても、頭に輪っかがあったり普段から翼が生えている訳ではないのだ。
それでも飛行魔法をつかう際には翼を生やした方が安定する者は多い。
ペネムエとマジックラウドは再び宙に浮き、猛スピードで飛び始めた。
「うっ、さすがに速いですね……」
人を乗せた状態では車より少し遅い程度のスピードしか出ないマジックラウドだが、誰も乗っていないと時速100キロ程も出る。
誰かを乗せる事が前提の乗り物なので、ペネムエは最高速度のマジックラウドを初めて見た。
自分が飛行魔法が苦手なのを差し引いても、天使の速度では追い付けそうになかった。
*****
「はぁ……はぁ……負けてしまいました」
辺りを1周して、ゴール地点である魔法列車の停留所に到着したペネムエとマジックラウド。
本気を出したせいか、久しぶりに魔法を使用したせいかは分からないが、疲れ果てたペネムエは肩で息をしている。
その横でマジックラウドは嬉しそうにクルクルと回る。
「そろそろ魔法列車の到着する頃ですが……」
息を整えて、辺りを見渡すが魔法列車が来る気配はない。
そこまで遠くで飛んでいた訳でもないので、来ていたなら気が付くはずだ。
すでに発射した後という事も無いだろう。
「というより、試験会場に向かう列車なのに、停車場所に誰もいないというのも妙ですね」
ふと思い、魔法のポーチから切符を取り出した。
「やはり時刻は間違いない……ん?」
切符に記された時間は間違いなかったのだが、魔法列車が来ない理由は理解できた。
「……魔法列車が来るの2日後ではないですか。
翔矢様が、地元の列車が2時間に1本しか来ないのが不便だとおっしゃっていましたが、2日後って……」
異世界間での時間の流れの差もあるし、定期運航の列車ではないとはいえ、乗り継ぎに2日待つのはガックリときたペネムエ。
再びマジックラウドと共に空を飛び、宿のある村を探すのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
ストーリは一生懸命練って執筆しております。
少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。
下の星から評価も、面白いと感じたら、入れてくださると嬉しいです。




