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68話:テスト勉強から論文が始まりそうです

 その週の週末、天界で起こっている異変など知るはずも無い翔矢とペネムエは翔矢の部屋で勉強をしていた。


 翔矢は自分の机で数学の問題を解き、ペネムエはマジックラウドに座り本を読んでいる。


 「サイン、コサイン、タンジェント、サイン、コサイン、タンジェント」


 朝から勉強している翔矢の集中力はすでに限界に達しており、数分間この言葉を連呼している状態だ。


 「……翔矢様。お言葉ですが呪文のように言葉を繰り返す勉強法は暗記科目の方が向いているかと」


 見かねたペネムエは本から目を離す事無く話しかけてきた。


 「わかってるよ!! だけどサインだのコサインだのタンジェントなんて、ここでしか聞かないような言葉、どれがどれだか分からなくなるんだよ!!」


 滅多に怒る事は無い翔矢だが勉強で気が立っていたのかついつい強い口調になってしまう。


 「も、申し訳ございません。出過ぎた真似を……」


 ペネムエはその様子に驚きシュンとしてしまった。


 「あっ……ごめん、独り言……じゃ無いけど分からな過ぎてイライラしちゃって……」


 「そういう事でしたか」


 しかし、すぐにいつもの様子に戻ったのでペネムエは安心して、立ち上がり翔矢に近寄った。


 「サイン、コサイン、タンジェント。という順番で覚えているのであれば、後は『abaccb』というローマ字の順番を覚えてはいかがでしょう?」


 「おー!! 公式の分数の上列と下列の並びか!!」


 「はい。分数を上列、下列と分けるのはどうかと思いますが……公式を頭に入れておくだけで点数が取れる問題は多いと思いますよ」


 「abaccb、これなら俺でも覚えられる!!

 ぺネちゃんやっぱり天才!!」


 「あっ……いえ……授業を聞いて思い付いただけなのですが……恐縮です」


 ペネムエは耳まで真っ赤にして照れてしまう。


 「おせっかいかもしれませんが、わたくしの方はグミ様に注文した本が届くまで勉強には余裕がありますので可能な範囲でお教えしましょうか?」


 「お願いします!! ぺネ先生!!」


 「先生なんて、そこまで大した教えは出来ないのですが」


 照れながらもペネムエは翔矢の開いている問題集に顔を近づけた。


 「ザブーーーン!!」


 「えっ? なに?」


 問題集を覗き込むなりペネムエは、すごい勢いで翔矢から距離を取ってしまう。


 「コホン、失礼。取り乱しました?」


 「そっか、ん?」


 一瞬納得してしまった翔矢だったが、ペネムエの回答が全く答えになっていない事に気が付いた。


 しかし特にそれ以上追及はしなかった。


 (あっ危ないところでした。問題集を見ようとしたら真横に翔矢様のお顔が……

 カッコよすぎて発狂してしまいました。まだまだ修行が足りなかったようです……)


 こうしてペネムエの心臓と精神には幸せながらも莫大な負担がかかってしまった。


 それでも翔矢の勉強は順調に進んだのだった。


 「終わったぁ!! 数学はそれなりの点数が取れそうだ。

 ありがとう。ぺネちゃん!!」


 「はぁ……はぁ……お役に立てて……光栄でございます」


 翔矢は達成感から両腕を挙げて喜んだがペネムエは疲労困憊の様子だ。


 「ぺネちゃん疲れちゃった? 無理させてごめんね」


 「いえ……これは幸せ疲れなのでお気になさらず……」


 「うん?」


 久しぶりに長時間勉強した翔矢は満足して一端勉強を止めてノートなどを片付け始めた。

 

 すると部屋の窓をコンコンと叩く音がした。


 窓の方を向くと黒猫がジッと、こちらを見つめていた。


 この黒猫はグミだと2人はすぐに分かった。


 慣れてきたのもあるが、グミの首には先日悠奈が革細工で作った首輪が身に着けられていたのだ。


 「前も思ったけど人間の姿で玄関から入ってもいいんだぞ?」


 窓を開けながら翔矢はグミに話しかける。


 「この格好で外歩くとノーマジカルの人間には変わった目で見られるからニャー」


 グミは部屋に入るなりゴスロリ服に身を包んだ少女へと姿を変えた。


 「こっちの世界で服とか買ったりしないのか?」


 「悪魔の取引は現金ダメニャから日本円は持ってニャイ。

 持ってたとしても、悪魔族の服は人間態の時だけ出現する特殊な物ニャから人間用の服は着るのは面倒なのニャ」


 「人の姿になれても服は別なんだなぁ」


 「当たり前ニャ」


 「悠菜様がプレゼントなされた首輪は大丈夫なのですか?」


 「これニャ? 最初に付けたまま人間の姿になった時は首が閉まって天界が見えたニャ。

 今は、留め金の部分を改造してるから安心ニャー」


 グミが首元の髪を寄せると首輪の留め具の金具部分が見えた。


 パッと見ただけでは分からないが、留め具には細い糸がグルグルと巻き付けられていた。


 「ヘル・タランチュラの糸を使ったのですね。

 数センチ程度であれば、伸び縮が自在ですからね」


 「手持ちで使えそうニャのがこれしかなかったし、恩人の好意を無駄にするのは悪魔族の恥だからニャー。

 あっ、これ頼まれてた論文集ニャ!!」


 グミは話しながらデコレーションされたトランクケースをガサゴソと漁り、1冊の辞典よりも厚い本を取り出した。


 「ありがとうございます。こちらに来てからは最新の論文を読めてなかったので助かりました。

 天界の試験の出題範囲は最新の研究から出されることが多いのですよ」


 「ニャーは商売ができれば、基本ニャンでもいいから礼はいらないニャ。

 しっかし、そんな難しい本よく読めるニャー」


 「俺もサッパリだな!!」


 ペネムエの手に持った本に翔矢も注目したが、全く意味が分からない。


 内容以前に文字からして、日本語どころか地球の言葉ですらないので当然だ。


 「文は堅苦しく難しい言葉が使われていますが内容は難しくないですよ?

 『未来は確定しているのか』という事に書かれた論文ですので」


 「へぇ!! 漫画とかで未来から来て未来を変えようとするキャラとかよく出てくるな!!」


 論文と聞いて気が引けてしまった翔矢だったが、内容には興味を持ったようだった。


 「翔矢様が想像するような、過去に行って未来を変える魔法は不可能であるというのは1000年ほど前に証明されています」


 「そうなの? なんか夢が壊れるな……」


 作り話としか思っていなかった魔法が実在したのに、定番の展開が不可能と聞かされ翔矢は肩を落とした。


 「時間とは現在から未来へと前に進む物です。その流れを変えることはできません」


 「あれ? でもペネちゃん時間止める時計持ってたよね?

 あとアルマ様も、前の戦いで敵の時間を進めてなかった?」


 「流れを止めたり進めたりするのは可能です。

 しかし逆流させる事はできないのです、絶対に。


 アルマ様は時の研究の為に自らの肉体の時の流れを1000分の1まで遅くしています。

 その研究の過程で、わたくしも持っている時を止める時計を開発できたのです」


 「女神様って長生きのイメージあるけど、見た目だと8歳くらいだったよね?

 実際は何歳なの?」


 「わたくしも存じませんが、天使は人間の10分の1の肉体の成長。

 さらに、その1000分の1の成長で見た目の年齢から察しますと……」


 「怖くなってきたから計算は止めよう!! で結論から言うと未来って確定しているの?」


 「研究中です。しかし戻ってこれないだけで未来に行くことは可能な以上は確定しているという意見が多数です。

 

 否定派の意見としては、未来に行くのは、自分の時間を完全に止めているだけで実際に時間は経過している。

 よって未来が確定している根拠にはならないという事ですね」


 「未来に行ってるんじゃなくてコールドスリープってことか」


 「未来に行った方には同じようなものですからね、しかし最近になって新たな仮説が出てきました」


 「それがこの本だニャ。まぁニャーも内容はサッパリニャけど」


 ペネムエは本をペラペラとめくってフムフムといった感じで頷いた。


 「『未来は確定している。でなければ100パーセントに近い的中率を誇る真の神の予言はありえない』とあります」


 「それが新説ニャ?」


 「いえ、ここからが面白いのです。予言は何でも分かる訳ではなく突如頭に浮かぶ物です。

 『これは確定した未来を見ているのではないか? 目に見えるという事はその未来はすでに存在しているのではないか』とありますね。」


 ペネムエは簡単に説明したつもりだったが翔矢もグミも首を傾げている。


 そこで1つ例え話が思い浮かんだ。


 「えっと、コインを投げるとします。もちろん表が出るか裏が出るかは2分の1です。

 しかし、こうするとどうでしょうか?」


 ペネムエは得意気にポーチから表も裏も同じ模様のコインを取り出した。


 「まぁ表が出るとしか言えないよね?」


 「はい、投げるまでもなく表が出ることは明白です。

 であれば、表が出たという結果はすでに存在している。という考え方ですね!!」


 ペネムエは、やはり得意気だったが、翔矢とグミは再び首を傾げてしまった。


 「ってかグミって、この世界から出れなくて悠菜に飼われてるんだとな?

 本の新刊を持ってるっておかしくね?」


 「論文みたいに必要ニャ人が少ニャイ商品は、いつ売れるか分からニャイから仲間の悪魔でシェアしてるのニャ」


 「本当に悪魔っていうか商人なんだな」


 (あれ? もう興味を無くしてしまっている?)


 ペネムエはガクッと肩を落としながら、ポーチから子ドラゴンの羽を取り出し、グミに本の対価を支払ったのだった。

 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 ストーリは一生懸命練って執筆しております。


 少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。


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