64話:寄り道から喫茶店が始まりそうです
(さっきは危なかったぜ……)
今は下校中。2度にも渡る軽率な言動を反省しながら歩く翔矢。
しかし、まだ何も解決はしていなかった。
「ねぇ!! さっきのどういう意味?」
翔矢と悠菜の下校の道は途中まで同じ。今も隣でしつこく追及されている。
「我も気になるのだ!!」
「ござる!!」
悠菜だけではない。瑠々と卓夫も家の方向が途中まで一緒なのである。
翔矢は可能な限り話題を変え、乗り切ろうとしているが何故か話が戻されてしまう。
そういった流れを2度繰り返し、次で3度目だ。
普通ならば1度変えられれば話題は流されてしまうだろうが、何故だか今日の3人はしつこい。
「そっそんな事よりグミの首輪どうするんだ?
まだ完成してないんだろ?」
「あーどうしようかな? オタク君、後どれくらいで完成すると思う?」
今回はうまく行ったようで、悠菜は翔矢の話に乗って来た。
これにはホッとため息を憑く。
「そうでござるなぁ。悠菜殿のペースであればゆっくり作業しても1時間くらいでござるかな?
悠菜殿、料理の腕は壊滅的であるが革細工は筋がいいでござる!!」
「ありがとう。オタク君、教え方丁寧だし面倒見もいいから、その口を閉じて肉体を取り換えれば、奇跡が起きて彼女くらいできると思うよ?」
常時笑顔が基本の悠菜だが、卓夫の余計な一言に教わっている身でありながら真顔になり機嫌を損ねてしまう。
「肉体を取り換えた上に奇跡が起きて、ようやくでござるか!?
あと拙者の名前、今日1日はオタクのままでござるか!?」
「あっ駅前に外観ボロボロな喫茶店あったよね?
あそこで、でかして行こうかなぁ」
「……オタクの話を聞いちゃいねぇな。
前に真理と市内のスタスタに行ったときは、オタクもついて来そうになって嫌がってたじゃねぇか?
オタクと喫茶店なんて行って平気なのか?」
「さすがに2人きりは無理ですが瑠々ちゃんもきてくれるなら平気かなぁ!!」
「いや……いくら我でも上級生2人と喫茶店は緊張するのだ。
あと最近ギルドの仕事が減ってしまい、お金がスッコンピーなのです」
瑠々は自分の財布を取り出し財布が空なのをアピールしている。
「飲み物くらいならおごるよ!!」
悠菜は目を輝かせ瑠々の手をがっしり掴んでいる。
「いや……それは申し訳ないのですが」
「瑠々。諦めろ。こうなったら悠菜は聞かないから」
「でっでは飲み物代は貸して頂くということで……
ギルドからの報酬が入り次第、すぐにお返しします」
「決定!!」
瑠々が観念したのがよっぽど嬉しいのか悠菜は両手を挙げて喜んでいる。
そうして話している内に分かれ道に着いた。
「んじゃあ俺こっちだから」
自分の家の方に曲がろうとした翔矢だが制服の袖が何者かに掴まれ引っ張られて引き戻されてしまう。
犯人はすぐに分かった。瑠々だ。
「何すんだよ?」
「翔矢先輩!! これから喫茶店ですよ? 美女2人とオタク1人ですよ?
このままではハーレムが完成してしまうので、我々を助けると思って同行願います!!」
瑠々は深々と頭を下げた。
「それは大変だね!! 翔矢君、私からもお願い!!」
「いや……『大変だね』の意味が分からないのだが……
2人きりじゃなければいいだろうが」
別に同行するのは嫌ではなかったが、理由に納得がいかない翔矢は前向きな返事ができないでいた。
「まだまだオタクに対する世間の目は厳しいでござるなぁ」
卓夫も教える立場なので、この扱いは怒ってもおかしくはないが、落ち込むばかりで怒りはしない。
この微妙な空気を壊したのは、この空気を創り出した張本人でもある悠菜だった。
「いま着いてきてくれると、もれなく悠菜先生が期末テストの勉強を見てあげます!!」
「是非ともお願いします!!」
悠菜の提案に、テスト対策を悩んでいた翔矢は反射的に、それはそれは力強く返事をし頭を下げた。
「あっあのぉ……悠菜先輩。できれば我の勉強も見てくれぬだろうか?」
「もちろんオッケーだよ!! 家に行けば去年の期末テストの問題あると思うから、終わったら家来なよ!!」
悠菜は、また目をキラキラと輝かせ瑠々の両手をガッチリと握る。
「いや……ゆゆゆ悠菜先輩の家ぇぇぇ」
その誘いに動揺し、瑠々は震えだした。
そして気が動転しすぎたのか、とんでもない言葉を口走る。
「そっそれは流石に……翔矢先輩!!
今日、家に言ってもいいですか? 過去問ください!!」
「いや、何で俺だよ?
女子同士なんだから普通に悠菜の家に行けよ!!」
「そっ……それもそうか……
では御言葉に甘えて悠菜先輩の家にお邪魔するとしよう」
「やったーーー!!」
と悠菜は再び両手を挙げて喜んだ。
「オタク先輩は来ちゃダメですよ!!」
「ダメだよ!!」
「言われなくても行かないでござるよ……」
落ち込んでいた卓夫にさらに追い打ちが入りながらも、4人は目的地の喫茶店に到着した。
一瞬、古民家を改装したように見えたが本当に改装したのか怪しいくらい年季が入っている。
この喫茶店は翔矢が物心付いたころからあった気はするが1度も入った事は無かった。
「うーむ……」
瑠々が喫茶店のドアをジッと見つめている。
変わった性格ではあるが、女子には変わりないので、このボロボロな店は厳しかったのかと翔矢は思った。
しかし、そうではない事がすぐに分かる。
「バイト……募集中……」
瑠々が見ていたのはドアに貼ってあったバイト募集の張り紙だった。
「こんな客が少なそうな喫茶店でバイト募集かよ」
瑠々がバイト熱心なのを知っていた翔矢は、彼女が応募する気でいるのだとピンと来た。
「ちょっと待って……バイト代時給1000円超えてるんだけど!!」
普段はバイトに興味を示さない悠菜も驚きを隠せていない。
「怪しいでござるな」
「いや……昔流行ってた時に募集した張り紙が放置されてるだけだろ?
気になるなら店の人に聞いてみろよ」
と翔矢はいたって冷静だったが悠菜の熱は冷めていなかった。
「いやいや、こんなの東京とかのレートじゃん!!
怪しいよ!! 絶対裏で別の商売やってるよ!!」
「あるいは、コスプレさせられる可能性もあるでござる!!」
「コッコスプレ……まぁ我のいた世界の服装も、こっちの世界の住人にはコスプレのようなものだ!!
あまり肌を出さない服であれば前向きに検討しないでもないぞ!!」
コスプレに興味があるのか時給に目が眩んでいるのか定かでないが瑠々の目はギラギラと輝いていた。
「こんな田舎に、そんな喫茶店があるか!! いいから入るぞ!!」
いつまでも3人が、あーだこーだ言っているので翔矢は痺れを切らし喫茶店の扉を開けた。
入り口前で、ずっと駄弁っていて気が付かれていたのか、1人の店員が扉を開けた目の前で出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ!! 御主人様!! お嬢様!!」
メイド服姿の赤髪の店員に翔矢は見覚えがあった。
「……マジかよ」
紛れもなく、その店員はリールだった。
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