63話:2人きりの教室から覗き見が始まりそうです
翔矢は、今日ペネムエがリールと会っていることは聞いていた。
先日あれだけの事があったので、最近ペネムエが報告をまとめたり忙しそうにしているのを見ていた。
なので2人で合う要件は北風エネルギーに関する話しだと思い込んでおり、ペネムエが自分に思いを寄せ、その相談に話が切り替わっているなど微塵も思ってはいなかった。
そして今は授業が終わり、剣道場に来たのだが……
「誰もいない」
思わずそう声が漏れた。しかしその理由はすぐに思い出した。
「あー、期末テスト近いから部活無いんだった。
この前、色々ありすぎて忘れてたなぁ」
などと独り言を言いながら、そのまま剣道場を後にした。
そして、今日はペネムエと別行動で本当に良かったと思った。
かれこれ2か月近く一緒に暮しているので、この場にペネムエがいたらどうなっていたか、だいたい予想ができる。
「申し訳ございません!! わたくしのせいで勉強が手に付かなくなるほど気にさせてしまい……」
とか言いながら謝って来る姿が容易に想像できる。
「赤点なんて取ったら、ぺネちゃん責任感じたりするかなぁ……
よし、今回の期末はちょっと気合入れるかな」
翔矢の成績は赤点を取るほど悪くはないが、中学時代に全く勉強をしなかったので、その行いが足を引っ張り勉強時間の割には成績は伸び悩んでいる。
「悠菜に聞くか? いや、それこそぺネちゃんも授業聞いてるんだし教えてくれたりしないかなぁ」
確か前にリールが、ペネムエは天界学校をトップで卒業したと言っていた気がした。
授業態度も自分より、いやクラスで一番真面目に受けている気がする。
「元々、俺勉強得意じゃないしなぁ。
『ぺネちゃん勉強得意って聞いたけどこれ分かる?』とか聞けば気は使わせないよな?」
ほとんどの生徒が帰り、誰もいない廊下でペネムエを傷つけないように勉強を聞くイメージトレーニングをしながら教室に荷物を取りに向かった。
*****
翔矢が自分の教室の前まで来ると、教室の窓を剣道部後輩の阿部瑠々が覗き込んでいた。
「何してるんだ?」
上級生の教室にいるのを不自然に思い無意識に声を掛ける。
「しょっ翔矢先輩!! アポロギアディディディケケケ!!」
瑠々は翔矢と目が合うと、謎の言葉を発しながら翔矢を教室から遠ざけようとする。
「なんだよ? 教室に何かあるのか?」
難なく静止を押し切り翔矢が教室を覗き込むと、幼馴染の悠菜と卓夫が話し込んでいるのが見えた。
「ん? なんだ、別に変な事ないじゃないか」
「アバラ・エバラ・オハラ!!」
首を傾げた翔矢に瑠々は血相を変えて何かを訴えている。
「俺の知ってる言語で話さんかい!!」
しかしまるで何を言っているか分からなかったので、思わず瑠々にチョップを喰らわせてしまった。
「ギョフン!! 何をしやがるんですか!!
放課後の教室に男女が2人きり!! 怪しすぎるでしょうが!!」
「最初からそう言わんかい。あぁ言われてみれば2人でいるのは珍しいかなぁ」
普段から2人と話している翔矢は気が付かなかったが、言われてみれば2人だけでいるのは、あまり見ない気がした。
「むむむ!! 誰かいるでござるな!!」
「「あっ!!」」
瑠々に大声のせいかは定かではないが、覗き見まがいの事をしているのを卓夫に気が付かれてしまい翔矢と瑠々は同時に変な声を出して固まってしまう。
*****
「いやー、失敬失敬。翔矢殿と、その後輩ちゃんであったか。
拙者、大久保卓夫と申す!!」
「……1年の阿部瑠々と言います」
初対面の2人は挨拶を交わしたが、瑠々は卓夫を明らかに嫌悪の目で見ている。
「駄目だよ、瑠々ちゃん」
しかし悠奈はすかさずフォローに入った……かに思えた。
「そんな目で見ても、これが喜ぶだけだよ!!」
「これとは何でござるか!! ってか喜ばないでござるよ!!
拙者はリアルの女には興味無しでござる」
普段は温厚な卓夫も流石に機嫌を損ねたようだ。
「しかし悠菜先輩。語尾がござるなんて言う奴が、まともなはず無かろう!!」
「そこは、お前も似たようなもんだろ……」
「悠菜先輩。このオタク先輩と何をしていたのだ?」
初対面の先輩が相手だというのに瑠々は卓夫の名前を間違えた挙句、思いっきり指差している。
「不本意ながらオタク君に革細工を教わってたの。
グミちゃんの首輪、手作りで付けてあげようと思って」
そう言うと悠菜の手元には、制作途中と思われる赤い首輪を持って見せた。
「グミちゃん?」
グミちゃんと言う単語を理解していない瑠々に翔矢は説明を始めた。
「悠奈は最近、黒猫を拾って飼い始めたんだ。
悠菜が付けたグミって名前も自分で名乗るくらい気に入ってるみたいだし、首輪もきっと喜ぶんじゃないか?」
ここまで話した所で、翔矢は自分の過ちに気が付いた。
しかし、時すでに遅しである。
「自分で名乗るって何の事でござる?」
「気に入ってるって何なのだ?」
「翔矢君、グミちゃんに会ったのって野球の時だけだよね?
そんな分かるくらい仲良かったっけ」
卓夫、瑠々、悠菜が口々に疑問を述べている。
「えっと……何となくそんな気がしただけでして……」
まさかグミが悪魔族であるなど言える訳もなく、挙動不審になってしまう翔矢。
その姿を3人はマジマジと見つめてくる。
「って言うか卓夫……じゃなかった。
オタクは革細工なんて出来たんだな!!」
「いや……卓夫で合ってるでござる。
拙者は毎年コミケにも出品してるでござるからな。
猫の首輪くらい訳ないでござる!!」
「コミケって夏とか年末とかにやってるあれ? お前出品とかやってるの?」
「まだまだいい場所には出店できてないでござるがなー。
ちなみに悠菜殿に教えてる首輪も『悪魔・ザ・キャットちゃん』というアニメの主人公の黒猫が付けているものを忠実に再現してるでござる」
「えっ? これアニメのキャラクターのだったの?」
悠菜は軽くショックを受けた様子で製作途中の首輪を見つめている。
「うぬ。悪魔の世界から迷い込んだ黒猫のアール・エクスたんが人間に拾われ飼われるという、ほのぼの日常アニメでござる」
「アニメのって聞いちゃうと何か嫌だなぁ……」
「しかし悠菜先輩。別にそのアニメ知らなければ、普通に可愛い首輪ではないか?
この月のデザインは中々可愛いと思うぞ!!」
「俺もよく出来てると思うけどな。それにグミの話とアニメの設定だいたい合ってるし!!」
悠菜にフォローを入れた瑠々に話を合わせたつもりの翔矢だったが……
(しまった。またやってしまった……)
「だいたい合ってるってどういう意味?」
「翔矢先輩今日はおかしいぞ?」
「何か隠しているでござる?」
せっかく話が変わりかけていたのに墓穴を掘り、再び3人に追及されてしまった。
「あっ……そのぉ……」
2度目は誤魔化しきれないと、冷や汗が出るばかりで質問に答えられない。
キーンコーンカーンコーン
しかし数秒のこう着の後に下校を告げるチャイムが鳴り響いた。
「ほっほら!! さっさと帰るぞ!!」
チャイムを理由に必死にこの場を納めると、4人は帰り支度を進め学校を後にしたのだった。
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