6話:ホームルームから観察が始まりそうです
翔矢が、なんやかんや登校し席に着き、今は朝のホームルーム前の時間。
翔矢の席の周りには、クラスメイトが大勢集まっている。
「聞いたぜーー。車に轢かれそうになった子供たすけたんだってーーー」
「昨日も休んだからしんぱいしたぞーーー」
まるで、転校初日の転校生になった気分だった。
心配してくれるのは、ありがたいが、とても全部にまともな反応はできない。
そんな状態が何分か続くと、教室に担任の教師が入ってきた。
「全員席につけー」
担任の一言で騒いでいた生徒は静かになり、生徒たちが自分の席に座り始める。
「みんな知っていると思うが、おととい宮本が子供をトラックから、かばって事故に巻き込まれた。
幸い大事にはならなかったらしく、見ての通り今日から学校にも来ている。
こんな場面に出会うことは滅多にないだろうが、みんなもできる範囲の人助けは大いに結構だが、あまり無理のない範囲で行うようになー」
担任は事故について軽く話した後、行事の話や他な話を進める。
事故の話は正直こりごりだし、自分の力で助けたかと言われると微妙なところなので、あまり大げさにされないほうが気が楽になる。
ペネムエも学校に来ている事を思い出した翔矢が後ろに目をやると、教室の一番後ろで、ベット代わりにもしていた黄色い雲の上で正座して担任の話を真剣に聞いている。
しかし翔矢以外、誰もペネムエの事を気にする様子を見せない。本当に他の人には見えていないようだ。
それはそうと学校に登校するときも、あの黄色い雲に乗って移動してきていた。
ものすごい便利アイテムだ。近いうち絶対に乗せてもらおうと翔矢は決意していたのだった。
雲の事で頭がいっぱいで、話が頭に入ってこないが今日のホームルームは、行事も近いのでいつもより長い。
隣の席の卓夫が小声で話しかけてきた。
「翔矢どのーーー。事故の後、悠菜殿と進展はあったでござるかーーー?」
そういえば、卓夫も現場にいた。見舞いに来なかったと思ったら、変に気を回しやがったか。
翔矢は怒りに近い妙な気持になった。
だからといって別に見舞いに来てほしかった訳でもないが。
「まぁやる事なかったからボードゲームとかで遊んで、暇つぶしに付き合ってもらったが、何度も言ってるが進展とかそういう関係じゃねぇよ」
「付き合ってもらって?」
「そういう意味じゃねぇっつーの」
こいつ、ペネムエに頼んで自分の代わりに異世界送りにしてしまおうか。という考えが翔矢の脳裏をよぎった。
だが異世界転生を止めるためにペネムエは、この世界に来ているので無理な話である。
「だいたい、あいつは入院してる子供に絵本読んだりもしてるみたいだし、『一部例外』を除き誰にでも優しいんだよ」
この『一部例外』というのは、悠菜にたびたび雑に扱われる、今翔矢と会話中の男の事である。
*****
一方そのころ、悠菜は隣の席の友人。真理とヒソヒソと話をしていた。
「悠菜―――。宮本あんたのとこの病院に入院してたんだよなー?」
「うん。そうだけどー?」
「もちろんナース服着て、体拭いてあげたりぃ、色々と看病してあげたんだよな?」
半分からかうように真理は悠菜に話しかける。真理はギャル系で比較的ノリが軽いので、少し何かあると、すぐこういう話をする。
「まぁ入院って暇だから時間つぶしに遊びに付き合ったりはしたけどねー。あっ服装は制服で」
「ナースの制服で?」
「え?学校の制服だよ?」
悠菜はキョトンとした顔で首を傾げながら答える。
「あんた本当、冗談通じなくて、悲しくなってくる……天然記念物で保護されるわよ……」
悠菜は成績で言ったら馬鹿ではない。むしろ学年順位で見ればトップのほうなのだが、常識面では時々抜けているところがあり、親友の真理も呆れさせられることが多い。
「でも普通、家が病院だからって気になってもない男子の見舞いとかしないでしょ?向こうが言ってこないなら、こっちから告ろうとか考えないわけ?」
真理に聞かれて悠菜は数秒考えて結論を出した。
「んーーー。あんまり彼氏とか欲しいと思ったこともないからねー。どっち道、翔矢君は友達としか見れないかなー。」
「高校生にもなってそんな甘いことーーー。男女の間に友情は成立しないのよーーー」
「でも真理ちゃんも、男子と話す割に彼氏いな……」
悠菜が言葉を言い終える前に『バキッ』っとシャーペンが砕ける音がした。
「なっなんでもないよーーー。あっホームルーム終わっちゃうーーー」
*****
ホームルーム中のヒソヒソ話だったので、翔矢と卓夫。悠菜と真理の二組の会話を両方把握している者はいない。
ただし一名を除いては。
(やはり、翔矢様が異世界に行っては悲しむ人が大勢います。こんなやり方で世界を救うのは間違っています……絶対にわたくしがお守りしてみせます)
ペネムエは学校の様子を観察し任務への決意を新たにした。
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