62話:天の議会から処罰が始まりそうです
天界の中央にそびえる、山ほどの高さがある塔。
『天の頂』と呼ばれているこの塔の頂上では、12人の最高位の天使『12神官』達が2人の女神を呼び出していた。
「アルマ様!! 人形をノーマジカルに派遣した挙句、囚われ向こうの技術で魔力を開発されたと報告を受けております。
派遣先で世話になっている人間も危険に晒したそうですなぁ!!
これは女神を辞任するべき案件ですぞ!! どう責任を取るおつもりですかな?」
12神官の内の1人の老婆が、血相を変えてアルマに詰め寄る。
この議会に出席している者は、みな宙に浮く椅子に座っているが、今にも落ちてしまいそうな勢いだ。
「クローバー氏は面白い事を言うのぉ。
辞任すべきと言いながら、どう責任を取るつもりかを問うとは」
しかしアルマは気にする様子は無く、笑いを堪えるように顔を隠す余裕すらあった。
「あらぁ? ロリババアもついに引退するのよぉ?」
もう1人の女神であるアテナは失笑しながらアルマをあざ笑う。
「いやー、わしが引退すると女神の座は小娘1人だけになってしまうからのぉ。
おちおち引退できんわい」
「何ですって?」
アテナの目がアルマを睨むと、手に持つ杖から白い炎がメラメラとあふれ出してきた。
「やる気か? 同じ女神と言ってもワシとお主は赤子と大人以上の差があるはずじゃが?」
アルマもアテナの方にスッと杖を伸ばし構えた。
「2人とも止めぬか!! 仮にもここは天の頂。
『真の神』の御前であるぞ!!」
12神官のリーダー格の背の高い老父が女神2人に呆れ痺れを切らし杖の先端で机を叩きながら大声を出した。
赤く長い髭が特徴で名をオーディンと言う。
「こっこれは失礼したのよぉ」
「真の神の御前と言われては、争いは避けねばのぉ」
オーディンの一括に2人は杖を納めた。
「天の議会を進めるが、そもそも私は今回の人形の件を無にしてもノーマジカルに天使を派遣する事自体に反対する立場だ。
理由は3つある。
1つ目は、そもそも魔法が使えない天使など、できる事が限られすぎる。派遣したところで満足に人間を保護することなどできまい。
であれば、より天使の力を発揮できる世界に人員を割くべきだ。
2つ目は、ノーマジカルでは天使はおろか魔法が空想のものと認識されている事。魔法が実在すると知られては、ノーマジカルの文明の根幹に影響を与えかねない。
我々天使は、人間を守ると同時に文明を研究、体験させて頂くが、学ぶことはあれ大きな影響を与えるのは避けてしかるべきなのだ」
オーディンがそこまで話したところで、クローバーが口を挟んだ。
「オーディン様のおっしゃる通り!!
そもそも、今回の件で人工的に魔力を開発される所まで来たと言うではないですか!!
アルマ様!! 辞任案件ですぞ!! 辞任!! 辞任!!」
クローバーは頭から生えた四つ葉を激しく揺らしながら辞任を訴える。
「いや、クローバー氏。それは違うぞ?
北風エネルギーと言ったか。あの組織はペネムエを捕える前に、すでに魔力は開発していたと見える。
だいたい天使を捕えたところで魔力など作れんわい!!
どっかの小娘が派遣した天使が魔法の道具でも落して、それを解析されたのではないか?」
アルマはアテナをギロリと睨んだ。
「ペネムエが捕えられる前に魔力が開発されていたというのは賛成だけど、たまたま落とした道具をたまたま魔力を研究する組織に拾われるなんて偶然があると思うのよー?
ノーマジカルには文明調査のために生活してる天使が何人かいるのよぉ。
そういった点では、ずっと前から魔法の存在を知られる危険性はあったのよぉ」
「いずれにせよ、ノーマジカルにいる全ての天使を一度、天界に戻すべきだ。
先に上げた理由の3つ目にも関係してくることだが、ノーマジカルの人間は魔力0であっても魔力を納める器は規格外。
天使と戦闘になり、死なせてしまい他の世界に転生する事になれば、現地の住民……いや勇者や我々天使であっても対処はできまい」
「そうなれば責任問題で辞任ですぞ!! 辞任!!
オーディン様の仰る通り、即座に天使たちを撤退させるべきですぞ!!
それともお二人とも辞任なさいますかな!? 辞任!?」
オーディンの話しを追う様にクローバーが激しく問い詰める。
「でも、このまま魔力の開発を進められても面倒な事になりそうなのよー」
アテナは反論したが、オーディンがそれを認めなかった。
「北風エネルギーの目的が分からぬ以上、魔力の開発は様子を見てもよい。
奴らが魔力を持つ存在を敵視している以上、転生させてしまうのが一番の懸念材料であろう!!」
オーディンの主張は力強かったが、今度はアルマが反論する。
「じゃがのぉ、オーディンよ。
ノーマジカルから他の世界へ転生した例は過去に何度かあるが、これといって悪さを働いた者はおらんぞ?
大抵は冒険者としての活動に努めておる。
強大な魔力の器が満たされることが、支配欲などの軽減に繋がっていると見える。
もちろん転生させぬ努力はするが、転生後の警戒の必要は無いと思うぞ?」
「ロリババアの意見に賛成するのは尺なのよー。
だけど、ノーマジカルにゴブリンやアークゴブリンまで現れたからには調査は必要なのよー」
「しかしだなぁ……。魔法の存在を既に理解している者が転生するとなれば」
オーディンは右手で立派な髭を触りながら考え込み始めた。
他の12神官も沈黙していたが、そのうちの一人が沈黙を破るように手を挙げた。
「あのー。今回の議題は、あくまで間抜けにも捕獲され、お世話になってる人間さえも危険にさらした『人形の処罰』だったはず。
その北風何とかって言うのが私たちを敵視したからって、すぐに戦闘になる訳じゃないし保留でいいんじゃない?
ノーマジカルの天使たちには、注意喚起でもすれば自分の身は自分で守れるでしょう?」
発言したのは紫の髪が、地面に着くほど伸びた品のある声の女だった。
その女の発言にクローバーは食ってかかる。
「アイリーン!! 口を慎まんか!!
だいたいお前が、あんな忌々しいものを造らなければこのような事態には、ならなかったんじゃぞ!!
辞任すべき案件ですぞ!! 辞任!!」
「私だって、まさかあんなのが出来ると思わなかったもの。
ただ世界が増えすぎて天使の人手不足が問題になりそうだったから、文明調査ができる高度な式神を造ろうとしただけ。
そしたら本物の天使が出来ちゃうんですもの。ビックリしたわねぇ。」
アイリーンはヒートアップしているクローバーにも、あくまでおっとりとした口調で対応している。
「しかし、アイリーンの言う通りかもしれん。
1人で活動しているリールはともかく、人形の方は人間と同居しているとのこと。
顔が知られた以上、その人間に危害が及ぶやもしれん。
人形は厳正な処罰を行い、人間との関係を断った上で他の天使に陰から護衛させるのが適作であろうか」
オーディンの顔は一層険しくなる。
「あのー、オーディン様。クローバー様の仰ったように造った私にも責任があります。
そこで提案なのですがその処罰というの、私に任せてくれない?」
「なにか良い案があるのか?」
「中途半端な案では辞任ですぞ!! 辞任!!」
オーディンとクローバーは、ほぼ同時に発言をした。
「私もあれを造ってしまった事は後悔しています。
ですので、この機会に処罰で処分してしまうのです」
アイリーンの案に沈黙を貫いていた12神官もザワツキ始める。
「ちょっと!! それはやりすぎなのよ!!
命を持った以上はペネムエだって立派な天使なのよ!!」
あまりのもの過激な提案にアテナは強く批判した。
「ワシとて、抱えてる天使を処分というのは気が進まんのぉ」
アテナの反対にアルマも賛同はしたが、そこまで強くは批判しなかった。
その態度に、今までアイリーンを睨んでいたアテナの目がアルマへ向く。
「まぁ人形の存在はともかく、失敗の罰として命まで奪うのは憚られると思うの。
だけど普通の処罰を受けて、その内容の過酷さで不運にも命を落としたとしたら?」
「まどろっこしいのぉ。
何をするつもりか言わんかい」
アイリーンの過激な発言にもアルマは全く動じる様子は無かった。
「人形に、А級天使の昇格試験を受けさせるわ」
「そんな!! ペネムエはまだ天界学校を卒業したばかりのC級なのよ!!
A級なんて無茶苦茶なのよ!!」
アテナは机を強く叩き反対する。
「無茶苦茶だから処罰であり処分する機会になるんでしょう? それにC級だからってА級の試験を受けれないなんて規則は無いはず。
人間を危険な目に合わせた処罰としては適切。
むしろ昇格のチャンスがある分、表向きは寛大な措置と思うのだけれど?」
アテナはそれ以上反論できなかった。
アイリーン過激な発言はともかく、処罰として試験を受けるというのは本来は処罰と言えないほどの軽い措置だからだ。
「じゃがのぉ。アイリーンよ。ペネムエは天界図書館に保管さてている全ての知識を記憶しておるぞ?
A級に受かる可能性はゼロとは思えんのだが、受かったら処罰にならんしペネムエに不振がられんかのぉ?」
「試験を受ける事を処罰にするつもりで結果は問わないわ。
まぁ人形には、受かったら北風なんとかの調査を命じる。失格の場合は天界に帰還って言っておいたら?
魔法なしで戦闘するには厳しい相手だろうし、そっちでも死んじゃうかもね?
帰還は、天界にいたくない人形には十分な罰でしょう?
まぁ今回の試験官は私。失格で人形の命を保証する気は無いわよ?」
アルマの問いにアイリーンは満面の笑みで答えた。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
ストーリは一生懸命練って執筆しております。
少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。
下の星から評価も、面白いと感じたら、入れてくださると嬉しいです。




