61話:初恋から悩みが始まりそうです
ここは六香穂市の駅前にある古民家風の喫茶店。
今は平日の午後3時を回った頃。
ペネムエは白いワンピースに服の形状を変え、メイド服姿のリールとショートケーキセットを食べていた。
ペネムエは紅茶、リールはハーブティーのセットだ。
「そして翔矢様はボロボロになりながらも立ち上がり言って下さいました。
『ぺネちゃんは家族だ!!』と」
ペネムエは顔の筋肉が全て緩みきった顔でリールに、この前の出来事を話していた。
「……ペネムエ、その話は今ので8回目なんだけど」
しかし今日だけで何回も同じ話を聞かされているリールは飽き飽きしている。
それでも友人の嬉しそうな顔を見ると、話しを途中で遮る事はできなかった。
「もっ……申し訳ありません。
やっぱり変ですよね? わたくしは翔矢様を御守りする為に、この世界にいるはずなのに……
それなのに、翔矢様から護って頂けたことが、助けに来てくれた事がこんなに嬉しいなんて……」
今の今まで幸せそうだったペネムエの顔に陰りが見えた。
「嬉しかった事は、素直に喜べばいいんじゃない?
まぁ、あいつの命を狙ってる私が言うのも変だけどさ」
リールは、恥ずかしそうに頭を掻いていた。
「……そう……ですかね?」
「そうよ!! どうせなら本当に家族になっちゃえば?」
「……と言いますと?」
ペネムエは急にポカンとして頭を傾げる。
「いや。だって宮本翔矢の事、好きになっちゃったんでしょ?
転生の件はあるけど……まぁ天使はゲートが開いてれば、どこの世界にも行けるから、恋愛の応援ならするわよ?」
「マッマジェス・ボドボド・アルデンテ・サバサバ!!」
「……ごめん。私の知ってる言語で話してくれるかしら?」
「すっ……すいません。動揺しました。
そっそんな……すっ好きだなんて!!
種族が違いますし、そういうのでは無い気がしないでもなくもなくもなくも」
「それは、気がするのか、しないのかどっちなのよ……」
リールは呆れながらも話を進めた。
「別に天使と人間の恋愛が禁止って規則はないわよ?
家庭に入って、その世界に永住してる天使だっているし。
そりゃあ天使の方が人間よりも長生きするし一緒に歳を重ねる事はできないけど……
愛する人の人生を最期まで見届けるって所に幸せを感じるのが天使だし。
まぁ人間の方が、どう思うかは世界それぞれだけどさぁ」
「翔矢様が助けに来てくれた時は本当に嬉しかったですし、もちろん感謝しております。
でっですが決して恋愛感情などではありません!!」
「まぁそりゃそうよねぇ。好きだったとしても宮本翔矢には彼女いるものねぇ」
「そっしょうにゃんでぃしゅか?」
謎の声を発したペネムエの目には、アニメでしか見る事が無いような量の涙が溜まっていた。
「それだけショックを受けるって事は、好きなんじゃない?」
「リールは意地悪です……」
ペネムエは頬を膨らませながらリールを睨んでいる。
「ごめんごめん!! まぁ私も本当の所は知らないんだけど、一緒に生活したり学校について行ってるあんたが知らないんだから、いないんじゃない?」
「そっそうですかね?
学校と言えば、わたくし達くらいの年代の人間は学校に通っている時間なので、お店にいるのはマズいのでは?」
ペネムエはハッと我に返り話題を変えた。
「私は中卒でフリーターって事になってるから問題ないんだけど、あんたはどう見ても現役の中学生だもんね」
リールはハーブティーのカップを持ちながらくクスクスと笑っている。
「地球の計算で140年生きてはいますが、天使の成長は肉体的にも精神的にも人間の10分の1程度のスピードなので中学生でも間違いはないですけどね」
「この時間は滅多に人は来ないし、マスターが天界の事情を知ってるらしいから大丈夫よ」
「平日とはいえ、おやつ時にお客さんが来ないのは致命的では?
リールよくバイトで雇ってもらえましたね?」
中学生呼ばわれされたことなどペネムエ気にする様子は見せずに、リールのバイトの事に話を移した。
「天界の事情知ってるって事だし、別にお金のために店を構えてる訳じゃないんじゃない?」
「事情を知ってるって……まさか天使ではないですよね?」
いかにも喫茶店のマスターといった雰囲気の男にペネムエが警戒しながらコッソリと目を向けると、視線に気が付いたマスターは親指をグッとサムズアップして笑顔を見せた。
「わたくしに敵意は無いみたいですね」
ペネムエはマスターの対応にホッと胸を撫でおろした。
「警戒しすぎよ……」
その姿にリールは悲しそうな顔をして見せる。
「リールも知っての通り、わたくしは……天界にいたくありませんでした。
しかし学校を卒業したばかりでC級の天使では他の世界に永住する権利はありません。
それで……女神アルマ様が翔矢様を御守りする今の任務を進めてくださったのです。
翔矢様を護り通せれば、アテナ様が転生をあきらめない限り、ノーマジカルとうい世界にいられると……
もちろん、人間を転生させて大魔王ベルゼブを倒させるという作戦には反対です。
しかし、使命感よりも天界から離れたいという気持ちが強かったのは間違いありません。
そして今は、ただただ翔矢様と一緒にいたいという気持ちでいっぱいなのです……
わたくしは……常に天界の任務や人間の事よりも自分を優先してしまっています。
そんなわたくしにこれ以上、翔矢様と一緒にいる資格なんて
……幸せになる資格なんてないのです」
ペネムエは俯いてしまった。
「あんたにとって天界ってのは、いたくないくらい嫌な場所なんでしょう?
だったら指名とか深く考えないで仕事だけもらう場所くらいに思っておきなさい。
ほら!! 人間だって生活の為に、いたくない場所で働いてるじゃない!?」
「いたくない場所で働くのならば、わたくしは天界にいるべきなのでは?」
ペネムエはさらに俯いてしまった。
「面倒くさいわね!! じゃああんたは宮本翔矢と天界の、どっちが好きなのよ?」
「それは……しょ翔矢様です」
顔を耳まで真っ赤にして答えた。
「だったら、天界じゃなくて宮本翔矢の為に任務をこなしなさい!!」
リールの口調はとても力強かった。
「でも……わたくしのせいで翔矢様を危険な目に合わせてしまいました」
「それは、あいつなりに、あんたと一緒にいた方が幸せだって思ったからじゃないの?」
「そう……なんですかね?」
「家族って言われたんでしょう?」
「はい!!」
ペネムエはようやく笑顔を取り戻した。
それでも、すぐに表情は曇ってしまう。
「しかし『天の議会』が今回の件にどんな判断を下すか……
この世界にいられなくなる可能性は高いと思います」
「時の流れが違うから計算しにくいけど、今頃は議会の最中でしょうね……」
リールも現実を思い出したかのように表情を曇らせてしまった。
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