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エピローグ(すき焼き)

 ペネムエを救出した日の晩、翔矢はグミとリールを自宅に招待して夕食の準備をしていた。


 グミにペネムエの救出を依頼した際に、対価として肉料理をご馳走すると約束したので、それもかねてだ。


 ペネムエ、リール、グミの3人はリビングの椅子に座り待機している。


 「別に、こんニャに急がニャくても良かったのに」


 「いやー悪魔との契約とか先延ばしにしたら、どんな災いがあるか分からないからなぁ」


 「やっぱり、どこの世界も悪魔のイメージ悪いんだニャぁ」


 翔矢の言葉にグミはガクッと肩を落とした。


 「悪い悪い、冗談だよ。色々あったけど、今日ならみんな揃ってていいなって思っただけ」


 話ながら台所からリビングに、すき焼きの具材を持って戻って来た翔矢は、テーブルに準備していたガスコンロにカッチッと火をつけた。


 「お鍋料理ですね」


 ペネムエは、コンロの上の鍋をまじまじと見つめている。


 「そっ、すき焼きっていう肉料理だ。

 いや本当は肉で取った出汁で豆腐を味わう料理らしいけど……

 まぁ大抵の人の頭は肉の頭になっちゃうし肉料理って事で」


 「肉の頭って何よ……ところでこの卵は?」


 リールは、全員に1個ずつ用意されている卵の用途が分からず手に取りながら訪ねた。


 「あぁ割ったら適当に、かき混ぜてくれ。殻はこれに入れて」


 翔矢は全員の手が届く位置にボールを置いた。


 「この卵は何に使うニャ?」


 グミは訊ねながら、すでに卵をかき混ぜ始めている。


 「それに肉とか豆腐とか付けて食べるんだ」


 「はっ?」

 「ニャっ?」


 翔矢のその言葉にリールとグミはかき混ぜていた手を止めて固まってしまった。


 「あれ? 俺何か変な事言った?」


 「変っていうか……」


 「生の卵を食べるニャ? それも熱々の肉やら豆腐やらを入れて……」


 2人のその反応を見た翔矢は何となく事情が分かって来ていた。


 「あぁ……海外の人とかも生卵を食べるのは抵抗があるって聞いたことあるな。

 異世界の人もダメだったか。他に何かすき焼きに付けれる物ってあったかな」


 翔矢は何か卵の代わりになる物はあるかと考え込んだが案が浮かぶ前にペネムエが口を開いた。


 「リール、グミ様。日本の卵は品質が良いので生でも安心ですよ。

 正直、わたくしも最初に見たときは驚きましたが、今ではおいしく頂いてます」


 「そう言えばペネちゃんには納豆の時とか生卵よく出してるからなぁ。

 って最初は抵抗あったんだね……」


 その事実に翔矢は少しショックを受けた。

 

 初めて出した時も納豆の見た目には驚いた様子だったが生卵は普通に受け入れているような印象を受けたからだ。


 「世界には、それぞれの食文化がありますからね。

 極力、食わず嫌いはしないように心がけております。

 今では、おいしく頂いておりますので、お気になさらず」


 「肉料理をリクエストしたのはニャーだからニャ。

 この世界のルールに、従うとするニャ」


 「私も、ごちそうになる身だから従うわ」


 ペネムエは慣れた様子で卵をかき混ぜているが、リールとグミは深刻な表情で卵をかき混ぜている。


 「……そんな大げさな。食べたら気に入ってくれると思うけど2人とも無理しないでね。

 代わりになる物考えておくから」


 と翔矢は声をかけてみたが、リールとグミは真剣に混ぜ続けているので聞こえているのかは定かではない。


 「おっと話している間に、いい塩梅かなぁ」


 テーブルの真ん中にセットされた鍋がグツグツと音を立て煮えてきたので、火を弱めた。


 リールとグミが未だに卵を混ぜ続けているので翔矢は先にペネムエの分を、よそい手渡した。


 「ありがとうございます!! しかし、このような高級料理をわたくし達で頂いて良いのでしょうか?」


 受け取った器を見つめながら、ペネムエは申し訳なさそうな表情を見せる。


 「親父の事? 後で好き煮にでもして出しておくから気にしないで食べてくれ。

 ってか男の2人暮らしで鍋とか、食べる機会ないし俺自身が普通に楽しんでるから」


 「そういう事でしたら遠慮なく頂きます!!」


 ペネムエは大きく口を開け、すき焼きを頬張った。


 「ほいふぃいです!!」


 口いっぱいにすき焼きを入れ何かを話している全く聞き取ることができない。


 それでも顔の筋肉の緩みきったペネムエを見れば言いたいことは翔矢には分かった。


 「良かった。でも食べながら喋るのは行儀悪いよ」


 その言葉にペネムエは恥ずかしくなったのか顔を赤く染め、口の中のすき焼きをゴクンと飲んだ。


 「失礼いたしました」


 「まぁ、おいしく食べてくれれば何でもいいんだけどね。

 って……お前たちは、いつまで卵をかき混ぜてるんだよ!!」


 ペネムエが最初の1杯を食べ終わってなお、リールとグミは黙々と卵をかき混ぜ続けていた。


 「はっ!! しまった!!」


 「つい心を奪われていたニャ!!」


 翔矢のツッコミで我に返った2人は、ようやく手を止めた。


 「マジで何やってるんだよ……

 ほら!! よそってやるから器よこして」


 「頼むわ!!」

 「ニャッ!!」


 グミとリールが、同時に器を差し出した。


 そして2人は、鋭い目で睨み合う。


 「このすき焼きという料理は、あくまで悪魔族であるニャーとの契約による物ニャ。

 ニャーが一番に食べるべきニャ」


 「ぺネちゃんが先に食べたけどな」


 「……助けて頂いた身なのに申し訳ないです」


 「今のは、ちょっとした習性のツッコミだから気にしないで」


 と翔矢とペネムエがコソコソ話している内に、リールとグミもヒートアップする。


 「私だって、あんたとの契約で手伝いに呼ばれたのよ?

 食べる権利は、あるはずよ!!」


 「うん。早く食ってくれ。それで呼んだんだから」


 翔矢のツッコミも無視して2人の言い争いは激しくなる。


 「つまり雇い主はニャーって事ニャ。

 というか、今回手伝ってもらったのは、前回の仕事の報酬としてニャ。

 優先権はニャーにあるニャ」


 「ぐぬぬ」


 「どうでもいいけど、もう分けてあるから冷めないうち食ってくれ」


 「はっ?」

 「ニャッ?」


 2人が同時に自分の器を確認すると、確かにすき焼きが分けられていた。


 「今の……なに? 魔法?」


 「悪魔族のニャーでも気が付かなかったニャ!!」


 「お前たちが下らない事で揉めてる間に分けておいたんだよ」


 「翔矢マジ有能!!」


 「ニャー!!」


 「いつになったら食うんだよ……」


 何だかんだで、中々食べようとしない2人に、流石に翔矢も痺れを切らしてきた。


 「ごめんごめん。じゃぁ頂くわ!!」


 リールはすき焼きを肉を箸でつかみパクリと食べた。


 「おっ、おいしい!! 生卵と牛肉の出汁がベストマッチねぇ!!

 ただ、もうちょっと温かくてもいいと思うわ!!」


 「そりゃ、時間が経ったからだ」


 「ニャーは熱いの苦手だから、ちょうどいいニャ!!」


 「やっぱり猫舌なのか……

 まぁ時間経って食べやすくなっただけなんだが……」


 「いや、長年熱い食べ物に悩まされてきたニャーには分かる。

 この生卵が肉を包み熱さを軽減してくれてるニャ!!」


 グミは、まるで世紀の大発見をしたかのように目を輝かせている。


 「あぁ、そんな話あったっけなぁ。あんまし意識した事ないけど」


 その後は全員順調に、すき焼きを平らげた。


 熱い物が苦手と言っていたグミは、少しペースは落ちたが生卵効果なのかパクパクと食べていた。





 *****





 食事が終わり少し経ちリールとグミは、それぞれ帰ることになった。


 「ごちそうになったわね。まぁ結構おいしかったわ」


 「ニャーもおいしかったニャ!!

 今回の依頼中に手に入ったアークゴブリン達の素材込みで収支プラスニャから次回おまけするニャ!!」


 「北風エネルギー……また何か仕掛けてくるか分からないからな。助かるよ」


 「おっと、家に置いてきたニャーの身代わり式神が、そろそろ消えちゃう時間ニャ。

 悠ニャに心配されるニャー!!」


 グミは黒猫の姿になると、シュタタッと勢いよく家を飛び出して行った。


 「私も明日、バイトで朝早いのよ。

 今日は、ありがとう」


 「こちらこそ、ありがとうございました」


 ペネムエはペコリと頭を下げた。


 「……そのセリフ、今日何回目よ」

 

 リールは、小さな声でそう呟くと顔を赤くし家を出て行った。


 「ところで翔矢様」


 「なに?」


 「リールのバイトって何をしてるんですかね?」


 「さぁ? 後で本人に聞いてみたら?」


 「何故か本人に聞くのは気が引けてしまいます」


 「……だよね」


 今日1日、バイト先の服装だというメイド服のリールの姿を見て、翔矢とペネムエがずっと、その事で頭が一杯だったのを本人は、まだ知らない。

 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 ストーリは一生懸命練って執筆しております。


 少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。


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