60話:終戦から次の策が始まりそうです
「これで一安心ね」
リールは、鷹野・虎谷・八田の首元に順番に手を当て脈を測り、命に別状がないのを確認するとホット一息付いた。
「また、ヘンテコロボットアーム出てきたり、閉じ込められる前に外に出ようぜ」
翔矢は、まだ気を張っていて辺りをキョロキョロしている。
「そうね、ってか私より先にこっちに向かってたグミは何やってるのよ……」
魔法の使えないノーマジカルでの悪魔族は、天使よりもずっと強いので心配はしていないが、戦闘が終わってなお合流できていないことが気になってきた。
リールが通気口から脱出して以降ドタバタで、正直グミの事は今まで忘れていたのだが。
「あの……翔矢様、リール……
わたくしの不注意で危険な目に合わせてしまい本当に……」
話すタイミングを計っていたペネムエが2人に謝罪をし終える前に、壁からドカドカという音が聞こえてきた。
この場にいる全員が壁の方を向き、警戒態勢に入り音の方を振り向くと同時に壁に直径2メートルほどの穴が開いた。
「ニャニャッと参上!!」
壁を破壊し現れたのはグミだった。
「……なんて登場の仕方してるのよ」
翔矢とペネムエは唖然と穴の開いた壁を見つめているが、リールだけは呆れながらツッコミを入れる。
「いやー魔力を辿って最短ルートで来たんニャが遅かったみたいだニャー」
それでもグミは全員が無事だったことに安心しホッと肩を撫で下ろした。
ペネムエは、今の衝撃でハッとした。そしてさっきまで言おうとしていた言葉を胸にしまった。
ここで誤れば、また翔矢に怒られてしまう。翔矢だけでない、きっとリールにも怒られてしまう。
「あの……翔矢様、リール、グミ様。助けに来て下さりありがとうございました」
ペネムエは深く頭を下げた。そしてゆっくりと頭を上げると翔矢の笑顔が見えた。
「どういたしまして、無事……って言っていいのか分からないけど、助けられて良かったよ」
「ニャーは悪魔族ニャから報酬さえ手に入れば礼は不要ニャー。
一番肝心ニャ時に役に立てなかったみたいニャし……」
グミはそう言いながら頭の後ろをポリポリと掻いている。
「私は、まぁ知らない仲じゃないしぃ、あんたが居なくなったから転生成功できたとか思われたくないから手を貸してあげただけよ」
リールはペネムエの目を見ることができず顔を赤くしてプイッと横を向いている。
「こいつ真っ先にゴブリンに殴られて気絶したんだけどな」
「うっうるさいわねぇ!! あんたは、あの後のアークゴブリン戦の私の大活躍を見てないからねぇ!!」
呆れ顔で、からかってきた翔矢にリールは更に顔を赤くして反論をする。
「それでもリールが居なければ最後の時間稼ぎは成功しませんでした。
……えっ? ゴブリン相手に気絶?」
ペネムエは首を横に傾げポカンとした。
「そこに触れるなぁ!!」
リールの顔の赤面は、もはやタコレベルの赤さになっていた。
「所で、今言ってた転生って何の事ニャ?」
「それにも触れるなぁ!! ほら、さっさと脱出するわよ!!」
グミの質問も何とか交わし、4人は無事に北風エネルギー六香穂支社を脱出したのだった。
*****
「どうやら我々の負けのようだな」
北風エネルギー東京本社のモニターで一部始終を見ていた主任の蓮は、戦いが終わった後もモニターを見つめていた。
「まぁ勝っていたとしても、奴らは地球に何匹来ているか分からないからねぇ。
今後の戦いのデータが取れたという事で十分だと思うよぉ。
100匹いる虫を2、3匹倒したとしても対して変わらないからねぇ。
今は、確実に倒せる殺虫剤を開発する方が得策さぁ」
ドクターは会議用の椅子に座りクルクル周りながらハイテンションで見解を述べた。
「その殺虫剤は作れそうか?」
蓮はドクターのテンションを気にすることなく、真剣な眼差しで問いかける。
「君の弟君にも渡した通り、試作品は完成しているからねぇ。
ただ知性を持つウィザリアンの戦闘力を見ておきたかったのさ。
後の課題は、やっぱり量産化かなぁ? 人工魔力を流し込むってのが一番安上がりなんだけど、今回の戦いを見る限り、やめた方がいいねぇ。
と言っても試作品は所詮は武器だから魔力を流し込むのと違って生身のままだし、不安が残る所だけど……まぁ今回のデータを元に頑張るよ!!」
ドクターは30歳を超えているとは思えない、無邪気な笑みでやる気を見せた。
「それとウィザリアンに味方する人間に鈴と同じ力……マモンキューブが渡ってしまったのは厄介だ」
「君の弟君に僕の開発した試作品は渡してあるけど、中々後輩思いのようだからね。
戦って奪うのは拒まれるだろう。盗もうにも空海山での話を聞く限りウィザリアンには姿を消す力もあるらしい。
盗んでる所を見つかったら面倒くさいねぇ」
蓮とドクターが策を考え沈黙している所に最年少である鈴が口を開いた。
「何を迷っているの? マモンキューブにはマモンキューブの力。
力ずくで奪えばいい。ウィザリアンが邪魔するなら倒してしまえばいい」
「鈴、やってくれるか?」
「君の力なら、確かに宮本翔矢もウィザリアンもまとめて相手にできるかもしれないねぇ」
鈴は、けん玉をしていた手を止めコクリと頷いた。
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