59話:作戦からツッコミが始まりそうです
「ちょっと!! この作戦本当に大丈夫なの?」
「現状、これが一番安全に時間が稼げるのです」
ペネムエの立てた作戦に従う事にしたリールだったが、やや不安そうだ。
その作戦は、鬼となった八田の目線の位置で飛び回り、ひたすら攻撃を回避し続けるという物だった。
ペネムエは空飛ぶ雲のマジックラウドに、リールは空飛ぶ絨毯に乗っている。
「陸地で攻撃を回避すると、御相手の拳が地面に当たり反動で腕が砕けてしまいます。
それでは人間に戻った後に後遺症が残ってしまいます。
空中であれば、壁際に寄らなければ拳は空振り。
腕に負担は与えません」
ペネムエはヒョイヒョイと攻撃を回避しながら、作戦を説明した。
「そうかもいれないけど、相手の魔力そんなに減ってないわよ?
あと、何時間これを続けるのよ!?」
リールも攻撃を旋回したりしながら回避しているが、この作戦には不満と不安があるようだ。
「魔力を吸う類の魔法など使えれば楽なのですけどね
アテナ様と連絡は付かないのですか?」
「さっきも言ったでしょ?
たぶん、この会社で見つけた資料見るのに夢中になって気づいてないわ」
リールは今日の出来事を、攻撃を回避している間にペネムエに伝えていた。
女神アテナが、会社に侵入するさいに魔法で干渉し鍵を破壊してくれたので、八田の魔力もなんとかできると思ったのだが、それは叶わなそうだ。
「あんたこそ、アルマ様と連絡付かないわけ?」
「先ほどから、お呼びしているのですが連絡なしですね……
現在2時間待ちです」
「やっぱり、アルマ様は抱えてる天使が多すぎて厳しいわねぇ」
「いや……2時間待ちって遊園地かよ!!」
体はダメージが残っている翔矢だったが、ペネムエとリールの会話に、ついつい大声でツッコミを入れてしまう。
「ぐぉぉぉぉぉ」
「えっ?」
その大声の反応した八田は翔矢に狙いを変え、ゆっくりと向かってくる。
翔矢の周りは光の牢獄で守られているが、最初にもらった1発で、すでにヒビが入っている。
これ以上は持たないだろう。
「あんたねぇ!! ツッコミで足引っ張るんじゃないわよ!!」
八田の攻撃は、リールが絨毯から飛び降り、サーベルをクロスさせることで防がれた。
リールは受け身を取ったものの、少し後ろに跳んでしまう。
「わっ悪い……いつもの癖でつい」
「やっぱり、動けない奴がいるのは危ないわね。
これ飲んでおきなさい」
リールは青い瓶を光の牢獄から翔矢に手渡した。
「ポーション? でも色が違う気が……
ぺネちゃんから、さっきもらったよ?」
今の空中を逃げ回る作戦の途中で、翔矢はペネムエからポーションを受け取り、ある程度の怪我は回復していた。
それでも、骨は完全には治らず激しくは動かせない状態だった。
「これは、怪我専用のポーションよ。
体力は回復しないけど、骨折ならギプス取ってすぐくらいまで回復するわ。
動けるようになったら、適当に距離取って逃げてなさい」
「了解、サンキューな!!(何これ塩辛い……)」
翔矢はポーションをグィッと飲み干すと礼を言った。
その味は見た目のイメージとは違ったので少し困惑した顔になってしまった。
「かっ勘違いしないでよね!!
動けないままいられても足手まといだし、あんたに何かあったら転生できなくなってマキシムを救えなくなるでしょうが!!」
「まぁ、そういう事にしといてやるよ」
翔矢は軽く微笑むと、ポケットから赤いメリケンサックを取り出した。
「いや……待ちなさい!! 戦えとは言ってないはよ?」
リールは赤いメリケンサックを発動させようとする翔矢の右腕をガッチリと掴み、発動を止めた。
「なにするんだよ」
「逃げてなさいって言ったでしょ!? ペネムエから聞いたけど、そんな得体のしれない奴からもらった得体のしれない物をポンポン使うんじゃないわよ!!
今回の件が片付いたら、鑑定するから」
「いや、これ使った方が速く動けるし、逃げやすいんじゃないか?」
「得体がしれない物じゃなかったら、それでもいいんだけどね……
まだ本調子じゃないだろうし、本当に危ないとき以外は使わないことね」
「……分かったよ」
翔矢は渋々承諾したが、いつでも発動できるように右腕に赤いメリケンサックを装着したままにしておいた。
「あんた、そんな力を手に入れたからって、すぐに使おうとするような性格だったっけ?」
「あのっ!! リール、すいませんがそろそろ限界です!!」
翔矢の態度に疑問を持ったリールだったが、1人で八田の攻撃を回避し続けていたペネムエに呼ばれ、再び空飛ぶ絨毯に乗り作戦に戻った。
「まぁ確かに逃げ回る作戦なら、無理に参加しなくてもいいかな」
翔矢は、そうボソッと呟くと、いつ壊れるかも分からない光の檻からは抜け出し、部屋の隅に待機した。
*****
「目算で、半分以上は魔力が減りましたかね?」
「これで半分は厳しいわねぇ」
再び作戦通りに逃げ回るペネムエとリールだが、やはり動き回るだけでは八田の魔力を減らすには効率が悪い。
リールは段々と痺れを切らしていた。
「そうですね…。極力肉体にダメージを与える行為は避けたかったのですが……」
ペネムエはそう言いながらポーチを漁ると吹き矢を取り出し、八田に向かってフッと矢を飛ばした。
飛ばされた矢は八田の首筋に当たり、八田はその場にガクッと倒れ込む。
「麻酔針かぁ。ってかあるんなら最初から使いなさいよ」
「ちゃんと効くかもわかりませんでしたし、魔法の麻酔がこの世界の人間に与える影響も未知だったので使用は避けたかったのです」
「まぁ魔力の麻酔は、大した効果が無いから大丈夫でしょ」
「そうですね、本来は寝不足解消程度の使い方ですからね」
「あんたは知識あるのに、色々警戒しすぎなのよ」
「ノーマジカルは不確かな世界ですので警戒に越した事はないと思うのですが」
「魔法の道具は、いつもと変わらずに使えるんだから大丈夫に決まってるでしょ!?」
「そうですね。少し考えすぎたかもしれません。
実際、先ほどまで眠っていた御相手が既に起き上がっております」
「ほらね、ちゃんとピンピンして……
きゃぁぁぁぁぁ!!」
「結果を急ぎ過ぎましたね。
この世界では短気は損気という言葉があるらしいです」
1度は八田を眠らせる事に成功したが、すでに目を覚ましており2人に今にも襲い掛かりそうな状態だった。
「ペネちゃん!! リール!! 危ない!!」
翔矢も八田の動きに気づき声を上げたが、時は既に遅くペネムエは八田の右腕に、リールは左腕にガッチリつかまれてしまった。
「うっ……」
鬼となった力はすさまじく2人の体からミシミシと音が聞こえてくる。
「もう俺がやるしかない!!」
翔矢は前に飛び出し赤いメリケンサックを構えた。
「まてぃ。そのままジッとしておれ」
「えっ?」
しかし翔矢の頭に、口調は老人臭いが幼い少女の声が頭の中に響いた。
急に聞こえた声など、無視してしまいそうな勢いの翔矢だったが、神秘的な印象も受けるその声に思わず手を止めてしまった。
「それでよい!! 【タキオン・ザ・タイム】」
幼い声が呪文を唱えると八田の体中に時計のような模様が浮かび上がり、あっという間に八田は人間の姿に戻り意識を失ってしまう。
「ふぅ……3日は時間を進めたぞ。こりゃ時間稼ぎで元に戻すなど無理だったのぉ」
幼い声は、やれやれといったトーンでため息を憑きながらも、安心したようだった。
八田から解放されたペネムエとリールも無事に着地していた。
2人には、幼い声は聞こえていなかったが、こんな魔法を使える人物は1人しか思い付かなかった。
「……アルマ様?」
女神アルマが助太刀してくれた事にペネムエはホッとしたが、同時に連絡が取れなかったのにも関わらず的確な魔法を使用したアルマに少し疑問を持ったのだった。
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