56話:力から鉄拳が始まりそうです
「なんだ? ありゃあ?」
「我々と同じ魔力でしょうか?」
赤いオーラを纏った翔矢の姿を虎谷と鷹野はジッと観察した。
しかし、これが何なのか結論が出せるはずも無かった。
「ガハッ……」
いつの間にか2人の視界から消えていた翔矢の右拳が鷹野の右腹を殴り、吹き飛んだ鷹野はペネムエの横を通り過ぎ、壁に激突した。
「えっ?」
首も動かすことができないペネムエは状況をハッキリとは理解できなかったが、翔矢の力が異常に上がっている事は分かった。
体内の魔力の残量に比例して身体能力は上がるが、これは体内に魔力が生まれているだけではない。
肉体強化系の魔法が発動しているに違いないと思った。
(翔矢様の手に入れた武器。【コネクト:ファイター】と言いましたか?
コネクトと言うのは分かりませんがファイターは、確か武道が盛んな世界の試合で使用されている魔法だったはず。
他の世界ではマイナーな部類の魔法ですが何故翔矢様……いえ……あの武器で発動したのでしょうか?)
いくつもの疑問がペネムエの中に生まれたが今は見る事しかできない。
翔矢が怪我なく、この場を乗り切る事。ただそれだけを祈った。
「やってくれるじゃねぇか!!」
鷹野が倒された事に激怒した虎谷は翔矢に殴りかかった。
しかし、その拳は翔矢の右手に掴まれてしまう。
「なっ……ぐぁぁぁぁぁ!!」
掴まれたのに驚く暇もなく、虎谷の右腕は激痛に襲われた。
翔矢は虎谷の拳を握り潰そうとしているのだ。たまらず空いている左手で翔矢にツッパリを喰らわせ距離を取った。
「くっ……馬鹿力め」
「それはお互い様だろ」
2人は、そのまま睨み合った。
*****
その頃、北風エネルギー東京本社では主任である蓮が部下の鈴を呼び出してた。
「どうしたの? 蓮……主任」
鈴は北風エネルギーの正社員ではあるが、中卒で採用されたばかりなので、まだあどけなさが残る。
「戦闘訓練が終わって疲れている所、悪いな。これを見てくれ」
蓮に言われるまま、鈴は首にかけたタオルで汗を拭いながらパソコンのモニターを覗き込む。
画面には、1人の大人と1人の鈴と同世代くらいの男が戦っていた。
大人の方は体中に奇妙な模様が浮かんでいて、自分と同世代くらいの男は赤いオーラのような物を纏っており異様な光景だ。
「ごめん……ちょっと状況が分からない」
画面を見つめたまま思考停止状態になってしまった鈴に状況を説明したのは、どこにいたのか急に横に現れたドクターだった。
「君が訓練兼討伐でゴブリン狩りをしている間にねぇ……」
ドクターは知性を持つ銀髪のウィザリアンを捕えたこと、その仲間らしい2人のウィザリアンと人間が六香穂支部に侵入した事を簡単に説明した。
「ふぅん。この赤いの出してる子は普通の人間?」
「あぁ……健吾の……後輩だ」
「あのセクハラの?」
「まぁ彼の素性については置いておいて、手にした力は興味深いよ?」
ドクターは映像を、翔矢がキューブを手にする所まで巻き戻した。
「これって!?」
キューブを見るや鈴は強い反応を見せた。
「あぁ。古代遺跡で発見した君が手にした力と同じだねぇ」
ドクターは鈴の腰に付いているけん玉を指差した。。
「宮本翔矢が手に入れた力も、鈴君の手に入れた力も元は古代遺跡で発見されたキューブって訳だねぇ」
「奴にキューブを手渡した白銀の騎士は何だったんだ?
あの遺跡と関係があるのか?」
「分からないけど、体内から魔力は感じられないしウィザリアンでは無いねぇ」
ドクターはパソコンの映像をサーモグラフィーのような画面に切り替えていた。
白銀の騎士は黒いシルエットで映っている。これは魔力が無い事を表している。
「鎧のは……人工魔力を注入した人間に負けている。
それなら……敵でも私、勝てる」
白銀の騎士と虎谷、鷹野の戦闘の映像を見た鈴は、小声ではあるが自信満々に答えた。
「今の所やっかいなのは、黒猫に化けるウィザリアンと、力を手に入れた宮本翔矢ってことだねぇ」
ドクターがモニターをリアルタイムの映像に戻すと、3人は画面をジッと見つめるのだった。
*****
睨み合ったまま数秒硬直した翔矢と虎谷だったが、すでに戦闘を再開していた。
「最初は驚いたが、動きと力に慣れちまえばどうって事ねぇな」
最初の方こそ手に入れた力で虎谷を押していた翔矢だったが、徐々に攻撃が防がれてきていた。
翔矢は喧嘩の腕には自信があり、殴り合いなら負けない自信があった。
だが何故か虎谷との魔法の力の性能の差が、最初の一撃を与えたときよりも小さくなっているのを感じた。
「ぐっ」
さっきとは反対に、翔矢の拳が虎谷に受け止められ掴まれてしまう。
「さっきの、お返しだー!!」
虎谷は、赤いメリケンサックが装着された翔矢の腕を握り潰そうとする。
翔矢の腕からなのかメリケンサックからなのか、ミシミシという音が鳴る。
「くっ……」
「諦めろ。人工魔力は使用時間が長くいなるほど、体内での蓄積量が多くなるらしい。
長引くほど、俺様が有利って訳だ」
「なるほど……メガネの方は、すぐに倒せたのにおかしいと思ったぜ」
「その変わり開発中の試作品で、理性もぶっ飛んじまってる。
正直、今お前を殺しても何とも思わないぜ」
虎谷の体の模様は、全身に隙間なく広がっており、もはやどんな模様なのかも確認できない程だ。
「そりゃあ怖いな」
口では、そう言っているが翔矢の心に恐怖心は無かった。
翔矢の全身を覆っていた赤いオーラは、左手に集約されていく。
「だったら、勝てなくなる前に終わらせるだけだ!!」
左拳は虎谷の顔面に迫っていく。
それを見て、虎谷は思い出した。
(紅の鉄拳……そうだ、こいつが本気を出すときは左……)
思い出しきる前に、体は宙に浮きドスッっと音を立て倒れた。
「はぁ……はぁ……今度こそ終わった」
これで、やっと助けられる。そう思い翔矢は再びペネムエの方に歩み寄った。
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