55話:白銀の騎士から戦う力が始まりそうです
「あれ?」
翔矢は目を覚まし現実へと戻った。
誰かと話していた気がするが全く思い出す事はできない。
それでも気絶する前の事は、はっきりと覚えていたので慌てて起き上がりペネムエのいる方に目を向ける。
拘束されたままのペネムエの前には、白銀の鎧を身にまとった騎士が立っていた。
白銀の兜を被っており、顔はおろか性別も見ただけでは判断できない。
「随分と熟睡していたようだな」
白銀の騎士は翔矢と目が合うと、小さな声で一言そう言った。
兜で声は籠っているが若い男のようだった。
「こいつ、いきなり現れやがって……」
「さっきのゴブリンといい本部は、ホールの管理をさぼっているのですか!?」
体中が禍々しい模様でいっぱいになっている虎谷と高野は、少し疲れを見せている。
察するに翔矢が寝ている間に、白銀の騎士と少し交戦したのかもしれない。
「ホールねぇ。俺は別にゴブリンみたいに外から来た訳じゃないからなぁ」
白銀の騎士は見た目の印象とは違い、口調は少しチャライ印象だった。
「まぁ、お前がどこから来た誰だろうが関係ねぇ」
「邪魔者は排除するだけです」
虎谷と鷹野の体の模様は黒く輝きだした。
「はっ!!」
2人は左右に分かれて同時に殴りかかったが、白銀の騎士が虎谷と鷹野に向けて手の平をかざすと、小さな白い魔法陣のような物が出現し白銀の騎士を守った。
「ぐっ」
「これは明らかに魔法……あなた本当にホールを潜って来たのではないのですか?」
虎谷は拳を押さえ、少し怯んだが鷹野は冷静に質問を投げかけた。
「あぁ。お前たちの攻撃を防いだのは、この鎧の力だからなぁ。
お前らが魔力を体に無理やり入れて強化してるのと似たようなものさ」
「だったら、そのガラクタと俺たちの力……どっちが強いか勝負だ!!」
虎谷は、立ち上がりラッシュを仕掛ける。しかし白銀の騎士の魔法陣により1つ1つ防がれている。
しかし、その魔法陣も攻撃を受けるに連れ、ヒビが入って来た。さらに攻撃を受けると、ついに魔法陣は割れてしまった。
「今だ!!」
その隙を2人は見逃さず、白銀の騎士に鎧の上からパンチを喰らわせた。
「くっ……やっぱり、まだ経験値が全然たりねぇか」
その鎧は一撃を受けただけで、すでに拳の跡が付きヘコんでしまっていた。
「なんだ、魔法陣壊せば見かけ倒しの雑魚じゃねぇか」
「鎧に守られてこの程度なら、宮本翔矢の方がよっぽど強いですね」
虎谷と鷹野は、見下すような目で白銀の騎士を見つめた。
「まぁ、そう思うわな」
「何がしたかったのか知りませんが、とりあえず素顔を見せてもらいましょうか」
鷹野は白銀の騎士の仮面に手を掛けた。
仮面はミシミシと音を立ててヒビが入って来た。
「それは……ちょっとまずいな」
仮面がこのまま割れてしまうかと思われたが、白銀の騎士は急に鷹野の前から姿を消した。
「なっ? 消えた?」
「落ち着け!! そこにいる!!」
戸惑う鷹野に虎谷は大声を出し指を刺した。
すぐに鷹野が、その方向を振り向くと白銀の騎士は翔矢の前にいた。
「見た目は、すげぇ怪我なのに元気そうじゃねぇか」
今までの戦いを茫然と見ていた翔矢に白銀の騎士は、そう声を掛けた。
「えっ?」
最初は何の事を言っているのか分からなかったが自分の体を確認すると打撲のような痕が体中にあった。
右腕に関しては、握り潰されたかの紫色に変色した手形が残っていた。
その痕を見て、自分もさっきまで2人と対峙していた事を思い出した。
思い出すだけで体が痛くなりそうだが、不思議と翔矢は痛みを感じなかった。
「これって、あんたが治してくれたの?」
「いいや? 俺もお前が起きる少し前に来たばかりだしな。
何もしてねぇよ。見てるこっちが痛くなって来るが……本人が平気そうなら、まぁいいか」
白銀の騎士は仮面の上から頭を掻いた後、茶色く古びた立方体のキューブを取出し翔矢に手渡した。
「これは?」
無意識にキューブを受け取った翔矢はグルグルと回して全体を見ながら尋ねる。
キューブは手のひらサイズで小さいが、細かい文字のような物がギッシリと書かれていた。
「さぁね。それが何なのかは、お前次第さ。
って事で、俺は失礼するぜ」
白銀の騎士の鎧が急に強い光を放ち、目を開けた時には、その姿は消えていた。
「なんだったんだ?」
翔矢はキョトンと首を傾げたが息を突く暇などなかった。
「お前!! まだ生きていやがったか」
「あの怪我で平然と立っているなんて本物の化け物ですね」
白銀の騎士がいなくなるとみるや2人は標的を翔矢に変え、駆け足で向かって来たのだ。
「翔矢様!! 動けるのなら今度こそ逃げてください!!」
ペネムエが大声を出し翔矢に訴える。
「悪いけど、できないよ。ぺネちゃんが俺を、どう思ってるか知らないけどさ……
少なくとも俺はぺネちゃんの事、家族って思ってるから」
「かっ家族?」
翔矢は、さっきもペネムエの事を家族と言ってくれた。
聞き間違いではなかったのだと分かり、また涙が零れ落ちてきた。
ペネムエには家族などいなかったのだ。
*****
「お母さん!! この前のテスト100点だったの!!」
ペネムエがまだ幼く、天界学校に入学したばかりの頃、初めてのテストで満点を取った。
得意気に母親に見せたが母は大きく、ため息をついた。
「もうお母さんなんて呼ぶんじゃないよ。気持ち悪い」
「えっ?」
優しかった母親が別人のように冷たくなり、ペネムエはテストの答案を落としてしまう。
テストはヒラリと床に落ちる。
「アルマ様に言われて仕方なくお前を預かったけどねぇ、お前は人形。
家族なんて最初からいないのよ!!
天界学校入学までって約束で大金ももらったから今まで我慢してニコニコと育ててたけど、入学してもアルマ様からは何の連絡もありゃしない。
口止めされてたけど、すぐに知っちまう事だろうし、もう限界だよ!!
とっとと出てお行き!!」
それが育ててくれた母親との最後の会話だった。
*****
「逃げるなら今の内ですよ!!」
「まぁ逃がす気はないけどなぁ」
2人は、すでに目前まで迫っていた。しかし翔矢の心は不思議と穏やかだった。
相手の拳が翔矢に当たる寸前で、白銀の騎士から手渡されたキューブから巨大な魔法陣が現れ翔矢を守る。
先ほどの戦いで白銀の騎士が出現させていたのは小さかったが、いま現れたのは人の身長程もある。
「くっ」
「うわぁっ」
魔法陣は、そのまま2人を押し出し翔矢から遠ざけた。
「何だ?」
翔矢は、何が起こったのか分からずキューブを見つめているとキューブから声が聞こえてきた。
『使用者の資質を確認。魔法を構築します』
するとキューブは、赤いメリケンサックのような形へと姿を変える。
翔矢は、このメリケンサックの使い方が分かる気がした。
右手にメリケンサックを装着し、その拳を左手の手の平に当てた。
【コネクト:ファイター】
メリケンサックから、また音声が流れると翔矢の頭上に赤い魔法陣が出現した。
魔法陣の中には、薄らと中世ヨーロッパ風の街並みが映っている。
頭上の魔法陣は翔矢も元に降りてきて、体を包み込んだ。
そして翔矢の体は赤いオーラを纏っていた。
「これは……強いぜ!!」
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