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54話:敗北から夢が始まりそうです

 「まったく、こいつは俺たちが社会人になっても邪魔しやがってよぉ」


 虎谷は怒り狂った表情で翔矢の頭を掴み持ち上げる。


 「イライラさせやがるぜ」


 それでも気絶したままの翔矢に痺れを切らし、右手で頭を掴んだまま左手で翔矢の右腕を強く握った。


 人工魔力は虎谷の肉体を強化し人間を遥かに超えた力を与えている。


 その怪力で翔矢の腕はバキッっと音を立てた。


 それでも翔矢は悲鳴ひとつ上げず気絶したままだ。


 「なんだ? 死んじまってたのか?」


 虎谷は翔矢の頭を掴んだままジッと様子を観察している。


 「まぁ良かったじゃないですか。誰も犠牲なしで世界を救えるなんて思ってませんし、死体が見つからなければ不良が行方不明になったくらい大した事件にもなりません。

 上が何とかしてくれるでしょう」


 鷹野はメガネを上にクイッっと上げて冷静に状況を見つめる。


 「ちっ、もっと痛めつけたかったのによぉ」


 後悔したような様子を一切見せない虎谷は翔矢の体を、その場に投げ捨てた。


 「どうして……どうして人が人を傷付けて平気でいられるんですか!!」


 2人の非情さにペネムエは今までに感じたことのない怒りを覚え大きな声を出した。


 「人類存続の為の必要な犠牲だったのですよ」


 「心配しなくても、すぐに同じ所に送ってやるよ」


 「人間とウィザリアンが死んで同じ場所に行くのかは知りませんがね」


 ペネムエに攻め寄る2人の体に浮かぶ不気味な模様は、さらにドス黒さを増していた。





 *****





 「起きて!! 起きて!!」


 翔矢はフワフワとした優しい女の声によって目を覚ました。


 目を覚ますと薄いピンクの光に包まれた空間にいた。


 「あれ? ……ここは? 俺どうなって……」


 状況を呑み込めない翔矢は辺りをキョロキョロと見渡す。


 「やっと、おっきしたねぇ!!」


 この視界を遮る物のない空間のどこにいたのか、翔矢の目の前には急に星柄の帽子にピンクのパジャマ姿の幼女が現れた。


 「君は?」


 「やっぱり、まだ私の事は覚えていられないかぁ」


 幼女はとても残念そうな表情を見せた。


 「えっ? どこかで会った?」


 「気にしなくていいよぉ。実質初めましてだからぁー。

 私は大魔王ベルフェですぅー」


 大魔王ベルフェという名前を聞いた途端、翔矢の頭にズキッと衝撃が走った。


 「思い出した!! 俺がマキシムに行った時に助けてくれた!!」


 「そうそう。この空間の中にいる内は私の事を思い出せるみたいだねぇ」


 ベルフェはおっとりとした笑顔で翔矢に微笑む。


 「あれ? でも俺が行ったマキシムって仮想空間で会った人はみんなコピーみたいな者だったんじゃ?」


 翔矢の行ったマキシムを完全にコピーした仮想空間。すごくリアルなゲームをした感じにすぎず、現実のマキシムの人と関わったわけではない。


 本当なら、ここにいるベルフェも翔矢が会ったベルフェとは違うはずなのである。


 「それは簡単。私も、あの仮想の世界に行ってたからねぇ。

 大魔王ベルフェの能力は実体が無い代わりに現実以外の世界になら、どこにでも行ける事なのさぁ」


 ベルフェはドヤ顔をして見せた。


 「あの時は助けてくれてありがとう。君も無事でよかったよ」


 ベルフェにお礼を言えてなかった事を思い出し、翔矢はペコリと頭を下げた。


 「どういたしましてぇ。まぁ最強のベルゼブと戦ったって言っても、夢の中の出来事みたいなものだからねぇ。

 君は大丈夫だと思ったんだけど放っておけなかったよー。

 私の方は、そもそも実体がないから消滅するかもって思ったけど、この通りピンピンしてますぅ」


 元気なアピールのつもりなのか、ベルフェはピョンピョンと飛び跳ねて見せた。


 「 本当によかった……で、今更なんだけど、ここは?」


 「君の夢の中って言ったら分かりやすいかなぁ? 気絶しちゃったのに合わせて私の能力で、かなり深い眠りに入ってもらってるけどぉ。

 生きてるのがバレたら今度こそ、あの2人にバーンってやられちゃうからねぇ」


 「でも、俺……ぺネちゃん助けに行かないと」


 翔矢は何となくではあるが、ここにいる間はあまり現実の時間は経過していないのを感じていた。


 それもあってか気持ちは落ち着いているが、それでも一刻も早く現実に戻りたかった。


 「ペネムエは君を守る為にノーマジカルに来たんだよ?

 それなのにボロボロになってまで助けなきゃいけない?

 勝ち目だってゼロだよ? 助けられなくても誰も君を責めないよ?」


 「頭の中じゃ全部わかってる……だけど、目が覚めたときぺネちゃんに何かあったら……

 俺は死ぬほど後悔するし、自分を責めると思う。

 何しに、この世界に来たとか関係ない。もう家族みたいなもんだから。

 助ける理由はそれで十分だ」


 翔矢は俯きながら質問に答えた。


 「そう言うのは分かってたよぉ。

 でも、これは覚えておいて……まぁ起きたら私の存在ごと忘れちゃうんだけど……


 死ぬほど辛いのも死ぬほど後悔するのも分かるよぉ。

 でも、それは本当に死んじゃうのとは全然意味が違うんだよぉ。


 それにペネムエだって君が死んで自分が生き残ったらどう思うかなぁ?」


 その問いかけには何も返すことができず、翔矢は沈黙してしまった。


 「ごめぇん意地悪だったねぇ。

 君に勝ち目がゼロってのは嘘だよぉ」


 君に死なれたら困る人が、もう来てるみたい」


 「えっ?」


 ベルフェは急に深刻な顔になった。


 「君は現実に戻らないとだねぇ。

 怪我の痛みは消してあげるけど、治せる訳じゃないから、後でちゃんと天使に治してもらうんだよぉ」


 そう言ってベルフェはパンと手を叩いた。


 すると翔矢は、この空間から消滅したのだった。


 「私が何を言っても、何をしても覚えてもらえないから何も変えられない……

 全部知ってるって言うのは悲しいよねぇ」


 翔矢が消えるのを見届けると、ベルフェはそう呟いた。

 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 ストーリは一生懸命練って執筆しております。


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