53話:乱入から注入が始まりそうです
「既にボロボロのくせに、調子に乗るなでやんす!!」
ペネムエに電撃を流すリモコンを破壊はしたものの、翔矢の体は先ほどリンチを受けたせいでボロボロだ。
普通に考えたら、まだ八田達の優位は変わらない。
「鷹野。ドクターに連絡は?」
「ダメですね。連絡付きません。遠隔操作での電撃は不可能ですね」
リモコンを破壊されても、本部からの遠隔操作で電撃を流せば、再び翔矢を脅すことができると考えていた虎谷と鷹野だったが、本部と連絡が付かず少し焦りを見せていた。
「お二人とも、何をビビッてるでやんす? あんな弱り切ったやつ敵じゃないでやんす!!」
そんな中、八田だけは怯む事なく翔矢に殴りかかってきた。
「ガハッ」
しかし、倒れたのは八田の方だった。翔矢の鉄拳が鳩尾に炸裂していたのだ。
「ちっ」
「化け物なのは知っていましたが、やはり無茶苦茶な強さですね」
虎谷と鷹野が思わず後ずさりする。
「うっ……」
「翔矢様?」
だが翔矢も、その場に膝を付きしゃがみ込んでしまった。
ペネムエは心配そうに見つめるが、自身も身動きができないので何もすることができない。
「はぁん!! ビビらせやがって」
「流石に体は限界だったようですね」
虎谷と鷹野は翔矢が動けないと判断すると、腕をバキバキ鳴らしながらゆっくりと迫って来た。
「グォォォォ」
しかし2人が翔矢の前に到達する前に大きな叫び声が聞こえてきた。
全員が一斉に声の方を向くと、この部屋に入ってくるときに使用した大きな扉が開けっ放しになっており、部屋に3匹のゴブリンが侵入して来たのだ。
「おい!! なんでちゃんと閉めておかなかった!!」
「さっ最後に入ったのは虎谷さんでしょうが!!」
ゴブリンの姿を見るなり虎谷と鷹野はパニックになり揉めだした。
「ゴッゴブリンが何故ノーマジカルに?」
ノーマジカルに来てから魔物を見ていないペネムエは驚き息を飲む。
「考えている時間は無さそうですね……そこの御2人!! わたくしを自由にしてください!!
ゴブリンと言えど、この世界の人間が敵う相手ではありません」
「はぁ?」
「これ以上、敵を増やせと言うのですか?」
最初こそパニックになっていた2人だったが、すでに落ち着きを取り戻しておりペネムエの提案は一蹴された。
「わたくしは敵ではありません!! 少なくとも、こうして意思疎通ができます。
ですがゴブリンは人間を食料としか思わない明確な敵。
わたくしの拘束を解かなければ、誰も助かりませんよ!?」
ペネムエは折れる事無く訴えた。
だが2人は無視して、作業着の内ポケットから銃のリボルバー部分が試験管のようになっている道具を取り出した。
(あれは……中身はまさか……魔力?)
「ドクターからは人工魔力の直接の体内注入は危険と言われていますが……」
「このままじゃ、あの銀髪の言うとおりお陀仏だしなぁ」
そう言いながら鷹野と虎谷は銃口を自分の脇腹に当て、引き金を引いた。
すると2人の体には薄紫色の禍々しい模様が浮かび上がった。
「がはっ」
「うっ」
2人は数秒苦しんだが、すぐに落ち着いた。
「すばらしい力を感じます」
「最初は死ぬかと思ったが何ともねぇなぁ!! これなら早く使っておくんだったぜ」
鷹野と虎谷はゆっくりとゴブリンの方に向かう。
*****
「ドクター!! なぜ2人を止めなかった!!」
北風エネルギー東京本社では、主任の蓮がドクターに激怒していた。
モニターを確認すると自分が席を外している間に六香穂支部の様子が急変したからだ。
「いやぁ、私も驚いているところだよぉ。黒猫との戦闘で生き残ったゴブリンがいたとはねぇ」
ドクターは、いつもと変わらないハイテンションで受け答えした。
「人工魔力の直接注入に関しては、まだ人体への影響は分かっていない。
もう使用してしまったようだし、彼らには悪いけど経過観察させてもらおうじゃないかぁ」
蓮は、その言葉に沈黙した。
「蓮。気持ちは分かるけど、私たちの目的は世界を守る事なはずだよ?
犠牲なしとは行かないさ」
そう言ったドクターの顔は蓮には見えなかったが不敵な笑みを浮かべていた。
*****
「そっそんな……」
ペネムエは唖然とした。人工魔力を注入したという鷹野と虎谷が2匹のゴブリンを圧倒し瞬殺してしまったのだ。
辺りには、ゴブリンの亡骸が転がっている。
「すげぇ、思った以上の力だ!!」
「本社の連中は、これのパワーを落とした量産型を開発している様ですが……」
「俺たち2人だけで人類の脅威とやらに太刀打ちできるんじゃねぇか?」
2人は最後の1匹となったゴブリンをなぶり殺しにして不気味に笑う。
「では、八田君には悪いですが、その最初の1歩として銀髪は始末してしまいましょう」
「一緒に、伸びっちまってる宮本翔矢も始末しちまうか」
「人類滅亡に手を貸してる可能性もありますからねぇ」
2人の体に浮かぶ不気味な模様は、一層濃くなっているが気にする様子はなく翔矢とペネムエの元に向かって来るのだった。
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