52話:再会からリンチが始まりそうです
鷹野、虎谷、八田の3人に大きな扉の前まで案内された翔矢。
扉が自動でゆっくりと開くと、部屋の奥の方に十字架に拘束され、ぐったりとしているペネムエの姿が目に入った。
「ペネ……ちゃん」
翔矢は言葉を失いながらも急いでペネムエの元に駆け寄る。
怒りなどという感情は無かった。一刻も早くペネムエの元に行き無事を確認したい。ただそれだけだった。
ペネムエの目の前まで来た翔矢は急いで拘束している鎖を取ろうとした。
「ダメです!! 触ってはいけません!!」
「えっ?」
今までぐったりとしてピクリとも動かなかったペネムエが急に大きな声を出した。鎖に触れようとした翔矢の手は思わず離れる。
「きゃぁぁぁ!!」
そのタイミングで今度は、悲鳴をあげた。
何が起こったか分からない翔矢は、ただ茫然と立ち尽くした。
「まさか人類滅亡のためにやってきた化け物が人間をかばうとは滑稽だったぜ」
翔矢が後ろを振り向くと虎谷がリモコンを操作しているのが見えた。
「ちょっと、兄貴なにやってるんすか!!」
八田は虎谷の行動に驚いているようだった。しかしその質問には鷹野が答える。
「私たちの任務はウィザイアンの処分、およびウィザリアンに味方する人間の捕獲ですよ?
相手が知った顔だったからと言ってそれは変わりません」
「むしろ昔の恨みを晴らす、いいチャンスじゃねぇか」
虎谷は腕をボキボキ鳴らし臨戦体勢に入っている。
「処分ってぺネちゃんに何をするきだよ!!」
3人の態度に翔矢の目つきも鋭くなる。
「そのままの意味でやんすよ。人類の敵は始末するでやんす。まぁその前に少し楽しませてもらう予定でやんすが」
「まぁ、その予定は八田君だけですがね」
八田のいやらしい顔に、鷹野はやれやれと呆れている。
「てめぇら……ただで済むと思うなよ」
「翔矢……様?」
今まで見たこともない翔矢の怒りの表情にペネムエは戸惑った。
「ふん。俺たち3人に昔みたいに勝てる気でいるようだがこっちには、これがある」
虎谷はペネムエに電流を流すのに使ったリモコンを翔矢に見せつける。
「逆らったら、あの子はどうなるんでしょうね?」
「くっ……」
高校生になってから喧嘩は1回もしていないが、まだ腕には自信があった。
しかしペネムエを人質に取られては手出しはできない。
*****
「ニャニャッと参上!!」
通気口を黒猫の姿で通っていたグミは、壊せそうな通気口を見つけると破壊し、人型になるとシュタッと着地した。
「あれ?」
しかし、降りた通路には誰もいなかった。
「って都合よく翔矢の近くにつながってる訳もニャイか」
グミは通信用の魔法石を取り出し翔矢に呼び掛けた。
「おーい。翔矢。無事かニャ? 返事するニャー!! おーい」
グミは何度も呼び掛けたが返事は無かった。返事どころか周囲の物音さえも聞こえなかった。
「いや……これはやばいニャ」
通信の魔法石は持ち主の魂に直接呼びかける物だ。そのさい魂が感じている音なども拾ってしまう。
何も聞こえないという事は、持ち主の魂が弱り切っている事を意味している。
「とりあえずペネムエのいる方に急ぐニャ」
グミは、必死に走り始めた。
*****
「もう……止めてください……」
ペネムエは目の前の光景に目を背けながらも何度も3人に訴えかけていた。
「止めるだぁ? こいつが昔殴った回数に比べたら、まだまだ足りないぜ」
大柄な虎谷は、そう吐き捨て既にボロボロな翔矢を蹴り飛ばした。
その体は勢いよく転がり、地面に何度も打たれながらペネムエの足元で止まった。
「あなた達の目的は、わたくしの処分ではないのですか?
わたくしはどうなっても構いません!!
なので翔矢様を……これ以上傷つけないでください……」
ペネムエは涙をこらえながら訴える。
「確かに最初の目的は君だったんでやんすがね」
「おまけで付いて来た、この男が俺たちに因縁のある相手と来たもんだ」
「一石二鳥。仕事もこなせて、諦めていた恨みも晴らすことができますからね」
「……めん」
「あぁ?」
「まだ意識がありましたか」
「さっさすが紅の鉄拳でやんすね」
意識が朦朧とする中、翔矢は何かを訴えた。
その姿に虎谷はいら立ち、鷹野と八田は恐怖を感じた。
「昔の……事は……本当に……ごめんなさい」
「宮本翔矢が……」
「誤ったでやんす!!」
全く予想も出来なかった言葉に鷹野と八田は驚いた。
しかし虎谷だけは違った。
「だからどうした? まさか謝った程度で許す気じゃねぇだろうなぁ?」
翔矢の頭を右足で踏みつけながら2人を問いただしたのだ。
「あっあのっ」
「それは……」
2人は虎谷に何もいう事ができなかった。
「いいよ……これで。俺がやってきた事への報いだ。気が済むまで殴ればいい。
だけど……ペネちゃんは何も悪い事してないだろ? 自由にしてやってくれ」
「えっ? やめてください……わたくしは翔矢様を御守りするために、この世界にやってきたのです。
わたくしは、大丈夫ですので……いえ例え大丈夫でなくても、翔矢様の元にはきっと……もっと優秀で可愛らしい天使が派遣されるはずですので……」
ペネムエはこの世界に来てから翔矢の生活も見守ってきた。
この人が傷ついて悲しむ人は、たくさんいる。
しかし自分が消えて悲しむ人は……何人いるだろうか。
「2人とも、俺たちの目的だって言ってるだろうがぁ!! どっちも逃がさねぇよ!!」
虎谷は再び翔矢を蹴とばした。
「だろうな」
翔矢は今度はすぐに起き上がり、手にはあるものが握られていた。
「あぁ?」
「それは!!」
「いつの間に!!」
翔矢が手にしていたのは、虎谷がペネムエに電撃を食らわせる際に使ったリモコンだった。
一瞬の出来事に3人は驚きを隠せない様子だ。
「ほっ本当に、どうやって……」
その出来事に驚いたのは3人だけでなくペネムエも同じだった。
しかしペネムエは翔矢が何をしたのかすぐに理解した。
(あれは……時を止める時計?)
翔矢の首から服の中に鎖が伸びていた。それは自分の時を止める時計のものだった。
(蹴られる寸前に発動させ、リモコンを奪った?
翔矢様は……本当に普通の高校生なのですか?)
時を止められると言っても3秒ほど。人間がとっさに何かを行うには厳しい時間だ。
「こいつさえ無ければ、俺も自由に動ける!!」
そう言うとリモコンを踏みつけ破壊した。
「てめぇ……さっき謝ったのは演技か?」
虎谷の表情は、怒りに満ちていた。
「悪いと思ってるのは嘘じゃない。だからってペネちゃんを見捨てたりできるかよ!!」
「翔矢……様……」
ペネムエは今まで堪えていたものが堪えきれなくなった。
「ここに案内するときペネちゃんが何なのかって聞いたよな?
うまく答えれなかったけど……もう俺の家族みたいなもんだよ!!」
翔矢は拳をグッと前に出し戦闘態勢に入る。
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