51話:素材回収から脱出が始まりそうです
翔矢が鷹野・虎谷・八田の3人に案内されている頃、グミはアークゴブリンに両足を捕まれ吊るされていた。
足をジタバタさせてみたりして脱出を試みるが相手の力は強くビクともしなかった。
「参った……この世界だとニャーも少し弱体化してるみたいニャ」
グミはボソッっとつぶやくと、次に大きい声で言い放った。
「おいっ!! ニャーはこれでも悪魔族ニャ。食べてもうまくニャイし魔族の繁殖の役にもたたニャイ。
ほら。そこにニャーより美味そうなのが転がってるニャ」
そう言いながら、先ほど普通のゴブリンとの戦闘で気絶したままのリールを指さした。
「グォァァァァ」
アークゴブリンは興奮した様子でグミを放り投げ、一目散にリールの方に向かった。
「よしっ!! 魔族は多少の知性はあっても魔力の塊。より強い魔力を狙う習性があるニャ!!」
*****
「えっ? 何? 何? はっ? アークゴブリン?」
アークゴブリンのドスドス大きな足音でようやく目を覚ましたリールだが状況を全く飲み込めていない。
「んじゃそいつ、よろしくニャーーー」
「それは……言われなくてもね」
すぐに落ち着いたリールは素早くサーベルを取り出しアークゴブリンの右足を切り裂く。
右足は足首のあたりが完全に切断され、体はバランスを崩し膝を付く。
「いやー、いい腕してるニャー」
「あんた悪魔族なら魔法使えないノーマジカルの天使よりはずっと強いはずでしょう?」
今まで気絶していた為、さきほどのゴブリンとグミの戦いを見ていないリールはグミの実力に疑問を持った。
「雑魚戦に本気を出したせいか黒猫になれなくてニャ。焦ってる間にやられちゃったニャ」
「ププププー。焦ったくらいで負けるなんてドジねぇ」
「普通のゴブリンに気絶させられた天使がいた気がするニャ……」
「ぐぉぉぉぉぉ!!」
2人が話している間にアークゴブリンは四つん這いで這い上がり、雄たけびを上げた。
「まぁ片足無くなっても死にはしないわよね」
リールはふたたびサーベルを構え臨戦態勢に入る。
「ちょっと待つニャ」
しかしグミは、リールの前にスッと右腕を伸ばし静止した。
「なによ?」
「ドジなんて言われて黙ってられないからニャ。後は黙って見てるニャ」
「勝手にすれば?」
グミに言われた通り、リールはサーベルをカバンに収めた。
「って訳で引き続きニャーがお相手するニャ」
「グラァァァァァ」
アークゴブリンは相当怒っているのか、這いつくばりながらも、かなりの速度で近づいて来る。
「【獅子王・跳躍の型】」
だがグミは真上に大きくジャンプすると、そのまま天井を蹴とばし勢いを付けアークゴブリンの額に蹴りを入れた。
アークゴブリンの頭部は弾け、辺りには緑の血が飛び散った。
「こりゃ翔矢には見せられなかったニャ」
着地したグミは小声でつぶやいた。
*****
「やるじゃない」
リールはグミの戦闘に素直に感心し労った。
「ありがとニャー」
グミはアークゴブリンの死骸を漁り素材を回収している。通常のゴブリンであれば魔法石は1つしか取れないがアークゴブリンからは、大きいものが5個ほど回収できる。
「そういえば翔矢はどうしたのよ?」
起きたばかりで、まだ状況を飲み込み切れていないリールは周りをキョロキョロ見渡している。
「あいつニャら、閉じ込められる前に先に行かせたニャ」
「えっ? またゴブリンとか出るかもしれないのに?」
「まぁペネムエのポーチ渡しておいたし、あいつ割と冷静だし問題ニャイニャイ」
少し不安そうになったリールをよそに、グミは素材収集を続けている。
「ないわよ……?」
「ニャニャ?」
リール言葉が聞き取れなかったグミはゆっくりと振り向く。
「だから!! あいつたぶん魔法の道具の効果あんまり知らないわよ!?」
「ニャ? という事は?」
「ゴブリンの対処は、たぶん無理ね。さっきだって私たちの事をあてにして自分は戦おうとしてないでしょ?」
「やっちまったニャ……」
グミの顔は急に青ざめる。
「どうするのよ……あいつに何かあったら私も困るんだけど」
リールは翔矢を異世界転生させマキシムに送るためにノーマジカルに来ている。
そのためにはマキシムへのゲートが開いているときに天使が殺害する必要があるのだ。
「まっまぁ、ゴブリンがまた出てくる保証もニャイし……あっ!!」
「何よ?」
急に大きな声を出したグミに、驚きビクッとしてしまった。
「さっき3匹くらい仕留め損ねたニャ……」
グミの顔色はさらに悪くなる。
「マジどうすんのよ……」
2人の周りはシェルターに覆われ、前に進むことも引き返すこともできない。
「女神様に連絡してこの壁を魔法でドーン!! っとやってもらうニャ!!」
この会社に侵入する際、鍵を女神アテナに破壊してもらったのを思い出し提案した。
リールは通信用の水晶を取り出し、言われた通りに連絡をしてみた。
「ダメね。さっきの部屋の資料を見るって言ってたから、忙しいのかも。
アテナ様熱中されると周りが見えなくなるから。私たちの戦闘にも気が付かなかったみたいだし」
「猫にニャれさえすれば、上から出れそうニャンだけどニャー」
グミは天井にある通気口を指さした。すこし年季が入っているので悪魔族の力なら破壊できそうだ。
「猫になれないってさっき言ってたわね」
「目の魔力が切れてニャ」
「目の色がどっちも緑になってるわね」
水色と緑のオッドアイが特徴的なグミだが、今は両目とも緑になっている。
「悪魔族が2つの姿にニャれるのは目に2つの姿を保存して切り替えてるお陰だからニャー」
「目が魔法の道具みたいなもんだからこの世界でも姿が変えられた訳ね」
「普通は体内の魔力も消費するから、余程じゃニャイ限り変身できないって事は無いんだけどニャ」
「ノーマジカルの制限がそんな所にもねぇ」
「まぁ強力な魔物の新鮮な魔法石でもあれば充電できるんだけどニャー」
「このノーマジカルにそんな都合のいいもの……」
「あっ!!」
「ニャ!!」
2人の目の前には、入手したばかりの強力な魔物の魔法石があった。
グミはそれを目に当てる。グミの目は再びオッドアイに戻った。
「流石に全快はしニャイけど……いけるニャ!!」
黒猫の姿になったグミは、天井に向かって思いっきりジャンプし、通気口のカバーに思いっきり体当たりをした。
カバーはグニャっと曲がると、そのまま床にガシャンと落ちた。
「ニャー」
グミはそのままダッシュで通気口の中を進んだ。
「よし!! 私も!!」
リールも後に続こうと、通気口に向かってジャンプする。
「あれ?」
しかしリールの体は、胸が入り口で引っ掛かりまったく進むことができない。
「ちょっとグミ!! 待ってーーー!!」
リールは胸から下が、天井からはみ出た状態で完全に動けなくなってしまった。
グミの姿はもう見えない。
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