49話:分断からそれぞれの動きが始まりそうです
「おい!! グミ!! おい!!」
翔矢はシェルターをドンドンと叩いたが向こうから返事がない。
今頃はアークゴブリンと呼ばれていた、デカいゴブリンと戦ってると思われるが戦闘してるらしい音は聞こえない。
分厚いシェルターなので防音効果もあるかもしれない。
「まぁ声が聞こえても、あっちには行けないしどうしようもないよな」
翔矢はグミに言われた通りペネムエの方に進もうとしたが2、3歩だけ歩いて足が止まってしまう。
「待てよ……さっきのアークゴブリン? ってか普通のゴブリンでも今出てきたら積みじゃね?
そう言えばさっき3匹くらいこっちに逃げて行ったような……」
グミとの戦闘で逃げて行ったゴブリンも気になるがアークゴブリンも急に現れ姿を見るまで気が付かなかった。
また、出てこないとも言い切れないのだ。
「うーん。女の子の持ち物を勝手に見る訳には……とか紳士ぶってる場合じゃないよな……
ペネちゃん。ごめんなさい」
翔矢はグミから投げ渡されたペネムエのポーチに手を突っ込んだ。
中には、ほぼ無限に収納可能と聞いていたが、いざ手を入れるとズボッっと奥まで入って行き奇妙な感覚になる。
「最適なものが勝手に手に取れる……とか、ご都合仕様じゃないか……」
ポーチの中を物色していると布のような物をつかんだ。
「おっ!! 防御力が上がる帽子とかならいいかなぁ」
期待しながら取り出すと、それは白い布だった。丸まっており何なのか分からず広げてみる。
「ペネちゃん……本当に申し訳ありません」
白い布の正体は下の下着であった。これを頭に装備して上がるのは防御力でも攻撃力でもなく変態力である。
その後は慎重に見てみたが使い道が分かる物は、ほとんどなかった。
「結局、俺が使えそうなのはこれだけか」
取り出したのは、時を3秒ほど止められる懐中時計と高速で移動できるブレスレットだった。
神槍ブリューナクは自分も凍ってしまうので使えない。他のものは何が起こるかわからないので、とりあえず今は懐中時計を首から下げ、ブレスレットを右手に付けた。
「時計は1回使うとしばらく使えないらしいから慎重に使わないとな」
3秒で何ができるかは分からないが、時止めはアニメなどで強力な能力なので頼もしく思えた。
道具と心の準備ができた所で翔矢はようやく前に進み始める。
*****
一方、翔矢を逃がしたグミはアークゴブリンと戦闘を始めていた。
アークゴブリンは思いっきり拳を振り下ろしたが、グミは後ろにジャンプしてかわして見せた。
「やっぱ上級の魔物相手だと魔法が使えニャイのは厳しいニャー」
攻撃は大振りなので回避は難しくないのだが、アークゴブリンのパンチは床に拳の跡が残るほどの威力だ。
1発でも当たれば悪魔と言っても無事では済まないだろう。
「ニャーーーとうっ!!」
グミはジャンプをしてアークゴブリンの頭に飛び蹴りを食らわせた。
「グルゥ」
「やっぱり、この体格差じゃ厳しいニャ」
普通のゴブリンならばオーバーキルの攻撃だがアークゴブリンは、まだ立っている。
流石にノーダメージではないと思うが、打撃だけで倒すのは困難だ。
「こうニャったら一気に決めるニャ!!」
グミは黒猫の姿になり相手のギリギリまで接近し、攻撃の瞬間だけ人の姿戻り高速で蹴りを繰り出す大技の【獅子王・百打の型】を食らわせようとした。
「あれっ?」
しかしグミの体は黒猫にはならず、人型のままだった。
「キャッ」
何が起きたか分からず立ち尽くしてしまった一瞬の隙をアークゴブリンは見逃さず、グミの両足を掴みそのまま持ち上げる。
「はっ離すニャ!!」
逆さ吊り状態になったグミはゴスロリデザインのスカートを抑える。
「グルゥ」
その様子をアークゴブリンはいやらしい顔で凝視した。
*****
グミの強さを間近で見た翔矢は戦闘の心配をせず、ペネムエがいると言われた奥の方に向かって廊下を歩いていた。
本当は走って行きたかったがゴブリンがいたり、何があるか分からないので気持ちを抑えて慎重に確実に前へと進む。
しかし、その歩みは急にピタリと止まった。
「奥ってどっちだよ……」
今まで一本道だった廊下が、ここで左右に分かれたのだ。
「まぁ……山でもあるまいし、とりあえず右に行って違ったら引き返そう」
敷地の広い会社ではあるが、外から見た感じでは1階建てのようだったし大型ショッピングモールよりはずっと小さいので間違ってもすぐに引き返せる。
そう思い右に向かって歩いたのだった。
*****
「さて、これからどうするんだい?」
北風エネルギー東京本社では漣とドクターが2つのモニターに、それぞれ映しだされた翔矢とグミの様子を見ていた。
ドクターは再び、主任である漣に意見を求める。
「黒猫女は、このまま戦闘の様子を見る。宮本翔矢は……」
漣は少し迷ったがそのまま指示を続けた。
「あいつは普通の人間なはずだ。ゴブリンを差し向ける事はできん」
「じゃあ大人しく銀髪を渡すのかい?」
「いや、あの銀髪を捕らえた職員が待機していたな。彼らに任せよう」
「なるほど!! 彼らには試作品の人工魔力も渡してあるからね」
「あれの使用は、まだ危険だ。それに相手はただの高校生。3人がかりなら、そんなもの使わなくとも捕らえる事くらいできるだろう」
「だと……いいけどね」
ドクターは不敵な笑みを浮かべた。
しかし漣にそれは見えなかった。
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