48話:ゴブリン戦からリバースが始まりそうです
北風エネルギー東京本社では、蓮とドクターが六香穂支部の様子をモニターで見ていた。
「蓮。本当に奴らにあれを見せて良かったのかい?」
ドクターはモニターのゴブリンを指さす。
「知性があるとはいえ、奴らも魔力がある化け物だ。見せて不都合もないだろう。だがあのゴブリンは目に映るものを全て攻撃する」
「奴らに少しでもゴブリンの数を減らしてもらおうという訳だね」
「あぁ。それより問題は……」
「宮本翔矢……だね?」
「魔力の痕跡が見つかった交通事故から子供を救った高校生。彼がなぜウィザリアン達と一緒にいる?」
「彼は君の弟の後輩だったね?」
「健吾は何も気づかなかったのか?」
「まぁ、未確認のウィザリアンも1匹増えてるし、今回は様子見と行こうじゃないか」
2人はそのままモニターの監視を続けた。
*****
パシャパシャ
「ちょっと……何やってるのよ?」
「ごめん……つい……」
ゆっくりとこちらに向かってくるゴブリンに、スマホを向けて写真を撮る翔矢をリールは呆れた目で見ている。
「まぁこの世界じゃゲームの世界の存在だし気持ちは分かるけどさ……怖くないの?」
「これでもビックリしてるけど、天使と悪魔がいるんだしゴブリンとか敵じゃないんだろ?」
翔矢のその言葉にリールは頬が赤くなった。
「あっあっあっ当たり前よ!! 魔力っていうのは、魂に溜まってれば溜まってるほど身体能力とかを上げる性質があるの。
人間や魔物は、それに加えて無意識に微弱な強化魔法を掛け続ける事で体の機能を安定させてるから、魔法を使えないノーマジカルのゴブリンなんておっぺけぺー
ギャフン!!」
翔矢が前にペネムエから聞いたことがあった説明をリールは得意気に語ったが、語っている最中にゴブリンに木のハンマーで思いっきり殴られ、そのまま気絶してしまった。
「説明を待ってくれないタイプの敵だったニャ」
「いや……大丈夫なのか?」
グミはいたって冷静だが、翔矢は流石に心配になった。
「まぁリールの言った通り、ゴブリンは弱体化してるし天使は頑丈だしそのうち起きるはずニャ」
「そっそうか? 後油断してたら完全に囲まれた件について」
気絶してるリールを心配している間に周りはすっかりゴブリンに囲まれてしまった。
もともと逃げ道が鉄のシェルターで塞がれてしまっているので逃げることは、さらに困難になった。
「ゴブリンは人間の子供くらいの知能はあるからニャ。さっきのリールみたいに隙だらけじゃニャイ限りは集団で確実に仕留めに来るニャ」
「……マジかよ」
「まぁ今回は相手が悪かったけどニャ!!」
さっきまで翔矢の真横にいたグミは、一瞬でゴブリンの前に移動し1匹の頭に回し蹴りを食らわせた。
ゴブリンの頭は消し飛び、頭部を失ったゴブリンの胴体はその場に立ったままになっている。
驚いたゴブリンの陣形は乱れ、3匹は駆け足で逃げて行った。
「おぇっ」
胴体だけとなったゴブリンを見た翔矢を吐き気が襲う。
「情けない男ニャ」
グミは呆れた顔をしながら翔矢にビニール袋を渡す。
「ごめん……ありがと」
「油断してるとリールがゴブリンの繁殖用に持っていかれるから、一緒に待ってるニャ」
翔矢はグミの指示通り、リールを引っ張りシェルターのところまで下がった。
(もしかしてグミだけ来てくれれば十分だった?)
今の状況では自分とリールが完全に足手まといになっていると感じた翔矢は頭を抱える。
とはいえ、ゴブリンがいるとは誰も予想できなかったのだが。
「さて、この建物は広くて助かるニャ」
グミはいたって冷静で屈伸したり準備運動を始める。
逃げずに残ったゴブリンたちは、すでに気絶したリールと、人間で弱いうえに男の翔矢は後回しにするつもりなのかグミに狙いを定めたようだ。
「ウゴァーーー!!」
準備運動を続けるグミを、ゴブリンたちは武器で一斉に殴り掛かる。
しかし、その攻撃はすべてひらりと交わされた。
「すっすげぇ……」
アニメの戦闘シーンを見ているようで翔矢は言葉を失ってしまう。
グミが回避しながら、一度翔矢の前を通ったのだが、そこでグミが目をつぶったまま攻撃を避けている事に気が付いた。
「ウガァーーー!!」
ゴブリンもそれに気が付いているのか、かなりイラついた様子だ。
「そう気を悪くしないで欲しいニャ。別にゴブリンごときの攻撃、目をつぶっても避けれる。とか馬鹿にしてる訳じゃないのニャ」
「グゥ……」
ゴブリンがグミの言葉を理解しているのかは定かでないが、ゴブリンたちは一斉にひるみだす。
「馬鹿にしてニャイ証拠に結構強めの技で終わらせてやるニャ」
グミはそういうと黒猫の姿に変わった。
「【獅子王・百打の型】」
蹴りの瞬間だけ、人間の姿になり全てのゴブリンに蹴りを食らわせた。
その姿は、翔矢の目には無数に分身したグミが一斉に蹴りを食らわせているように見えた。
「つよっ……」
翔矢はもうそんな言葉しか出てこなかった。
******
「あらあら。どうする? もっとゴブリンを送り込むかい?」
東京本社でグミの戦闘の様子を見ていたドクターは、そこまで焦る事もなく隣にいる主任の漣に意見を求める。
「……上位種を出せ」
ドクターとは違い漣は神妙な顔をしている。
「いいのかい? 下手したら六香穂支社どころか、あの辺一帯がドーンだよ?」
「上位種は、最悪追い返せる。だがあの黒猫女は、捕まえた銀髪女より確実に危険だ。
責任は私が取る。やってくれ」
「オッケー」
ドクターは軽い返事で返しパソコンを操作した。
*****
「全部一瞬で倒しやがった……うぇっ」
翔矢は倒されたゴブリンの亡骸を見て再び吐き気に襲われた。
「自分で見といて吐くニャよ……」
「まだ吐いてない。だって正当防衛って言っても生き物を……って何やってるの?」
グミはゴブリンの亡骸に手を突っ込みガサガサと漁り、その手は緑の血で染まっている。
翔矢は、さきほどもらったビニール袋にリバースしてしまった。
「素材回収ニャ!!」
グミは緑の小さな石をもって喜んでいる。
「素材ってゲームみたいだな」
「魔物っていうのは、魔法を使った時に出る残留物質の集合体ニャ。だから正確には生き物じゃニャイ。
んで魔物を倒せば魔力の結晶が回収できるニャ。これを加工すると魔法の道具になるのニャ」
「エコだなー」
「だから魔物がノーマジカルにいるはずないんだけどニャー」
そう話すとウィーンという機械音が聞こえてきた。
2人が音のする方を見ると、ペネムエがいる方向のシェルターも降りてきていた。
「やばい!!」
「ニャニャニャ!!」
慌ててにシェルターをくぐろうとすると、今度はリールが気絶してる方向からグォーーーーと声がした。
「何だよ……あれ……」
「アークゴブリン……こりゃリールを置いていけないニャ。後で追うから先に行ってるニャ」
どこから湧いて来たのか身長3メートル近くある巨大なゴブリンが気絶したままのリールにドスドスとゆっくり近づいている。
「うわぁ、何するんだよ!!」
グミは翔矢を突き飛ばし、シェルターの外側に出すと一緒にペネムエのポーチも投げた。
「天使なら、ニャーよりいい道具持ってるはずニャ。何かあったらそれで頑張るニャ」
「おい!!」
翔矢は戻ろうとしたが、シャッターはガシャンと音を立て閉まってしまった。
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