4話:魔法から手汗が始まりそうです
「これが、現在の天界とマキシムの状態でございます」
映像が終わるとペネムエは、紅茶を一口飲んだ後そう付け加えた。
「つまり昨日の事故は、俺を異世界に送りこもうとした奴の仕業で、君がそれを妨害して助けてくれたと」
「察しがよくて助かります。アテナ様側の転生者の人選も、流石といったところでしょうか……信じて頂けましたか?」
「うっうーーーん?」
話の内容は、専門用語や人名以外はうっすら分かったが、あまりにも突拍子もなく信じることはできない。
しかし、水晶玉から立体映像が浮かび上がったので、魔法を信じるしかないか……
「魔法で映像を、お見せしても信じて切ってはいただけないとは……報告は受けていましたが本当に魔法が存在しないのですね。
おおむね、わたくしが部屋にいた段階で追い出そうと考えたが、襲われたとかでっち上げされたら立場が不利なので話だけ聞いて穏便に帰ってもらおうとした。といった所でしょうか?」
ペネムエは、まるでエスパーのように翔矢の考えをピタリと当てて見せた。
実際はエスパーではなく天使なのだが。
「ですが、わたくしが言ったことは事実なのです。転生どころか魔法の存在も架空のものと言うのがこの世界の常識なのでしょうが、わたくしからすれば科学という物だけで、文明をここまで発展させた方が、よほど作り話なのでございます」
「じゃじゃあ、なんか魔法少女っぽいことをやって見せてくれ!!」
結局これが一番話が早いだろうと思った。魔法が実在するなら見せてもらおう。
水晶玉から立体映像は、最新技術でできる気もする。もっと魔法らしいのを翔矢は要求した。
「魔法少女?というのは分かりませんが魔法でございますか……では水を出してみますか」
ペネムエは紅茶を飲み干しティーカップを、からにするとティーカップの上に右手をかざした。
「カップだとあまり強いレベルの術は出せませんね……【スプラッシュLv1】」
ペネムエは呪文を唱えた。しかしカップは、からのままで特に変化は見られない。
「あっあれ???」
ペネムエは焦った表情を見せた。彼女が表情を変えたのは初めてな気がする。
そのあと、彼女は何度か呪文を唱えたが変化は起こらない。
「無理なら、帰ってくれー」
ようやく帰ってもらう口実ができた。水晶玉からの立体映像はよく出来ていて仕組みは分からないが魔法ではなかったのだろう。
「そっそんなはずは……」
ペネムエは自分の手の平を確認した。本当なら手の平から水が出るはず。とでも言いたいんだろうか?
翔矢も、なんとなくペネムエの手の平に目をやると、ある異変に気が付いた。
「君、手汗すごいな」
「女性になんてことを……」
魔法が使えない事には焦っていたのに、失礼なことを言われたのに対しては、ポーカーフェイスで対応するペネムエ。
「うっかりしてました。この世界では天使といえども、まともに魔法を発動させることはできないのです」
ちょっとしか発動してないからコップ一杯出るはずの水が、ちょっとすごい手汗程度の量になったと……確かに手汗としては考えられないレベルの濡れ方だが、テレビで見るようなビックリ人間などを考えるとあり得なくもない気がした。
「手汗などではありません。浄水ですよ。浄水……舐めます?」
ペネムエはさっと手を差し出した。確かに汗か浄水なら舐めればわかる気がするが……
「舐めるか!!」
翔矢は強い口調でツッコミというか拒否をした。いくら相手が超可愛いい少女で、おかしな事を言う子でも、それはできない。
「魔法が使えないなら、どうやってトラックから俺を助けたってんだよ? 魔法じゃないなら、さっきの水晶はなんなんだ?」
あの事故での助かり方は、確かに不思議な点はあった。トラックの下にうまい事潜りこめたお陰で無傷ということだったが、横から女の子を突き飛ばして助けたので、その勢いで転んだとすれば、走ってくるトラックに対して横向きに翔矢は転ぶはずである。
自分の身長とトラックの幅を考えると、足か手、運が悪い場合頭がつぶされるはずである。
細かい格好までは、事故のパニックで誰も覚えていなかったが、突き飛ばした勢いで転んで潜り込んで無傷は冷静になるとおかしい気はする。
「それは、天界から持ってきた道具を使ったのでございます。先ほどの水晶も映像を映す魔法の道具です。自分が技術で習得した魔法は使えませんが、魔法の道具を使用することは可能です」
ペネムエはテーブルの上に懐中時計と青い石の付いたブレスレットを用意した。
「この懐中時計は自分以外の時間を3秒ほど止めることができます。もちろん3秒では何もできないので、こちらの超高速移動ができるようになるブレスレットで移動し、翔矢様をトラックに接触しない位置まで運ぼうとしたのですが、スピードの制御ができずに翔矢様を引っ張り倒してしまい、頭を強く打たれたようなのです。申し訳ございませんでした」
ペネムエはぺこりと頭を下げた。
「まぁケガもなかったし、それで命があったんだから別に気にしないよ。助けてくれなかったらケガじゃ済まなかったかもしれないし」
助けてくれた話を信じてるように返事をしてしまった。
いや信じるしかない事情を、たった今思い出した。
「そういえば、水晶に出てきたアーベル? とかいう勇者おれ夢でそんな名前のやつが戦ってるのを見た気がする」
「それは恐らく、アテナ様側の者が翔矢様を異世界転生させた場合に少しでも状況を早く呑み込ませようと見せたのでしょう。亡くなった後はアテナ様のところで転生の準備やら送る世界の説明などあったはずですし。
ちなみにその場合は、あくまで『女神の手違いで死なせてしまったお詫びに転生をーーー』みたいな流れになるはずでございます」
「実際は、その女神さまが思いっきり暗殺命令下してるって話だけどな」
手違いではなく計画的犯行である。
「天界とマキシムの問題に巻き込んでしまい申し訳ございません。しかし今日からわたくしが命に代えても翔矢様をお守りいたします」
ペネムエは再びペコリとお辞儀をした。
あまり信じたくはないが、俺の命運はこの魔法少女っぽい天使に託されたらしい。
果たして翔矢は、異世界転生させられてしまうのか。
そしてマキシムは救われるのか。
異世界、現実世界、天界の3つの世界を股にかけた物語が今幕を開ける。
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