41話:答え合わせから計画失敗が始まりそうです
「お帰りニャさーーーい!! ワイハハ2泊3日の旅はいかがでしたかニャ?」
「えっ?」
翔矢は気が付くと自分の部屋のベットで寝ていた。部屋にはゴスロリ服を着たグミとペネムエ。それに自分の命を狙っているはずのリールまでいる。状況はまるで呑み込めない。
「そうだ!! 俺ベルゼブに……フガフガ」
今さっきまでマキシムのワイハハでベルゼブや幹部と戦っていた事を思い出し、その事を口にしようとしたがペネムエに口をふさがれてしまう。
(申し訳ありません。ベルゼブの存在は天界でも一部の天使にしか知らされていないのです。今は話を合わせてくださいまし)
悪魔族のグミにベルゼブの存在は知られたくないという事だろう。翔矢は通信用魔法石で話しかけてきたペネムエの言うとおりにすることにした。
「あっ!! 思い出したぞ!! お前悠菜の魂を食おうとしてた悪魔じゃねえか!! それでペネちゃんが戦ってくれたのに、なんで一緒にいるんだよ!! リールが俺の部屋にいるのもおかしいし!!」
時間が経つにつれマキシムへ行く前の状況を思い出した翔矢の疑問は、さらに増え一気に湧き出し爆発した。
「いやぁ、それについてはやり過ぎたニャ。申し訳ニャイ。ニャーの命の恩人の悠ニャには何もしてないから安心してほしいニャ」
「じゃあなんであんな真似したんだよ?」
ワイハハに行く前、グミは悠菜の魂を食うと言って、それに怒った翔矢が殴り掛かり敵わなかったのでペネムエに助けを求めた。結局ペネムエすら敵わず、なぜか翔矢はマキシムに送られていた訳なのだが、それだけなら悠菜を気絶させる必要はなかったはずだ。
「リールの依頼で、飯のお礼にワイハハバカンスの旅をプレゼントしたいって言われてニャ。最初は疑似旅行用の壺で旅行してもらうだけのつもりだったんだけどニャー。悪い状況が重なって戦闘ムードになっちゃったからドラマチックに送る事にしたニャ。神クラスの道具を使う天使とも戦ってみたかったしニャー」
グミは直前に、凶悪高校の野球部監督が六賀穂高校の制服を着た男と怪しげな取引をしているのを目撃し、そこにタイミング悪く悠菜もやってきたので見つからないように気絶させ隠したと説明した。
「怪しげな取引って、どっかの高校生探偵じゃあるまいし……」
「会話は聞こえニャかったけど間違いはニャイと思う」
「この学校の生徒……そういえば私も登山の時に仕掛けた地雷が無くなってたのよねぇ。まさか裏で黒い組織が動いてたりして!!」
ここまで部屋の片隅で空気化していたリールが初めて口を開いた。
「ニャニャニャ!? じっ地雷って何ニャ?」
「あっいや……じっ地雷を踏んだかのような衝撃を受けた料理のお礼だったんだけどビックリさせてゴメンネって言おうとしたのよ」
「悠ニャが話してるの聞いたけど、そんなに美味いのニャー? 今度食ってみたいニャー」
翔矢達から見ればかなり無理のある誤魔化し方だと思ったが、グミは特に疑った様子は見せなかった。
「いやー。本当に美味かったわ!! ありがとね」
リールはそう言って重箱を手渡してきた。翔矢は今まで忘れていたが、登山の時にペネムエが彼女に多すぎた弁当を渡したのを思い出した。
「あっいや、お粗末さま。なんか重箱が重い気がするんだが」
「頂き物を空で返すなんて超天才の私ができる訳ないでしょ!!」
「いや、ローカルルールというか気にしない人も多いと思うけど」
そう言いながら重箱を開けてみると中にはケーキがぎっしり入っていた。重箱の底にはラップがしてあり容器を洗わなくて済む気遣いまでされている。
「おぉ!! こんなにたくさんいいのか?」
「バイト先の余りだから気にしなくていいわよ」
(こいつバイトしてるのかよ……)
「毒は入ってないみたいニャね」
グミがケーキに近寄ってクンクン匂いを嗅ぎながら話す。
「あっ当たり前じゃない!! そんな店の信用に関わることしないわよ!!」
「半分冗談ニャ。この前の事があったからついニャー」
「ってんな話はいいんだよ!! 俺マキシムのワイハハって所にいたの結局なんだったの? 夢?」
「それについてはわたくしから説明させて頂きます」
ペネムエはケーキをまじまじと見つめているが淡々と説明をしてくれた。
旅行用の壺というのでワイハハに行っていた訳だが、これは旅行といっても仮想空間のようなものでそこに直接行かずに観光したりするためのものらしい。壺には世界が丸々コピーされていて今回のように不意に使われてしまうと本当に異世界に迷い込んだかのような感覚になってしまうわけだ。
「翔矢様が見てきたのはマキシムのワイハハの現状という事で間違いないのですが、あくまでコピーの仮想世界での出来事になります」
ワイハハで会ったミーナやベルフェ。大魔王軍の幹部も実在はするが、それは翔矢だけ体験した出来事。ミーナは無事という事で安心した。
「じゃあ家で寝かせたままの悠ニャも心配ニャし今日は帰るニャ!! あっペネムエにも渡したんニャけど、翔矢にもこれ渡しておくニャ」
グミから手渡されたのは黒い石。何に使うのかは、だいたい想像がつく。
「通信用の魔法石ニャ。ノーマジカルは商売相手が少ニャくて困ってたのニャ。困ったことや欲しいものがあったらお代さえくれれば力になるニャ。」
「何かあったらお願いすることがあるかもなぁ」
「じゃあいつでも依頼待ってるニャー!!」
そう言い残し、グミは空飛ぶホウキに乗って飛び立っていった。
「ザックリ言うと悪魔族って、頼めばなんでもやってくれるの?」
「ええ。その悪魔の倫理に反せず対価を支払えば依頼できますが……何か頼んでみたいことでも?
「いっいや、そういう訳じゃないけど念のためにな」
冷静を装って話した翔矢だったが、いつか空飛ぶホウキに乗せてもらおうと固く決心した。
*****
グミがか帰ったあと、翔矢はペネムエとリールにマキシムで起こったことを話した。夢を見ていたかのような感覚で記憶が不鮮明な部分も多かったがベルゼブには手も足も出なかったことを話した。
自分でもミーナでもない誰かがベルゼブと戦ってくれたおかげで早く帰ってこれた気がするが、その辺は特にあいまいだった。
「根性ないはねぇ。ただでさえノーマジカルの日本人はチートなんだしアテナ様に選ばれたんだから、ちゃんと戦えば勝てたわよ!! せっかくの『英雄になってハーレム疑似体験させて転生前向きに考えてもらおう計画』が台無しじゃない!!」
「知らんがな!! ベルゼブも日本人だったし魔法の使い方もよく分からないのに勝つって無理じゃね?」
「えっ?」
「どういう事でございますか?」
2人は、ベルゼブが日本人という事を知らなかったらしく、かなり驚いていた。翔矢はベルゼブの正体を知った経緯を話した。
「『寒い』『豚』確かに日本語でございますね」
「えっ? 2人とも日本語分かるの?」
「いや……どう聞いても日本語話してるじゃない?」
翔矢の疑問に答えたのはリールだった。
「翻訳の道具とか使ってると思ってた」
「確かにそういう道具も存在しますが、人間の文化の調査も天使の大切な任務ですので、派遣される前に通信講座で学習いたしました。読み書きはまだまだですが話すのは問題ないかと」
「ちなみにアテナ派の天使は日本語が必修科目だから、私は常用漢字くらいまでなら日本語大丈夫よ」
(通信講座あるのか。ってか日本語必修な天界って……イメージ変わってくるな)
「とりあえずアテナ様に転生者の記録を確認してもらってみるわ」
「わたくしもアルマ様に報告しておきます」
全員に様々な疑問が生まれたが、この日はこれで解散となった。
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