40話:2人目の大魔王から帰還が始まりそうです
翔矢とベルゼブは数秒にらみ合い硬直していた。その硬直を破ったのは翔矢の方だった。
「うぉぉぉぉぉ!!」
雄たけびを上げながらベルゼブの腹に思いっきり右ストレートで殴る。ベルゼブは全く動かずに攻撃を受けた。
「いってぇぇぇぇぇ!!」
パンチは当然直撃したがダメージを受けたのは翔矢の方だった。右手にジーンとした嫌な痛みが走る。
「あんたの部下が粉々になったパンチだぞ? その鎧何でできてるんだよ!!」
「少しは楽しめるはずなのだがな。いくら魔力が高いといっても魔術に関しては素人。運動神経抜群の人間にルールの知らないスポーツをやらせても役に立たないようなものか」
「そういう例え……幹部の名前といい絶対あんた日本人だろ!? なんでマキシムを支配なんてしてるんだよ!?」
「その質問には答える事はできぬ。だがいずれ分かる日が来るかもな」
「訳わからねぇ。チートで支配する奴の気持ちなんて分かりたくもないがな。ってか日本人なのにその口調って恥ずかしくないか?」
翔矢は、身の回りに一人だけこんな口調をしてる後輩がいることを思い出したがあれは例外なので気にしないことにした。
「日本で大魔王と言ったらこんな口調のイメージであろう? 大魔王を名乗るからには相応しい振る舞いをせねば」
「いや……まさか大魔王ごっこのために、こんなことしてるんじゃないだろうな?」
ベルゼブの口調が少し明るくなったので、大魔王であることを楽しんでいるように見えた。卓夫に見せてもらった異世界転生作品の中にも敵が転生した日本人で力を楽しんでいるキャラがいた。誰も逆らえないくらいの力を得てしまうのは案外退屈で人は支配に走ってしまうのかもしれない。
「ふん。おしゃべりはここまでだ」
「うわっ!! 体が……」
ベルゼブは左手の平を翔矢に向けると翔矢の体は宙に浮かび身動きが取れなくなる。そのまますごい速度で氷った岩盤に体がたたきつけられる。翔矢はそのまま気を失ってしまった。
「これで終わりだ。もう会うことはなかろう」
ベルゼブは闇の剣を無数に生み出し、氷った岩盤に埋まったまま動かない翔矢に向かって一斉に放った。
「翔矢!! 逃げて!!」
洞窟に隠れながらも戦いを見守っていたミーナが必死に叫ぶが気を失ってしまっている翔矢の耳には届かない。
解き放たれた闇の剣は千を超え、その凄まじい勢いに氷が砕け視界が悪くなり、翔矢の様子を外から目視することはできない。
「これで救われるか……」
自らの攻撃により発生した煙を見つめながら誰にも聞こえない小さい声でベルゼブはつぶやいた。
「まったくも~。いくら君でも殺せないんだよぉ? 殺せないんだけどさぁ~。気分悪いじゃん?」
煙が晴れて現れたのは、まだ8歳くらいの少女だった。パジャマにしか見えない紺色の服に星の柄の入った三角の帽子をかぶっている。
「貴様。何者だ?」
「あっ。そっかぁ~。初めましてかなぁ? 私はベルフェ。君と同じ大魔王だよぉ~」
自分も大魔王だと名乗るベルフェという少女は、おっとりとした口調で話す。
「ベルフェ? そうか。大魔王は全部で7人いるのだったな」
「そっそぉ~!!」
「で? その大魔王ベルフェが我に何の用だ?」
「あっ。待って。その前に【完全回復Lv700】」
ベルフェが呪文を唱え光の球を生み出す。その球は、ゆっくりと翔矢に向かっていきそのまま体に入っていく。
「……ん?」
翔矢はすぐに目を覚ました。
「翔矢君。おっきしたねぇ~。一応初めましてぇ~。大魔王のベルフェですぅ~。君には覚えててもらいたいから回復させてもらいましたぁ~」
大魔王と名乗られはしたが、ベルゼブとは違いパジャマを着た小学校低学年の幼女にしか見えないベルフェの姿に翔矢はキョトンとする。しかしよく見ると確かに強い力を感じる。
「大魔王? ってことはベルゼブの仲間?」
「ん~? 今は君の味方かなぁ」
ベルフェは、あどけなさが残る笑顔で答える。
「では、我の敵ということでいいのだな?【無敵lv999】」
翔矢とベルフェの会話の様子を静観していたベルゼブは、そう一言だけ言って呪文を唱えると巨大な闇のオーラをまとった。そのオーラは手のような形になり翔矢とベルフェに向かっていく。
「あれは……やばい!!」
前に見せられた夢により【無敵】の魔法の恐ろしさを知っていた翔矢は身構える。
「あちゃあ~」
それに反してベルフェは、うっかり財布を置き忘れた人程度の反応しか見せない。【無敵】の魔法は、すぐに翔矢とベルフェの元に到達し、巨大化した闇の手が2人を握りつぶそうとしている。
「はい。 だぁめぇ~!!」
だが【無敵】魔法で生み出された闇の手は、2人に触れることなく消滅してしまった。
「ほう。この魔法が打ち破られるのは初めてだ」
「だろうねぇ~。本当にすごい魔法だよぉ。『ここ』じゃなかったら消滅だったよぉ~」
「ならばその力。もらうぞ!!【暴食】」
今度はベルフェの足元に黒い魔方陣が生み出される。その魔方陣にベルフェの体は飲み込まれ、体はどんどん沈んでいく。
「あぁ~大魔王の固有魔法かぁ~。これだと死んじゃうのかなぁ~? それとも平気かなぁ~?」
明らかに危険な状態に見えるがベルフェの態度は変わらない。
「貴様。死ぬのが恐ろしくはないのか?」
「う~ん。私は元々死んでるみたいな物だからねぇ~。けど消滅は困るからお願い。翔矢君になにもしないで、このまま元の世界に返してあげてよ」
「それが我と同じ大魔王である貴様の願いか? それで何か変えられるのか?」
「分からないけど、私と君は『初めて』会ったんだよぉ? きっと誰かが何か変えようとしている。だから君も何か変えてみたら?」
すでに胸元まで体が魔方陣に埋まっているベルフェの言葉を聞いたベルゼブは、何も言わずに右手を振り空間を引き裂いた。
「そういう事だ。宮本翔矢。元の世界に戻るがいい。我も貴様がマキシムを訪れないことを祈るとしよう」
「いや。訳わからないんだけど。俺って転生して……」
「はぁい。ばいばぁい!!」
色々と2人に言いたいことがあった翔矢だったが、ベルフェの生み出したピンクのフワフワした球に押され空間の裂け目に入ってしまうのだった。
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