39話:仲間割れから大魔王が始まりそうです
「ベルゼブ様の印象が変わるぅ言われましてもなぁ。うちらの名前はベルゼブ様の生まれ故郷の言葉で付けられてるさかいどういう意味かまでは知らへんのや」
「えっ?」
一瞬意味が分からなかったが少し考えて理解した。今は翻訳魔法によって言葉が通じている。つまり翔矢がマキシム語を話している訳でもなければサムイネが日本語を話している訳でもない。
『寒い』という言葉も、『豚』という言葉もマキシムには存在しない。それで幹部達は自分たちの名前に疑問を持たないのだ。
(ベルゼブの生まれ故郷の言葉が幹部の名前って事は……マジかよ……)
*****
そのころベルゼブの城でも動きがあった。ベルゼブとヒゲの長く背の低い老人ワカルンデスが玉座で話している。
「サムイネとブータックですが、やはり苦戦しているようでございます。突如現れた強大な魔力を持つ者の他に、もう一人そこそこ戦える奴がいたようです」
「……ワイハハにもう一人。そうか。今日であったか。知っていても分からない物だな」
「はい?」
ベルゼブが何のことを言っているのか分からなかったワカルンデスは首を横に傾げる。
「いや。気にするな。ワイハハには我が直接出向くとしよう。転移をたのむ」
「かっかしこまりました」
スッと立ち上がったベルゼブの命令通りワカルンデスは杖から魔方陣を展開しベルゼブをワイハハへと送った。
*****
城での動きを翔矢とミーナ、この場にいるサムイネやブータックが知るはずもなく戦いは再開されていた。翔矢はブータックを殴り続けている。そのたびに体は木っ端微塵になるのだがすぐに再生してしまう。
「ふぅ。体力はまだまだ平気だけどケロッとされるとメンタル的にしんどいぜ」
「俺様も回復するとはいえ痛いもんは痛い……勝てそうもないしなぁ……」
ブータックの声は弱々しい。肉体はともかく精神的には追いつめている気がした。精神的に厳しいのはお互い様なのだが。
「ちょっとブータックはん!! 死なないだけが取り柄なんやから、そのチート野郎をしっかり足止めしてくださいな!!」
しかし降参することはサムイネにより許されなかった。こちらもミーナの速度に対応できず体力切れを待っている状態だが確実に追い詰められていた。
「チートでもないやつに苦戦してるくせに偉そうに言いやがって!!」
「ガチガチにメタられとるんや!! ブータックはんとて、この女の動き見えておらへんやろ?」
「一気に氷らせればいいじゃねぇか!!」
「そんな雑な狙いじゃすぐに逃げられますのや!!」
「仲間割れしてる暇はないよ? 【クロス・フレイムLv32】」
2人が言い争っている隙にミーナは炎の魔法を唱える。赤の魔方陣が展開され十字の炎がサムイネの体を包み込む。
「はぁ……はぁ……クロス・フレイム。こんな魔法をLv30以上で使えるやなんて……」
「村の仇を取るためよ!! 私だって今日まで寝てたわけじゃない!!」
クロス・フレイムの効果が切れるとサムイネは大火傷を負って白い着物もほとんど焼けてしまっている。
「せやけど一撃で仕留められへんかったのがあんさんの敗因や!!」
膝を地面に付いたままサムイネはミーナを氷漬けにしようとする。
「危ない!!」
しかし嫌な予感を感じた翔矢はミーナを両手で突き飛ばした。ミーナの立っていた場所には氷の塊ができている。
「あっありがとう……助かったよ。ってかあの場所からいつの間にここに来たの?」
「チートらしいですから!!」
ミーナのような高速移動できる魔法は使えないが、魔法なしでもかなりのスピードで動くことができた。お陰で助けることができて安心したが、それも束の間だった。
「サムイネ……なにをしている?」
声の主の方を全員が見ると、黒い鎧に身を包んだ男がゆっくりと近づいてくる。
「ベッベルゼブ様!! 申し訳ございません。ここまでの実力者とは知りませんで……」
ベルゼブを見た途端、サムイネとブータックは戦いの手と止め膝をつく。翔矢とミーナもベルゼブの威圧感に完全に動きが止まってしまう。
「そんな事を言っているのではない。侵入者以外を手にかける事は許可していないはずだが?」
「じゃ邪魔して来る奴がおったんで動きを止め……」
言い終わる前に氷の地面に直径1メートルほどの穴が開いた。サムイネの着物の一部は消滅してしまっている。
「我が来なければ殺していたのは分かっている」
「頭に血が上ってしまい……」
「まぁ我が間に合ったので良しとしよう。だが次はないぞ!!」
「はっ」
サムイネは膝をついたまま頭をさらに低くする。
「さてと……サムイネとブータック程度では戦いにすらならんか……2人は拠点に戻れ。宮本翔矢は我が直々に始末しよう」
「やっぱりそうなるのか……あいつの狙いは俺だ!! ミーナは洞窟の奥に戻っててくれ!!」
「でっでも……」
「おっ俺は大丈夫。チートらしいから」
翔矢は強くなったからこそ分かっていた。ベルゼブには絶対に勝てないと。
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