33話:取引から気絶が始まりそうです
全員が帰宅したのを見計らい、健吾は部室棟で凶悪高校の監督と密会していた。
「あんさん。結局何がしたかったんや? 誰の差し金や?」
凶悪高校監督は恐ろしい顔で睨み付け健吾を見下ろす。
「いやぁ怖い怖い。本当に何のためらいもなく怪我させに来るんだもんなぁ。
報酬は倍払うから見逃してくだせぇよ」
健吾はわざとらしく怯えながら、両腕に持ったキャリーバックを凶悪高校監督に手渡す。
「なんや。だれの差し金かも目的も教えてもらえへんのかいな?
まぁこんだけ報酬もらえりゃ文句は言わんけども」
「そんなに気になるってんなら教えてもいいぜ。
俺は『北風エネルギー』から依頼を受けたんだ」
北風エネルギーという単語に凶悪高校監督の顔が強張る。
「北風エネルギー……佐島のオジキ会社かぁ!!」
「あんたみたいな人でもそんな顔するって、あの爺さん裏で何やってるんだよ……
まぁ分かったら余計な詮索はしないほうが身のためだぜ」
明らかに顔色を変えた凶悪高校監督の反応に健吾はヤレヤレと呆れた。
*****
健吾と凶悪高校監督から離れた場所でグミは聞き耳を立てていた。
今は黒猫から姿を変え、ゴスロリな雰囲気の服装に身を包んだ人間の姿になっている。
「んーーー。嫌な気配がして見に来たけど、さすがにここからじゃよく聞こえないニャ」
この部室棟はやたら廊下が細長く身を隠す距離では会話までは聞き取ることができなかった。
猫の姿になって近寄るという選択肢もあったが、黒猫の姿は悠菜の猫という事で身バレの危険もあったので念のため止めておいた。
「なんか野球ってのを見てる時に魔力を探られてる感じがあったニャ……
ぺネちゃんとか言われてた銀髪の天使が何かしてるかと思ったけど違うっぽかったし……
そもそも、あの天使ニャーの存在にも気づいてなかったしニャ」
基本悪魔族は動物の姿では魔力がかなり抑えられ、一般の人間にも負けるほどだ。
天使でも見た目や魔力で気が付くのは困難だろう。
「やっぱり猫と透明マントの合わせ技で近寄るか……」
この位置では会話が聞こえないだけでなく話をしている2人の姿も満足に確認できない。
一瞬見えた金色のスーツから一人は凶悪高校の監督だと分かったが、もう一人は高校の制服で生徒は同じ服装なので顔を見ないと誰か分からなかった。
近づいて確認するべきか迷っていると反対方向から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おーーーい。グミちゃーーーーん!! いたら返事してぇ!!」
「悠ニャ!? もうここまで来たニャ?」
「なんや? 誰かおるんか?」
悠菜の声に気が付いた凶悪高校監督がこちらに向かってくる。
「やれやれ。怖いなぁ。俺は帰るぜ」
健吾はグミのいる方向とは逆の方の出口に向かって歩き去って行った。
(悠ニャが見つかるのは絶対にまずい……)
このままでは悠菜の身が危ないと感じたグミは、急いで悠菜の方に向う。
「あっ!! すいません」
お互いに急いでいた悠菜とグミは細い通路でぶつかりそうになる。
目の前のゴスロリな服を着た少女が、まさか自分の飼い猫のグミだとは思いもしない悠菜はペコリと頭を下げて謝る。
「いやいやー。こちらこそちゃんと見てなくてごめんニャさい。
……本当に申し訳ニャイ」
グミはすれ違いざまに悠菜の首元に軽く手刀で一撃を与えた。
そして気絶した悠菜を左手で優しく抱きかかえ一瞬暗い顔をした。
しかしすぐに、色鮮やかにデコレーションされたトランクケースから薄ピンク色のスカーフを取り出しそれを自分と悠菜に被せる。
その頃には、すでに凶悪高校監督が近くまでせまっていた。
幸い田舎町のド真ん中に位置する六香穂高校は敷地が無駄に広大で、部室の集合したこの建物もかなり長い作りになっている。
相手が全速力で走ったりしない限りは、それなりに時間に余裕がある。
「なんや……確かに声がしたんやけどな」
凶悪高校監督は疑り深く辺りを見渡す。
部室を開けようと手当たり次第にドアをガチャガチャしたりするが、どこも鍵がかかっていて開かない。
「まぁええわ。佐島のオジキの会社が関わっておるんなら深入りも禁物じゃしのぉ」
そう独り言を残し凶悪高校監督は去っていった。
「ふぅ……(佐島って人の名前かニャ? 一応覚えとくニャ)」
被せていたスカーフを体から外したグミは、気絶したままの悠菜をお姫様抱っこで持ち上げ、このまま帰ることにした。
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