29話:入部回想から打席が始まりそうです
凶悪高校の選手のスパイクで右足を思いっきり踏まれ倒れこむモヒカン。
「セーフ……だよなぁ」
しかし自分の足よりも判定の心配をしていた。
「うん……だけどその足じゃあ試合は……」
「人数足りてないでしょうが……それにあんたにもらった恩に比べたら、こんな怪我屁でもねぇよ」
怪我を押して出場し続けようとするモヒカンを、キャプテンの泉は止めようとしたが聞く耳を持たなかった。
「モヒカン。練習試合でどうしてそこまで……」
泉はは必死に試合を続けようとするモヒカンの姿に、そこまでする理由がわからず尋ねた。
「こんな見た目と名前のせいで居場所がなくて何もかも中途半端だった俺を、あんたは誘ってくれた……
その恩を返すまで、どんな試合も最後までやりきるって決めたんだよ……」
「モヒカン……気持ちは嬉しいけど俺が無理だと判断したらすぐに試合を止めるからな……」
「あぁ。しゃべってたら楽になったよ……」
*****
モヒカンと泉の姿に、翔矢は自分が高校に入学したばかりの時の事を思い出していた。
「今週は新入生の部活見学期間です。まだ部活を決めてない人は是非見学してみてください」
放課後のホームルームで担任がそんな話をしていた。
「私はソフトテニス部にしたけど翔矢君部活決めた?」
「いや……俺は決めてないなぁ。卓夫は?」
「拙者はパソコン部でござる」
「うん、知ってた」
ホームルームが終わり翔矢、悠菜、卓夫の3人は廊下でおしゃべりをしながら歩いている。
「まだ新入生は部活無いし、今日は翔矢君の部活選びに付き合おう!!」
「賛成でござる!!」
勝手に盛り上がりだした悠菜と卓夫が半ば強引に部活見学に付いてきた。
部活の候補すら決めてなかったが、料理は得意なので料理研究会を調理室の外のガラスから覗いてみた。
予想はしていたが女子がほとんどで男子は居心地は悪そうな印象を受ける。
ジッと見て出した結論は、居心地が悪いというのは間違いでは無かったのだっが、それは男女の比率のせいではなかった。
中学時代の荒れた翔矢の事を知っている者が、怯えたり悪態をついたりしていたのだ。
「こっち見てる人って中学の時、喧嘩しすぎて『紅の鉄拳』って呼ばれてた人じゃない?」
「マジ? 怖いんだけど……」
「料理興味あるのかな?」
「そんな訳ないでしょ!!」
「ってことは、女目当て?」
「声大きい!! 聞かれちゃうよ!!」
そんな会話がはっきりと翔矢の耳に聞こえてきた。
「やっぱ他の部活にするわ……」
「翔矢君……」
その後もいくつか興味のある部活を見て回ったが似たような反応だった。
「あっあのね……次ソフトテニス見てみよ? 先輩いい人ばっかりだったしきっと……」
「パソコン部も悪くないでござるよ!! 少数精鋭で各々好きな事をしてるだけござったし……」
見かねた悠菜と卓夫が、それぞれ自分の入った部活に誘ってくれた。
「いや……やめとくよ。俺なんか連れてったら、お前らまで部活入りにくくなるぞ。
まぁ俺は家事とかやんなきゃだから帰宅部でもいいかなぁ。」
一瞬考えたが、2人に迷惑をかけたくなかったので、帰宅部に決めた。
これ以上他の部活を見ても、たいして反応も変わらないだろうと思った。
田舎の地元の高校なので、学年が1つ2つ違っても自分の事を知ってる人は多いのだ。
*****
部活見学を辞めて2人と別れた翔矢は、帰り支度を終え廊下を歩いていた。
「そこの一年生!! そこの1年生!!」
後ろから誰かに話しかけられたので振り返ると、そこには剣道着をフル装備した男がいた。
「えっ? えっ? なんすか?」
胴衣姿なら分かるが面まで付けて廊下を歩いている男に驚き思わず変な声になってしまう。
「まだ部活が決まってないなら剣道部に入らないかい?
その昔、うちは名門校だったみたいだが今年新入生が入らなければマジ廃部の危機……いや廃部なんだよ」
「はっはぁ……」
「あっ。悪い悪い。新入生の勧誘忘れてるの気付いて慌てて剣道場出てきたんだ。
俺は2年の渡辺健吾!!」
健吾はフル装備で廊下を歩く自分が不信だったことに気付いたのか面を取りながら自己紹介をした。
「はぁ……申し訳ないっすけど興味ないので」
「そう言わずに見学だけでもぉ」
その場を、すぐに立ち去ろうとしたが強引に引き止められてしまった。
なかなか帰らせてくれなかったので仕方なく見学だけすることにした。
「ここが剣道場だぁ」
廃部の危機と聞いていたので勝手に寂れた雰囲気を想像していたが昔は名門というだけあって剣道場はイメージしたよりも、かなり広かった。
しかし部員は健吾を含めても6人ほどしか見当たらない。
「3年の先輩が抜けると俺を入れて3人。新入生を入れないと廃部なんだよぉ。
入部してくれーーーーー」
健吾が頭を下げて頼み込んできた。
「いや……でも剣道とか分からないですし、俺なんか入部したって……」
昔は名門だったと聞くと廃部になってしまうのは少し残念に思えたが、先ほど色々な部活の先輩たちから畏怖されたのを気にして入部する気にはならなかった。
「『俺なんか』とか言っちゃダメだって!! それは自分を必要だって思ってくれてる人に対して失礼だぞ!!
少なくとも俺にはお前が必要だよ。『紅の鉄拳』君」
「ずいぶんと自分に都合のいい『必要』ですね……」
そう言った翔矢は、呆れながらも笑顔になっていた。
自分の過去を知っていて誘ってくれたこと。必要と言ってくれたことが嬉しくなり翔矢は剣道部への入部を決めたのだった。
*****
モヒカンが倒れこんでも、居場所をくれた人のために立ち上がりたくなる気持ちは翔矢にも分かった。
「あの……翔矢様……申し訳ございません……
モヒカン様を、御守りすることができませんでした……」
(ペネちゃんのせいじゃないよ……あんな迷いなく攻撃してこられたら気付けないって)
周りの人に聞かれないように翔矢は心の声でペネムエに話しかける。
「あれだけの攻撃をしようとすれば殺気などが感じられるはずですが、全く感じとることができませんでした……
あの者たち、恐らく人を傷つけることに慣れています。わたくしも警戒を強めますがお気をつけて」
(マジかよ……天使のペネちゃんが分からないって多分そうとうヤバイ奴らじゃない?)
翔矢がペネムエと会話している内に3番バッターは三振に倒れた。インコースをつかれて見逃し三振だったらしい。
「泉。すまん……打てない球じゃなかったが……」
「仕方ないよ。あんな危険なプレーを見た後にインコースを狙われたら怖くて打てないさ……」
ベンチに戻って来る選手に声をかけた後、泉は打席に向かって行った。
「あーーー泉先輩ケガはしないでーーー神様でも何でもいいから助けてくださーーーい」
「神様ではなく天使ですが、わたくしにお任せください!!」
両手を合わせて必死に祈りをささげている真理にペネムエは受け答えしたが当然、その声は聞こえていない。
「くたばれやーーー!!」
そう叫びながら凶悪高校のピッチャーが第一球を投げた。しかし言葉とは裏腹にコースはど真ん中である。
「ストライーーーク」
(危険球のフリで普通に勝負してくるか……言動に惑わされずボールを見るしかないか)
泉は相手の危険行為に怯えることなく冷静に1球を見送り分析していた。
*****
一方ベンチでは真理が監督の本郷に血相を変えて問い詰めていた。
「なぁ。監督!! モヒカン先輩ケガさせられたり暴言吐きながら投げたり、もう試合中止でいいだろ!? なぁ!?」
しかし本郷は黙っしまい何も答えない。
「おい!! あんた教師だろ!! なんとか言えよ!!」
「……なんだよ」
「はぁ?」
大柄な本郷の体には似つかわしくない、か細い声で何かを話した。
「勘弁してくれ!! 子供が生まれたばかりなんだよ!!」
少し強い口調で話す本郷に六香穂高校ベンチは静まり返った。
(マジかよ……本郷先生……何があったんだろう……)
会話を聞いていた翔矢の恐怖心も一層強くなる。
カーーーン
そうこうしている内に泉がセンター前にヒットを放った。
しかしモヒカンの時のプレイもあったのでランナーは無理には進塁せず、ワンアウト満塁となった。
「さっすが泉先輩!! 外野まで飛ばせば危険プレイのしようがないぜ!!」
泉のプレイに真理も飛び跳ねて喜ぶ。
しかし5番バッターは、3番打者同様に危険球に気を取られているうちに三振して2アウト満塁。
次の6番バッターは……
「俺なんだよなぁ」
翔矢はバットを持つと気が重そうに打席に向かう。
「宮本!!」
打席に向かおうとする翔矢を真理が強い口調で呼び止めた。
「なんだよ?」
「泉先輩に何かあったら殺す!! ビビッて三振しても殺す!!」
「……マジかよ」
打席にもベンチにも危険が待つ翔矢の運命はいかに。
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