2話:幼馴染から入院が始まりそうです
「んーーーーー」
翔矢が目を覚ますと、そこには真っ白な空間……いや、これは単なる白い天井だ。
「気が付いたかい翔矢くん?」
話しかけてきた中年男性には、見覚えがあった。悠菜のお父さんだ。
「あっはい……俺どうして……」
悠菜のお父さんは開業医で、田舎町にしては、大きめの病院を経営している。病院に運ばれてきたのは何となく察したが、なぜ病院に運ばれたのか記憶にない。
「その様子だと痛むところは、なさそうだね。」
悠菜のお父さんは安心したような顔でにっこりしながら話を続ける。
「君は、飛び出してトラックに引かれそうになった子供を助けたんだよ」
思い出した。女の子を助けようとして突き飛ばしたのだった。
「女の子にケガとかは???」
「足を軽く擦りむいた程度だよ。傷も残らないだろう。
君のほうは、突き飛ばしたときに勢いが余ったのか、うまい具合に転んで奇跡的にトラックの下にもぐる形になってね。転んだ時に頭を打って脳震盪を起こして気絶したようだが、大事には至ってないよ」
翔矢がホッと胸をなでおろすと、廊下からドタドタと足音が聞こえてくる。
「お父さん!!翔矢くん、目を覚ましたの??」
扉をガラガラと開けて慌てて病室に入ってきたのは悠菜だ。
「あぁ、今さっきね」
ふと時計を見るとお昼を少し回った所だ。気絶していたのは4時間程度だろうか。まだ学校の時間のはずだが何故悠菜がここにいるんだろうか。
「もう起きないんじゃないかって、心配したよ」
悠菜は泣くのを必死にこらえた顔で翔矢をポカポカ叩く。
「……心配してくれたのか。悪かった」
「体に異常はないから、すぐに目を覚ますって言ったんだけどね。起きるまで病院にいると言って聞かなかったんだ」
「でっでも本当に無事でよかったーーーー」
悠菜はポカポカ叩くのを止めると翔矢に抱き着いてきた。
「ちょ……おやじさんの前でやめろって」
「あっ……ごめんごめん」
悠菜は、顔を赤くして慌てて翔矢から離れる。
「ハハハハ、翔矢君のような勇敢な男がついていてくれれば娘も安心だ」
悠菜のお父さんは陽気に笑いながら、2人の様子を見つめている。
悠菜とは別に付き合っている訳ではないが、小さいころから遊んだりしている事もあり、親とも顔を合わせる機会は多かった。普通は幼馴染でも年齢が上がるにつれて交流は減っていったりするものだが、悠菜とは不思議と幼い時から変わらない交流をしている。
そのせいか、自分の父親からも悠菜の親からも付き合っているものと勘違いされている。もちろん言われるたび否定しているが照れ隠しと思われ取り合ってもらえない。
そんなやり取りをしていると、また扉がガラガラと開く音がする。
「翔矢!!意識を失ったと聞いたが、もう大丈夫なのか?」
入ってきたのは翔矢の父だ。
翔也が目を覚ましたのは、今さっきの事なので、目を覚ました事を知らず眠ったままだと思っていたようだ。
「えぇ、少し前に目を覚ましたばかりです。痛むところもないようですし、トラックと直接接触したわけでもないので、問題ないと思われます」
翔矢が答える前に悠菜のお父さんが質問に答える。
「一ノ瀬先生、ありがとうございます」
父は悠菜のお父さんに一礼をする。
「そういえば親父、仕事はどうしたんだ??」
「 お前が事故にあったと聞いて、引き上げてきたに決まっているだろう。取引先のところにいたから、来るまで少し時間がかかってしまったが」
「忙しいのに、心配かけてごめん……」
父が多忙なのは誰より知っているし、今朝は特に忙しそうに出社していったのを思い出した。取引先から来たとなれば、事故だけでも迷惑だったろうに、さらに色々な人に迷惑がかかったことは、高校生の自分でも容易に想像ができる。
「お前が無事なのが一番だ。それに事故の経緯は聞いている。車に轢かれそうになった子供を助けようとしたんだろう? 誇る事はあっても謝ることはないさ」
父はホッとした笑顔でそういった。
翔矢と父の、その話を聞いて悠菜のお父さんが思い出したように口を開いた。
「そうだ、助けた子供といえば、その子の親御さんがお礼を言いたいとのことでしたが、翔矢君がいつ目を覚ますのかわからなかったので、いったん帰っていただきました。
翔矢君には、念のため今日一日は入院してもらいますが、そちらの連絡先を親御さんにお教えしてよろしいでしょうか?」
「構いませんよ」
その話を聞いて今度は悠菜が口を開く。
「え?翔矢君入院するの?」
事故に遭ったとはいえ、翔矢は元気そうだしトラックと接触した訳ではない。それなのに入院なのは逆に不安になるところがある。
「俺は別に今日退院しても、ってか今から学校に戻ってもいいくらいですが」
翔矢も事故に遭ったという実感はほとんどなくケガも擦り傷程度なので、学校をサボっているような気がして忍びない。
「翔矢!!医者の言うことは聞くものだ」
「わかったよ……」
納得はいっていないが、父に強く言われたのでしぶしぶ入院を承諾することにした。
「まぁ元気そうで安心するよー。でも入院ってやっぱり暇だよねー? 私が、一日看病してあげよっか?」」
悠菜がいい笑顔で翔矢に問いかける。
「いや、学校戻れよ。お前は本気でやりそうで怖いわ」
悠菜は冗談が好きだが、天然なところもあるのでこういう場合、どっちなのか長い付き合いでも判断できない。
優しい奴なので本気な可能性もある。それはそれで男としては嬉しくないと言ったら嘘になるが……
「あらら、真面目だったのに残念残念。私は言われた通り学校に戻りまーーす」
「あぁ、色々ありがとな」
「どういたしましてーー」
悠菜は敬礼をして、この場を後にした。
「私も、一回お前の着替えとか必要なものを取りに戻るよ」
「そういえば、病院のパジャマと制服しかないもんな。ありがとう、助かる」
父は取引先から真っすぐ来たと言っていた。着替えとかを取りに家に帰ってから、病院に来たほうが効率はいいのだが、そんなことに頭が回らないくらい心配させてしまったということか。
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