267話:来客から飴玉が始まりそうです(改稿予定有り)
六香穂高校文化祭本番、翔矢のクラスのメイド鉄板屋は、お昼前にも関わらず客足が途切れる事無く大盛況していた。
「翔矢!! たこ焼き3パック追加!!」
「おう!!」
注文を取ってきたリールと、それに素早く対応する翔矢。
料理の評判もさることながら、客の中には別の目的の者も多い。
むしろ、そちらが過半数と言ってもいいくらいだ。
「ねえちゃん、かわええやん、俺らと一緒に遊ばない?」
一体どこからやって来たのか“ガラが悪い”という言葉を擬人化したかのような者達が、誰コレかまわず女子に話しかけている。
ここまであからさまでなくとも、メイド姿の女子をチラチラと見ている者もいる。
だがこの場では、とりわけガタイの良い男が、リールと悠奈に絡んでいるのが1番の問題だ。
「困ります!!」
「人呼びますよ!!」
毅然とした態度で対応しているが、ガタイの良い男は、引く気配を見せない。
「はぁん、こんなド田舎で、誰が俺に勝てるってんだか」
このセリフを待っていましたとばかりに、奥で控えていた気弱い男子が『紅の鉄拳在中』と書かれた看板を手に取った。
だが当の翔矢が調理で手が離せない上に集中して事態に気がついていない。
さらに相手の体格が半端でない事から、震え上がって動くことすら出来ずにいた。
リールも相手が普通の人間で、なおかつ一般人の前では、強気に出る以上の抵抗は出来ない。
教室の空気が凍り付き誰も動けなかったが、1人の男が現れ、流れが変わる。
「お邪魔するっすー!! 翔矢の兄貴に用なんすけど!!」
バザーの移動販売をしているようで、新幹線の販売で見るような台車を引いて歩いている。 陽気な雰囲気で入って来たのはモヒカンだったが、すぐに教室の異様な雰囲気に気がつく。
「取り込み中だったようっすね」
怯むことなく睨みを効かせるモヒカン。
彼の気迫に、ガラの悪い男の方が怖じ気づいてしまってる。
(この男の気迫……いやそれより髪型!!
明らかにイカれてやがる……正気でこの髪型なら……
どっちにしろイカれてやがる!!)
モヒカンの頭を見ながら、無意識に後ずさりしていると、背中が壁に付き逃げ場がなくなっており、頬から冷や汗がしたたり落ちる。
「ふん、上手いお好み焼きに免じて帰ってやるぜ」
ガタイの良い男は、震えた声で言い残し、帰っていった。
「こっ怖かったっすが、翔矢の兄貴の手前、かっこ悪いマネは出来ないっす」
モヒカンも内心は怯えていたのか、額の汗を右腕で大きく拭って安堵した様子だ。
「ちょっとー、何で誰も料理取りに来ないんだよぉ」
今の騒ぎに1人気がついていなかった翔矢が不機嫌そうに顔を見える。
そこを「お前が出てくれば、もっと早く収まっていたんだよ」という視線が突き刺さった。
「そんな事があったのか……」
少しばかり反省したような表情を見せたが、すぐに「ん?」と疑問の表情に変わる。
「ちょい待て!! なんで俺が用心棒までやらなきゃあかんのだ!!」
「翔矢君、出来る人が出来る事をやるんだよ!!
私は料理がダメだけど接客は頑張ってるつもりだし」
自信満々の悠奈に、またもや反省しそうになったが、これまたすぐに違和感に気がついた。
「って出来る事をやった結果が調理が俺のワンオペだろうがぁぁぁぁぁ!!
ガラの悪いが来たからって、喧嘩じゃなくても先生呼ぶなりすれば良かっただろうがぁ!!」
もう誰が何を言おうと説得されまいと誓った翔矢。
だが悠奈はすでに視界から消えてしまっていた。
「モヒカン先輩は何しているんですか?」
説得はされなかったが、すっかり怒りは誤魔化され、モヒカンの台車に目線を下ろす。
「文化祭って、何かの係やってると全然見て回れなかったりするじゃないっすか?
そういう生徒の為に、バザーを移動販売でやってるんすよ。
俺らも学校中の出し物を見て回れるんで一石二鳥っす!!」
「なるほど、文化祭で移動販売ってイメージなかったけど、理にかなってますね」
「翔矢の兄貴のクラスの出し物を見たとき、あっこれワンオペで教室から離れられない奴だって思って周りに来たっす!!」
「おっお気遣いどうも」
モヒカンの推理は、ほとんど正解なので、翔矢は「あはは」と関心するしかなかった。
翔矢の料理の腕はともかく、他の男子が揃って戦力外なのは知りようがないハズなのだが。
「少し前に、翔矢の兄貴の友達が色々と買っていってくれたばっかですけど、何かいります? 食いもんも充実してるっすよ」
台車の引き出しを開けると、バザー用に作ったであろうトートバックやら、一般のお菓子までギッシリと詰まっていた。
「あぁこういうの、どっかで見たことある気が……」
「翔矢君、あれだよ、買い物難民の方のために回って歩く移動販売!!」
「それだ!!」
注目がモヒカンの台車に集まり、料理の注文も落ち着いているので、このまま物色する事にした。
その列の中には、さきほどまでモヒカンの店で買い物をしていた卓夫の姿もあった。
「おぉ、さっきは色々買ってくれて、ありがとうっす。
翔矢の兄貴と同じクラスだったんすね」
「こちらこそ先ほどは……って校内を回っているのであれば、拙者が向かわなくとも良かったでゴザルな」
「はっはっは、縁があって良かったじゃないっすか!!
挨拶はできなかったけど、東京に住んでる健吾の兄貴も来てたみたいで今年は賑わってるっすなぁ」
などという会話が、商品を見つめる翔矢の耳にも入って来る。
(あの人またこっち来てるのか……)
一瞬何か事件かと頭を過ったが、すぐに蓮の私生活を思い出す。
(あぁ普通に遊んでる可能性もあるわ)
「翔矢君!! またお客さん来たから厨房お願い!!」
「あっわりぃ!!」
何か買いたかった気もしたが、女子の声で諦め、その場を後にし、即座に調理に戻る。
数分で客足は落ち着いたが、その頃にはモヒカンの姿はなかった。
(俺も腹減ってきたな、卓夫が色々持って来てくれた時に、何か買っとけば良かったな)
少し後悔しながらポケットを漁ると、ビニールの袋に指先が当たる。
その感触で、わたがしと共に受け取った飴玉の存在を思い出す。
「腹は膨れないが、まぁ糖分で疲れくらいは楽になるかな?」
パクッっと口に頬張ると同時に、教室に客が入って来た。
驚いた訳ではなかったが、タイミングが悪く、うっかり飴玉を飲み込んでしまった。
「やっほー!! 翔矢っち久しぶり!!」
「もし僕らの事を覚えていなかったらと思うと気が重い」
「いやはやグラビ殿は、ネガティブでゴワスな。
重力使いとは、そういうモノでゴワスか?」
「そんなことはない、重力操作は軽くする事だってできるし」
「3人ともいらっしゃい」
「「「????」」」
翔矢が挨拶をするなり3人は固まっている。
何故か分からなかったが、1つの仮説が頭を過った。
「あぁ一応メイド喫茶なのに、俺が接客するの変だったな……ゆっくりしてってね」
調理に戻ろうと3人に背を向けたが、襟をシフィンに掴まれ引き戻された。
「どうしたんだよ? ここ俺しか調理出来る奴がいないんだけど」
それを聞くなり、シフィンは2人に目配せで合図を送った。
「よし!! 翔矢殿、鉄板で焼くならばワシも腕に覚えがあるでゴワス!!
ここは任せてくだされ!!」
「僕も、お客さんに提供するのは気が重いけど得意な方」
「え??? え???」
困惑する翔矢だが、シフィンの力が思いのほか強く、どんどん引きずられてしまう。
その時、横にリールが見えたので目で助けを求めたが、彼女は動こうとしない。
(あれって3人とも天使よね? 何かあったのかしら?
私は持ち場離れれないし……がんばって!!)
「おい!! なにサムズアップしてんだぁーーー。
誰か助けてくれーーーー!!」
今度は教室中に助けを求めたが、彼に送られるのは暖かい眼差しだった。
「翔矢君、昨日から働き詰めだったもんね」
「おい……悠奈!?」
「そうだな!! 後はこの人達に任せて、ゆっくり休め!!
何かあったら連絡するから!!」
「ちょいま、何で初対面の奴への信頼が高いんだお前ら!!」
「翔矢の知り合いなら安心だぜ!!」
「マジか……おーーーーーい!!」
そのまま連れ去られた翔矢は、自身の体の変化に気がついていなかった。
声は高くなり、胸も膨らみ、女性らしく変化している事に。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
ストーリは一生懸命練っているので少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると幸いです。
下の星から評価も、入れてくださるとモチベが最高潮になるとか。




