263話:女装から目覚めが始まりそうです(改稿予定あり)
明日は六香穂高校文化祭前夜祭。
各クラスや部活では、出し物の仕上げや確認を行っていた。
翔矢のクラスはというと、大久保卓夫が、とてつもない速度で、メイド衣装の細かい部分を縫い上げ、給仕担当の女子に配っている。
「はい!! 次でゴザル!!」
その様子は、まるで流れ作業のようで、翔矢は関心した様子で見ている。
「本物のメイドカフェの衣装とクオリティに差がないんじゃないか?」
彼の作ったプラモデルやら、自作PCのディティールなどは見たことがあったが、裁縫もココまでの腕とはしらなかったようだ。
「あれなら自分の私服も、オシャレなのをゲフンゲフン」
これ以上は口にしてはいけない気がして、誰に言い訳するでもないのに咳払いで誤魔化す。 すると背後から「ガタガタブルブル」という物音とも声とも取れる何かが彼の耳に入って来た。
振り向くとそこには、メイド服姿で体育座りをしている悠奈とリールがいた。
「2人して……どうした? せっかく可愛い衣装着てるのに、浮かないどころじゃないぞ?」
見渡すと2人だけで無く、着替え終わった女子の半数以上が恐怖に震えているかのごとく震えている。
「翔矢ぁぁぁぁぁぁ!!」
「おっおい!!」
リール言葉にならない言葉を発しながら抱きつくリール。
2人は付き合っている事になっているので、クラスメイトからの痛々しいモノを見る視線が刺さる。
これが自然と思われるような振る舞いはしていないはずだが、リールが外人となっている事もあってか、普段からこんな感じだと誤認されているようだ。
ペネムエが居れば大騒ぎだったろうが、彼女は大天界祭の手続きが忙しいらしく、家で留守番をしている。
なぜだか同じ天使のリールは、変わらず学校に通っているが、翔矢はそこには突っ込まず
にいた。
だが、この女子が次々と震えている状況は、ツッコまずにいられない。
リールに抱きつかれたまま、話しを進めることにした。
「女子が揃いも揃ってどうしたんだ? 状況が飲み込めんのだが」
「このメイド服!! サイズがピッタリなのよ!!」
「??? 良いことじゃないのか?」
翔矢の反応に、女子が一斉に溜め息を吐く。
そんなことは無いだろうが、大バッシングを受けているような気分だ。
「翔矢……これ大久保卓夫の手作りよ?」
ここまで聞いて、ようやく女子達の気持ちを察した翔矢。
少しの戸惑いと反省の色を見せた。
「でも卓夫が衣装作るって事に異論は出てなかったよな?
だったらザックリサイズくらいは教えてたんじゃねぇの?」
卓夫が大の付くほどオタクというのは周知の事実。
なのだが嫌われている訳では無い。
過剰ではないかと思うくらいイジられたり、恋愛対象にはならなくとも、人として嫌われていると言うことは決してないのだ。
それでも、サイズが完璧に知られるのはアレだと翔矢も理解は出来るのだが……
「うん……多少聞かれるのは覚悟していたわ、何処まで答えるかは個人のアレとしてね。
でも、まだ何も教えてない、いいえ聞かれてすらいないのよ」
リールの言葉に、俯き震えていた女子達が一斉に頷いた。
「えええ……なんでそれでピッタリ……聞いてみりゃ」
言葉を言い終える前に「怖くて聞けないよな」と気がつき、ソレと共に自分が聞く流れだとも察した。
名目上の彼女であるリールのサイズを他の男に知られている、という大義名分も彼にはあるのだ。
「おい卓夫」
「おぉ翔矢殿、ちょうど良かったでゴザル」
「はっ?」
女子全員にメイド服は行き渡った筈だが、卓夫の手元にはもう一着ある。
翔矢に手渡して来たのだ。
「せっかくなので受け取って欲しいでゴザル、サイズも恐らくピッタリかと」
その一言に血の気が引いた翔矢。
女子に混じって体育座りでガタガタと震えてしまった。
「およ? また何かやっちゃいましたかな?」
「その通りだよ!!」
今回ばかりは男子女子関係なしに声のそろったツッコミが炸裂。
見かねた男子の1人が卓夫に説明したようで、ようやく彼も状況を理解したようだ。
「あぁ、余計な心配させたようでゴザルな。
どこぞの上級生のような倫理に反する事はしておらぬ」
“どこぞの上級生”で渡辺健吾の顔が思い浮かぶ程度には、彼の性格は知れ渡っている。
「翔矢殿は、男子の中では小柄でゴザルからな。
まず翔矢殿のを作って基準にして、そこから色々なサイズを作って配ってただけでゴザル、我ながらバランス良く作れていたようで安心したでゴザルよ!!」
卓夫の説明に「なーんだ」と納得するクラスメイト一同。
だが翔矢だけは、納得していないどころか、さらに震えが大きくなった。
「おい!! 女子!! それでええんか? まだ言うことないんか?」
その訴えは、女子に届くことは無く、すでに「○○ちゃんメイド服似合うー!!」という話題に移り変わっている。
「翔矢殿!!」
彼に追い打ちをかけるかのように、卓夫がメイド服を差し出している。
「……着ないぞ?」
「そう言わずそう言わず」
「やめろ!! それ以上近づくな、うぁぁぁぁぁぁ~」
教室中に響く悲鳴、数秒後には、かつて六香穂市を騒がせた伝説のヤンキー“紅の鉄拳”
は見る影も無い、可愛らしいメイドの姿があった。
「卓夫……お前覚えてろよ」
赤面しながら、人生初のスカートを無意識に押さえる翔矢。
その姿に、クラスの男子も女子も見とれてしまっていた。
「だっ誰か笑うか突っ込めよ!! その反応はガチ感が出るだろうが!!」
なんとか素に戻った翔矢に、クラスの空気が正気に戻った。
「はっ俺達は今まで何を?」
「そうだ、みんな落ち着け!! どんな姿になっても、アレは翔矢だ!!」
そう言いながらも、男子の反応はソワソワとしている。
「あぁ分かった!! 何故か一緒に着けられたウィッグが悪いんだなウイッグ!!
これで多少見た目がマシになってるんだ!!」
ウィッグを外そうとする翔矢だったが、中々外れず、髪が引っ張られ痛みを感じるが、それでも無理矢理引っ張ろうとする。
「コンチクショー!! なんで取れないんだよぉ!!」
「翔矢殿、いや姫、それは留めてあるので引っ張っても取れませんぞ」
「そうなのか……って今、姫って言ったか? ふざけんじゃねぇぞ、お前女子にも殿付けだろうが!!」
「いや、あまりにもの可愛らしさについ!! まぁソレガシは三次元に興味はありませんが、つい手が動いてしまいますな」
卓夫が、とてつもない早さでスマホを手に取り、翔矢の姿を何枚も写真に納めている。
その速度は、まるでコネクトアクセルのようだ。
クラスメイトも卓夫に続けとばかりに男女問わず、撮影を始めた。
「やめ……やめ……」
初めての経験に困惑し、何も出来ない翔矢。
去年、男女逆転カフェで女装した時は、翔矢のヤンキー時代のイメージが残っていたのと、あえて男性らしさを残すスタイルだったので、ここまでの事態にはならなかったのだ。
この空気に耐えきれなくなった翔矢は、泣き出してしまった。
だいの男が人前で泣くことなど、そうそうある事では無い。
自らの涙に気がつき、顔を片手で隠したが、コレは逆効果。
クラスメイトの奥底の何かを目覚めさせてしまい、シャッター音が加速する。
どうしようもない状況だが、翔矢に救世主が現れた。
「こら!! 皆いい加減にしなさい!!
翔矢、大丈夫だった? 怖くない怖くない」
リールがかばうように翔矢の手を引き、涙が止まらない彼の目元を指でなぞり、そのまま頭を撫でた。
その目撃者の中には、何かに目覚めた者も、いたとかいないとか。
「お前ら……全員後で覚えてろよ」
この姿でいると、どこか女性らしい仕草が残ってしまう彼に、これまた何人かの男子が目覚めたとか何とか。
「いやぁ、接客しないのが勿体ないでゴザルなぁ」
「絶対何があっても、何が出されてもせんからな!!」
その後、作業は何とか終わり、翔矢のクラスは前夜祭を待つばかりとなった。
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