25話:侵入から毒物が始まりそうです
ある日の深夜に、赤髪の天使リールは目的のために悠菜の家に忍び込んでいた。
「ここが翔矢の幼馴染の子の家ねぇ」
翔矢や周りの人間の情報が書かれた本を読みながら渡り廊下を歩いている。
「料理がかなり苦手みたい……ってこれ料理なの?」
本には、かなり細かい情報が書かれていて悠菜の昔作った料理の絵がいくつか詳細な絵が付いて載っている。
台所に着いたリールが机の上を見ると紙袋が置いてあった。
魔法の鑑定レンズで紙袋を見てみると中身は悠菜が作ったクッキー(?)で翔矢に渡す予定がある事が分かった。
(卑怯だし食べ物にこんなことしたくないけど……あんな料理作る子の作った物だし、もはや食べ物じゃないと割り切れば……でも……)
小さな試験管のような瓶を持ちながら台所をウロウロして考え事をする。
瓶の中身は簡単に言えば毒薬。あまりにも『都合が良すぎる』毒薬でどの世界でも製造ができないように天界で検閲しているものだ。
女神アテナから、どうしてもというときは使っても構わないという事で預かっていた。
この毒薬を飲んだ人間は瓶と命がリンクする。毒が体に回ったら死ぬのではなく飲んだ人間は瓶が破壊されたら死んでしまうのである。
つまり飲ませさえすれば、後は好きな時に殺せるという毒物だ。
死因も心臓発作になるので、この世界でも理解はされる死因だ。
ゲートが開いている日はペネムエの警戒が強くなって妨害してくるだろうが、この方法なら日付を選ばないので妨害の心配は無いと考えたのだ。
(……でも本当にそれでいいの? 宮本翔矢を転生させてそれで……)
*****
ここは異世界マキシム。リールはその中の農業が盛んな地域に来ていた。
今は実りの時期で辺り一面に作物などが広がっている……そんな景色が本来なら見れるはずだった。
「なによ……これ……」
しかしリールの目の前の景色は、大地がやせ細り実りどころか雑草すら枯れて元気がない。
「天界は、どうしてこんなになっても放っておいてるの……」
リールは絶句したが、この先にある村を目指して歩き出した。
間もなく村に到着したが、さびれた様子で活気は全く感じられない。
「……失礼ですが天使様ではありませんか?」
一人のやせ細った老人が駆け寄って話しかけてきた。
「ええ。そうですけど……」
天界がここまでなってもマキシムの事を放っておいているのが申し訳なく小さな声で答える。
「みんなぁーーー天使様が来てくださったぞぉーーー!!」
老人は痩せた体からは想像できないような大きな声で叫んだ。
声を聞いた住民が続々と集まってきた。
「天使様、どうか村を……いえ世界をお救いください」
「大魔王ベルゼブが来てから土地の魔力は吸い尽くされ作物も育ちませぬ」
村人たちはひっ迫した様子で、この村の……いやこの世界の状況を伝えてくれた。
ベルゼブの圧倒的な力の前に勇者アーベルが敗北してから立ち向かうものがいなくなり、ベルゼブも必要以上の進行はしなくなったが、マキシム中の土地の魔力が吸い尽くされているとのことだった。
「この、超天才天使リール様に任せなさい!! 私はそのベルゼブを倒すために来たのよ!!」
「おぉなんと頼もしい……しかしベルゼブは絶対無敵の魔法を使うと言います……」
「絶対無敵ねぇ……」
女神アテナからもその話は聞いていた。しかしリールは半信半疑だった。
学問としての魔法は得意では無かったが、どんな魔法にも対処法が必ずあるのは知っていた。
マキシムで使われている魔法は『レベリングマジック』
使えば使うほど成長する魔法。恐らくベルゼブは、とんでもないレベルの魔法を打ってくるのだろう。
しかしレベリングマジックは術式としては簡単な物がほとんどなので対処法はある。
マキシムの人間は対処できないだろうが、他の世界の魔法も多く覚えている自分なら対処できる自信があった。
*****
そしてリールはベルゼブの城にたどり着き戦いを挑んだが……
「はぁ……はぁ……なんて奴なの……」
リールは成すすべもなく体は血だらけになり意識も薄れてきた。
「天使よ。さっきまでの威勢はどうした?」
ベルゼブは玉座に座ったまま、倒れこんでいるリールを見下ろす。
「ちょっと油断してただけよ……はぁ……はぁ……あんたの魔法は、もう見切ったわ……」
リールは立ち上がり、尚も立ち向かおうとする。
「立ち上がっただけでも称賛に値するが、その上我の魔法を見切ったとほざくか?
では試してやろう【絶対零度Lv999】」
とてつもない吹雪がリールに向かって吹き荒れる。
「見切ったって言ったはずよ? 【魔境天龍破】」
リールの前に龍の縁の鏡が現れベルゼブの魔法を反射する。
「ほぅ?」
ベルゼブの体は見る見る凍っていく。
「驚いた? この世界に存在しない魔法よ!! いくらレベルが高い最上級魔法でもレベリングマジックは構造が単純なのよ。
この魔法ならあなたの魔法に対処できるわ」
「なるほど。世界により使われる魔法は違うか……よい事を知った。
だが、その他の世界の魔法とやらに、我に止めを刺せる魔法が存在するのかな?」
ベルゼブは、体のほとんどが凍りながらも落ち着いた様子で話す。
「あるのよねぇそれが!!」
リールが地面に右手を突くと、城を丸ごと覆うほどの巨大な魔法陣が展開された。
「古代の魔法……いくつもの文明がこの魔法で滅んだと伝わっているわ。
まぁ超天才の私はそんなヘマはしないけれど」
「ほぉ、魔法陣の情報が凄まじく、我も短時間で読み解くのは困難……それがそなたの奥の手か……」
「降参するなら今のうちだけど?」
城がギシギシと呻きを上げあちこち崩れ始めている。
「……降参などせぬ。これほどの魔法を見せられては我も本気を出さねばな」
「あんたが何をしようが魔法は全て跳ね返せるわ」
嫌な予感はしたが、マキシムに存在する魔法ならいくらレベルが高くても対処する自信がリールにはあった。
「では、この魔法は跳ね返せるかな? 【無敵Lv999】」
その呪文が唱えられると黒いオーラがベルゼブの体を包んだ。
黒いオーラは波のように広がり、体の氷を消滅させリールの巨大な魔法をも一瞬にして消し去った。
リールは恐怖で言葉を失いその場で膝をついてしまった。
「およおよ。戦意を失っておりますのぉ」
ベルゼブとリールの戦いが終わったのを見計らったかのように玉座にドロドロの体の豚顔の魔物が入ってきた。
「ブータックか。何をしに来た?」
ベルゼブは不機嫌そうな声でブータックに訪ねる。
ブータックは幹部ではあるが、あまり良くは思われていなかった。
「そろそろ決着が付いたかと思いましてなぁ。
いやはや天使と言うのは実に美しい」
そう言いながらリールの顎を右手で持ち上げた。
「ひっ……やめ……」
戦意を失ったリールには、もはや抵抗する気力がない。
「この天使、頂いてもいいですか?」
「仮にも天界からの使いだ。戦意を失ったものにこれ以上手を出すことは許さん」
「ちっ……」
「不満か?」
「いっいえ……滅相もございません」
不服そうな態度を取ったブータックだったがベルゼブが威圧した事で、言い返せず引き下がった。
「という訳だ。天使よ。分かったら去るがよい」
リールは天界へ戻るしかなかった。だが先ほどの村での出来事を思い出していた。
超天才の自分に任せろと大見得を切って結局ベルゼブに少しのダメージを与えることも、仮面の中の素顔を暴くこともできなかった。
(マキシムのみんな……ごめんなさい。
女神アテナ様の言っていたノーマジカルの戦士を連れてきて救って見せるから……今は耐えて……)
*****
(そうよ……こうしている間にもマキシムの人たちは飢えて苦しんでいる。
手段は選んでいられないは……)
リールは毒薬を、悠菜の作った煎餅のようなクッキーに仕込む決意をした。
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