エピローグ:買い出し(改稿予定有り)
話しは遡り数日前の放課後。
翔矢は文化祭の料理の粉もんの練習のため、リールとともにスーパーに来ていた。
お好み焼き粉やたこ焼き粉を「何か違いがあるのか」と言わんばかりに、裏の成分表に睨みを効かせている。
「無理について来なくて良かったんだぜ?」
「別に無理はしてないわよ、まぁ強制感が無かったと言えば嘘なんだけど」
今2人は恋人同士という事になっている。
リールの存在感も有り、これはクラス中どころか学校中の周知の事実。
付き合っているのはフリなので“事実”ではない。
というのは置いておいて、文化祭の準備が始まった途端、一緒に行動せざる終えない空気になってしまったのだ。
「学校の奴がいる訳じゃないし、そう徹底してフリする必用も無いと思うけどなぁ」
「いるわ」
「え?」
急に真剣なトーンになった彼女に、思わず粉を吟味する手が止まる。
「学校から出てからずっと……7人はいるわね?」
「えぇ……それでスーパーまでは手を繋ぐとか言い出したのか」
「ゴホン……何人かは普通に買い物かと思ったけど、全員からもれなく尾行されてるわね」
「ったく、あいつら暇かよ」
「あいつらっていうか、私は知らない子ばかりだけどね」
「お前人気者だな」
「まぁね」
リールは誇るように胸を張る。
彼女の豊満なモノが更に強調されたのに気がつき、翔矢は思わず目を反らした。
「付き合ってるのはフリだから触らせないわよ?」
「触ら……ねぇよ!!」
思わず大きい声でツッコミそうになったが、ここは人目の多いスーパー。
気持ちと声を押さえながらも、しっかりと圧を掛ける。
「んで? 尾行してきてる奴はどうする?」
「どうもしないわよ、買い物終わらせて出ましょう?」
「へーーーい」
その後、意識しているせいか翔矢も尾行者の気配を感じ、自然と早いペースで買い物を終わらせスーパーを後にし、数百メートルは移動したのだが……
「まだ追って来るわね」
依然として2人は尾行されている。
ちなみにココは、人通りが少ない生活道路で、嫌でも視線を感じてしまう。
「あんまし良い気はしないな、こうなったら最後の手段」
「え?」
曲がり角まで数歩という所で、翔矢はリールの手を掴み走り出した。
彼女は一瞬だけ頬を赤く染めたが、すぐにそれどころで無くなってしまう。
【コネクト・アクセル】
猛スピードで動き出すのを感じるとと共に腕を引き裂かれるような痛みが襲う。
数秒で耐久の限界を迎えそうになった所で、急ブレーキの立ち止まると、翔矢の背中にドンとぶつかってしまう。
「わりぃ、この速度から止まるのに、まだ慣れてなくて」
「謝るとこはそこじゃない!!」
「ふぇ?」
落ちついてみると、リールの美しい赤髪は、木の葉や木の枝、さらには虫までくっつき台無しになっていた。
「誠にゴメンなさい!!」
深々と頭を下げる翔矢に、呆れて溜め息を吐くしかなかった。
「あんたねぇ、前から言おうと思ってたけど“誠にゴメンなさい”って言葉遣いおかしいからね!!」
「まさか異世界人に日本語を指摘されるとは……」
「あんた以外も言ってるし、言いたくなる何かはあるけどね」
などと話しが逸れている内に、リールの怒りは収まったようだ。
すると彼女の表情が急に険しくなる。
「魔力!? 凄い速度で近づいて来る」
「え? 敵か?」
「そんな事まで分かる訳ないでしょ!!」
赤メリを構えようと制服のポケットに手を突っ込む翔矢だが、引っかかって上手く取り出せない。
モタモタしている間に、目の前にピカッと閃光が走り、2人はたまらず両目を閉じた。
「翔矢!! 大丈夫か!!」
聞き覚えのある声が聞こえた所で、多少無理をし目を開けると、そこにはゼウがいた。
「おぉゼウ、どうした?」
「どうした? って今の閃光ゼウだよな? そんな急いで、そっちこそどうした?」
「ビックリしたじゃない!!」
「なんだ、リールもいたのか」
ムッとした表情のリールを無視し、ゼウは話しを続ける。
「翔矢が魔力を使ったのを察知したから、慌てて来たんだが……早とちりだったか?」
「あぁ……ちょっと追われてて」
「翔矢ほどの男が、逃げるしか無い相手だと?」
ゼウは雷鬼の手からバリバリと放電し、警戒を強める。
既に尾行は巻いているので誰にも危害はないだろうが、2人は反射的に彼を取り押さえた。
「ストップストップ!!」
「そういうのじゃ無いから」
「そう……なのか?」
状況までは分かって分かっていないだろうが、納得はしたようで手を引っ込めてくれた。
落ち着いた所で、ここに至るまでの経緯を話した。
「なにっ!? 2人が付き合って……いるだと?」
何故だか凄まじいショックを受けた様子で膝から崩れ落ちてしまうゼウ。
「おっおい、どうした?」
「もしかして、私の事、好きだったとかぁ?
フリだから安心しなさいよ」
「それはない」
「冗談よ……」
言葉の通り冗談のつもりだったのだが、真顔で睨まれたので後ずさりする。
「だったら何にショック受けてるんだよ?」
「翔矢……まさかお前が体目当てでパートナーを選ぶような奴だったとは……」
ゼウの視線はリールのふくよかな胸元に向く。
しかし彼に感じられるのは、下心ではなく哀れみだ。
「いや話し聞いてたか? 付き合ってるフリだっつうの、演技!!」
「おっおう……」
「むしろこんな話しするゼウの方が、そういう思考なんじゃないか?」
「いや地球の人間からすれば、コイツの体型は、そういう感じだと思うが、天使……というか異世界ならソコソコいるぞ?」
「まっマジで!?」
「興味が沸いたか?」
ゼウは、してやったりとばかりに翔矢を見つめる。
「これは罠だぁーーーーー!!」
「粉バナナ?」
「言ってねぇよ!! どんな聞き間違いだ!!」
ザ・男子高校生なトークをリールはジト目で聞いている。
「あんたたち……あんまし体型とかの話しをすんな……
ゼウに関しては、普段人のこと頭足らずみたいに扱うくせに馬鹿な話しを……」
「ゴホン翔矢といると、テンションが可笑しくなってしまう。
まぁそうか、ふりか、じゃなきゃアイツが可愛そうすぎるもんな」
「ん? アイツって?」
「そりゃ、ペ……」
そこまで口にした所で、リールがゼウの口を塞いだ。
「ふんが!! 何をする!!」
抵抗し今にも雷を放つ勢いのゼウに、身の危険を感じながらも、そのまま耳打ちする。
「まだ……まだだから!!」
この一言でゼウは全てを察する。
「翔矢……お前……マジか?」
「??? なにが?」
首を傾げるその姿に、ゼウはそれ以上何も言えない。
「あぁ、そういえば大天界祭ではな、両思いの男女が一緒に潜ると一生の幸せが訪れるゲートが存在する……らしい」
「なんだよ急に」
「私も聞いたことがある、というか天界の女の子の憧れだけど、伝説みたいなもんよね? 世界を結ぶゲートが、幸せなんて抽象的なモノに繋がっているはずないし」
「いや大天界祭は長いからな“2人”で探してみればと思ったまでだ」
「いや……だから付き合ってるフリだっつーの!!」
「じゃあ何事も無かったなら俺は失礼する」
そう言い残すと閃光を放ち、ゼウはこの場を去ってしまった。
「なんだアイツ……ってか粉もん食って感想聞かせて欲しかったなぁ」
両手一杯の袋を掲げ、残念そうに見つめる翔矢。
その横では、ゼウの言葉の意味に気がついたリールが呆れた目をしているのだった。
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