258話:逃亡から帰還が始まりそうです(改稿予定有り)
翔矢とアルネブが聖剣に追い回され数分が経過。
その様子を、ペネムエ達はただ呆然と眺めていた。
「ペネムエ? 聖剣ってあんな自我を持った攻撃して来るんだっけ?」
「リール、わたくしも聖剣は使用者を選ぶという話ししか知りませんので。
というか実物に触れる……見るのも初めてでしたからね」
「2人とも!! 談笑してないで助けてよ!!」
「我も体力の限界じゃぁ!!」
逃げ回る2人の体力は限界を迎え、徐々にペースが落ちている。
追いつかれて、攻撃を受けるのも時間の問題だろう。
「ゴメンゴメン、でもそんな錆びた剣、当たっても痛くないでしょ?」
「それもそっか」
「それもそうじゃな」
同じ動きで立ち止まり、そのまま振り返る。
聖剣は横一文字に斬るような動きをし、2人は反射的に伏せて攻撃を回避した。
次の瞬間、後ろの岩盤がスパッと斬れ、音を立て崩れだす。
「はっ?」
「マスター!! あれめっちゃ斬れるぞ」
再び聖剣から逃げまわると。ペネムエとリールも、事態を重く受け止め真剣な表情を見せた。
「どうやら、油断が過ぎたようですね」
「人は……いえ武器は見た目によらないわね」
ペネムエはブリューナクで凍らせ動きを止めようと動いた。
しかし、振るっても冷気が発生しない。
「あれ? 故障でしょうか?」
「神器に故障なんてあるの?」
「使いこなせなかった時期でも、冷気が発生しないのは初めてです」
予想外の事態だが、戸惑っている間も、翔矢とアルネブに危機が迫っている。
「しゃぁない!! 最近出番が無かったし私がやるわ!!」
やる気に満ちあふれた声と共に閻魔を振るうと、黒い炎が聖剣を包み込んだ。
「リール、やっと火が消えましたのに、ソレ使って大丈夫なんですか?」
「まぁなるようになれよ!!」
黒炎に包まれた聖剣は、そのまま力を失ったように地に落ちた。
「リールありがとう!!」
「はぁ……はぁ……一時期はどうなるかと思ったぞ」
走り続けていた2人は安心と体力の限界から、背中合わせで座り込んだ。
「申し訳ありません、事態を軽く見過ぎてしまいました」
「たったまには走り込みも良いもんだったよ」
「我もハネル大陸では玉座に座りっぱなしだったのでな、気持ちいい汗じゃ」
「何故そこで強がる?」
翔矢とアルネブの呼吸が整った頃、聖剣を包んでいた黒炎がようやく消えた。
ジッと見つめ観察してみるが、動き出すような気配はない。
「こいつめ!! 怖い思いさせよって!!」
聖剣を蹴飛ばそうとするアルネブの足に、翔矢は手を当て制止した。
「アルネブ、気持ちは分かるがステイだ、また襲われるぞ」
「御意」
襲われた2人は聖剣から距離を取り、代わりに蓮と鈴が近寄ってきた。
「黙って見ていれば喧しさと油断の絶えない奴だ」
「こんなボロ刀に怯えて、隕石を切り刻んだのと同一人物とは思えないわね」
数秒聖剣を見つめた後、蓮は無言で手に取った。
「さっきも触れたが、錆びた剣にしか見えんな」
「おい蓮のおっさん、気をつけろ!! そいつ手を噛むぞ!!」
「マスターの言う通りじゃ!! 我は手を引っ掻かれそうになったぞ!!」
「2人とも、犬や猫じゃないんだから」
呆れる鈴をよそに蓮は剣の観察を続ける。
「ドクターのおっさんと違って、蓮のおっさんが見たって何も分からないだろ」
翔矢は、馬鹿にしているように笑いを堪え気味だ。
それを察しているのか蓮は眉をピクピクと動かしている。
「黙って聞いてれば年上に向かって!! 先輩の兄だぞ!?」
感情に身を任せ聖剣を振るおうと鈴が羽交い締めにし止める。
「ちょっと蓮!! さっき危険が危なかったの忘れたの!?」
「そうだ、すまない……ここは大人の対応を」
深呼吸をして気持ちを落ち着けようと腕を挙げると、その動作はちょうど聖剣を振り回す動きとなる。
今回は全員が一斉に伏せるが、何も起こらない。
「みんな揃ってどうした?」
「どうした? じゃねぇよ!!」
翔矢のゲンコツが蓮の頭上に振り下ろされる。
「蓮!! アレを忘れたの?」
鈴の指さした先には、スパッと切り裂かれた岩盤。
翔矢とアルネブが襲われ発生したこれは、記憶に新しい。
「すっすまない……だが何も起こらんな?」
今度は故意に聖剣を振り回す蓮、周りが慌ただしく逃げ惑うのもお構いなしだ。
「だから危ないって言ってるだろうが!!」
「まぁ何も起こらないんだし、良いじゃ無いか?」
「聖剣は選ばれし者しか使えないので、先ほどのように聖剣自身の意思で動かない限りは大丈夫かと」
「聖剣に意思とかあるんだね」
「わたくしも詳しくは……しかし使用者を選ぶと言うことは、近しいモノはあるかと」
「とにかく、あんな目に遭うのはゴメンだ、ペネちゃんポーチにちゃんと閉まっておいて!!」
「分かりました、ペネちゃんがちゃんと閉まっておきますよー」
「何故来る返した?」
「語呂が良かったのでつい」
ペネムエは顔を赤く染めながら、聖剣をポーチにしまった。
そのタイミングで誰かが近寄って来るような足音が聞こえ始める。
音の方向に目を向けると、そこにはグミ、ユリア、それにルーシィがいた。
「おぉ3人とも、何処にいたんだ?」
「……脱獄した囚人が、軽く縛られただけで放置されてたので見張ってたけど、騒がしい声が聞こえてやって来たニャ」
「私は隕石から逃げてたら迷子になっちゃって、やっとグミちゃんと合流できたのよ」
その言葉に聖剣でわたわたしていた翔矢達は、冷や汗が止まらなくなった。
「誠にゴメンなさい!!」
揃った声と揃った動きで頭を下げる。
「まぁ慣れたからいいのニャ」
「私は勝手に迷っただけだし気にしないで」
「何かに気を取られて他がおろそかになる事はよくある」
誰もがルーシィにまで、こちらが悪いかのように言われるのは腑に落ちない様子。
だが、それは一端置いておき、今の1番の問題を洗い出す事にした。
「とりあえず……もう何の為にココにいるのかも分からない状態です、とりあえず帰る方法を考えませんと」
「六香穂……最悪東京でもいいや、知ってる場所に行きてぇ」
「私は囚人だから帰る場所は牢獄になるけど、居心地の良い場所では無かったわね」
「居心地良くてたまるか!!」
「そういえば……翔矢様はどうやって東京に来たのですか?」
「前にユリアさんに貰った鍵を使ったんだ」
「なるほど、わたくしとグミ様も、ユリア様に頼んで東京に来たのですが……」
「インスタントゲートは1回使うと24時間は使えないのよねぇ」
「この場所に連れて来やがったドクターとも連絡は着かん……謹慎を伸ばさなければ」
今ある装備で、ここから出る事は不可能なのかと頭を抱えていると、玲奈が離れた場所から呼んでいる。
「玲奈さん、これまた見当たらないと思ったらどうしたんですか?」
「えっと……ここに来たメンバーは全員揃ってるわね?」
「サクラ達はいなくなりましたけど、まぁ全員いるかと」
「今回入れ替わり激しかったですもんね」
「何かメタい発言な気がするけど置いておくわ……この中を見てちょうだい」
指さした洞窟の中は、何の変哲も無い採石場の一部という雰囲気、しかし中はやたらと長い気がする。
腰が辛い体勢ながらも進んでいくと、やがて光りが見え始めた。
外に出ると、翔矢にも見覚えのある場所にたどり着いた。
「ここって……北風エネルギー……の六香穂支部か?」
「以前に入ったザ・ホール? 何カ所にも繋がっているという事でしょうか?」
謎はただただ膨らむばかり、しかしまずは見覚えのある場所に帰って来れた事に安堵するのだった。
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