257話:片付けからデザートが始まりそうです(改稿予定有ります)
焼き芋パーティを終え、翔矢達は満腹で採石場に横になっていた。
今日一日の疲れもあってか、眠りにはついていないものの、リラックスしきっており、立ち上がる気力は無かった。
「あぁ~あわよくば逃げ出そうとも思ったんだけど、すっかりペースに乗せられてしまったわ」
中でも1番リラックスしているのは、脱獄犯であるはずのルーシィだった。
数千年ぶりのまともな食事と言っていたので、本当に食事を楽しんでしまったようだ。
彼女の食事ぶりは、この場の全員が目撃しているが、今の様子を演技だと疑う者はいない。
「腹が落ち着いたら片づけるんだから、ルーシィさんも手伝えよ?」
「はぁい」
この気の抜けた返事を聞くと、先ほど大魔王へ姿を変え戦っていた相手とは思えない。
アレに関しては、ルーシィ本人も良く分かっていない様だったが。
「翔矢様、わたくしはお腹が落ち着いたので、片付けをしておりますね」
「あっありがとう、俺もあと数分で動けるようになると思う」
「急がなくても大丈夫ですので」
散乱している新聞紙などをゴミ袋に詰めるペネムエ。
ふと足下を見ると、何やら黒い物体が転がっていた。
「何でしょうか?」
見覚えがある気はするのだがピンと来ない。
恐る恐る触れてみると、モフモフとした感触が手を包み込んだ。
「ニャーーーーー」
「グッグミ様!? 何をしたのですか?」
首を摘まみ持ち上げると、力なくビローンと伸びるグミ。
そのまま数秒放置していると、カッと目を開き人型へ姿を変えた。
「すまにゃいすまニャイ、猫舌なもんで焼き芋から逃げようと身を潜めていたら、そのままうたた寝しちゃったニャ」
「別に無理矢理食べさせたりなんてしませんよ?」
「あはは、危険に近づかないのも動物の本能だからニャー」
ここでようやく腹が落ち着いたのか、翔矢がゴミを集めながら2人の元へやってくる。
「こんな事もあろうかと……思ってた訳じゃないけど、冷めた焼き芋なら何個か余ってるぞ?」
「焼き芋はアツアツが美味しいもんニャ!!」
「お前、結構わがままだよな?」
「猫は気まぐれなもんでニャ」
口ではそう言いつつも何とか出来ないかと考え込む翔矢。
ペネムエと目が合うと、頭の上で電球が点ったような表情を浮かべた。
「そうだ!! ペネちゃん、ちょっと力を貸して?」
「はい?」
2人が岩盤の陰でコソコソすること10分少々、お盆とグラスを持って戻ってきた。
「これは?」
「余った焼き芋をジェラートにしてみたんだ」
「おぉ!! アツアツより美味しく食べられるニャ!!」
グミは目にも止まらぬ早さでグラスを取り食べ始めている。
頭がキーンとしたような表情も浮かべたが、それでも手を止める事は無い。
「思い付きだったけど気に入ってもらえて良かったぜ」
蓮と鈴、それに玲奈、アルネブ、ルーシィも手に取り同時にパクリ。
すると、一斉にキーンと来た表情を見せる。
「やはりブリューナクの冷気は、食品を加工するには低すぎたのでしょうか?」
「いや、シャーベットなんてこれくらいが……丁度良いと思うよ?」
氷に耐性のあるペネムエは平然と口に運んでいるが、翔矢は頭を抱え彼女の横でしゃがみ混んでいる。
「ニャーは焼き芋食べなかったけど、お前らさっきまで腹抱えて動けなくなってなかったか?」
その問いには、全員が声を揃え「別腹」と返事をした。
それから2度目の片付けを終えると、ペネムエはある事に気がついた。
「そういえば、どうやって帰れば良いのでしょう?」
この採石場は、ドクターに無理矢理連れて来られた場所。
帰る方法どころか、何処なのかも分からない。
「蓮、ドクターに連絡は?」
「予想通り着かないな」
「まぁサツマイモ貰えたんだし日本だろ?
場所くらいなら簡単に調べれるさ」
翔矢は地図アプリを開くと画面を見たまま固まってしまった。
「翔矢様、六香穂か東京に戻れそうですか?」
「うーん“グンマー”って出たんだけどどこ?」
「グンマー? 聞かん地名だな」
「サツマイモなら鹿児島かと思ったけど、割とどこでも造ってるからなぁ」
手詰まりとなった一行は、これ以上世話になるのは気が引けたが、玲奈がサツマイモを貰ったという畑まで戻る事にした。
しかし、すでにお婆さんの姿は無く、民家も見当たらない。
「……どうしよう?」
「お主!! マスターが困っておろうが!!
天使なら、何かないのか?」
「ちょちょっと!?」
ペネムエの魔法のポーチに手を突っ込み漁り出すアルネブ。
未来の世界の猫型ロボットのように色々なモノが出てくるがめぼしいモノは見当たらない。 それでも漁り続ける彼女の手が何かに当たると、感電したように体を痙攣させ、そのまま倒れてしまった。
「アルネブ、大丈夫か?」
「マスターしっ心配には及びません……が剣の鞘をに触れた後に何やら衝撃が」
「鞘? ペネちゃん剣なんて持ってた? しかもそんな危ないのリールじゃあるまいし」
「悪かったわね!! 片づけてる間に火は収まったし大丈夫よ!! ……たぶん」
そんな会話をしている間に、ペネムエはポーチから、原因となった剣を取り出した。
「わたくしが持っている剣……コレですかね?」
取り出したのは、ボロボロの剣、翔矢の目には危険な代物には見えなかった。
「そっそれは……聖剣では無いか!? 魔法が無いというこの世界に何故聖剣が!?」
アルネブはガタガタと震えながら翔矢の後ろへ身を隠した。
「聖剣って……選ばれた勇者が抜いて魔王を倒す的な?」
「はい、基本は人間の武器で天使でも手にする機会はないので、魔王が触れると拒絶するような仕様だとは知りませんでしたが……」
「って事は、俺が選ばれれば力になってくれるのかな?」
「それ以上強くなってどうするニャ?」
グミの言葉を聞いてか聞かずか、翔矢は聖剣を手に取り鞘を抜いた。
その動作1つ1つに注目が集まり、空気もピリピリと緊張感が走る。
「せいや!! ってアレ?」
聖剣は錆びてボロボロのまま、力が発揮出来ないのは明らかだ。
「翔矢様なら選ばれると思いましたのに」
「宮本翔矢にはベルゼブラスターとやらがある、剣2本など扱えんだろ?」
「まぁそうなんだけど、モノは試しって言うじゃん?」
とはいえこの場の大半の者は翔矢が聖剣に選ばれると思っていた。
「単純な剣の扱いなら蓮の方が上よ、この世界を救う為の聖剣なら蓮の方が選ばれるに相応しいわ」
「物は試しって言うしな」
翔矢が意地悪な表情で聖剣を手渡そうとすると、聖剣が神々しく光り出す。
「おっ? 時間差で選ばれたか?」
「流石はマスターじゃ!!」
「やっぱり翔矢様ですよね!!」
再び期待を背負った翔矢だったが、聖剣がプルプルと震え出す。
とてつもなく嫌な予感がし、放り投げるように手を離してしまった。
だが聖剣は宙に浮いたまま制止している。
「あれ?」
「聖剣の力でしょうか?」
「ちょっと地味じゃね?」
話しながら目を反らした一瞬の間に聖剣の刃が翔矢にクルリと向く。
「あ……」
先ほどの嫌な予感の正体に気がついた翔矢は聖剣に背を向け一目散に逃げ出した。
「マスター? って何で我までーーーー!?」
聖剣に追い回される2人を、他の面々は訳が分からず呆然と見つめるのだった。
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