256話:焼き芋から動向が始まりそうです
リールが天界で手に入れたという魔剣閻魔。
黒く禍々しく燃えるそれを翔矢達は円のように囲んでいた。
「リール、こんな恐ろしいモノ、よく平気で持ち歩いてましたね」
「どっかの世界で人間同士の争いの種になったみたいで天界で回収したらしいんだけど、保管も危険だし誰かが持ち歩くのが無難ってなったみたいなの。
それで私くらいしか頼める天使がいないって言われたのよね!!」
リールは誇らしげに胸を張っている。
「それって押しつけられただけ……」
翔矢の言葉が彼女に届く前に、ペネムエはその口を塞いだ。
戸惑う彼に、そっと耳打ちをする。
「翔矢様、シーでございます」
「……だな」
今もなお誇らしげなリールの笑顔に、翔矢は真実を伝えるべきではないと察した。
すると、どこかに捌けていた玲奈が、岩盤の陰からヒョッコリと顔を出す。
「お待たせぇ」
その手には巨大な籠と、溢れんばかりのサツマイモが抱えられている。
「玲奈さん、さっきも焼き芋出してましたけど一体どこから?」
「そこを下った所がちょうど畑でね、農家のお婆さんが持ってきなさいってくれたのよ」
「ありがてぇぜ」
籠の中には新聞紙も大量に入っていた。
翔矢はおもむろにサツマイモを包み、炎を放つ閻魔に放り投げた。
「翔矢様……」
「あれ? ダメだった? さっき玲奈さんがやってたの真似してみたんだけど」
玲奈は、何処からともなくトンガを取り出し、サツマイモを取り出す。
その瞬間、無残にも消し炭となり砕け散ってしまった。
「ほらね、これだけの火力だもの、直接放り投げるのは良くないわよ。
あと新聞紙の上からアルミホイルでも巻かないと」
「小学校の頃にやったっきりなもんで」
玲奈の指導の下、各々がサツマイモを巻き、閻魔の近くへ置く。
「火に直接入れないんすか?」
「これだけの高温だからね、普通の焼き芋と同じ感覚で焼いてたら、さっきの翔矢君の二の舞よ」
「あぁ……」
翔矢の足下には自身が消し炭にした焼き芋の灰が散らばっている。
無言のまま数分が経過すると、辺りに食欲をそそる匂いが広がってきた。
「おぉ腹減って来たな」
「焼き芋など久しぶりだ」
「私は……小学校の時やったから4年ぶりくらいかな」
和やかな雰囲気だが、ここは大魔王デモンとの戦闘の跡地、クレーターは至る所にある。
そんな状況などお構いなしに、翔矢だけで無く、異世界に事態には厳しい目を向ける蓮と鈴も目を輝かせていた。
「リール、わたくしたちも頂きましょう!!」
「うん……人間の文化の調査も天使の立派な任務だものね」
「なんだか元気が無いですね? 火傷のダメージが深刻だったでしょうか?」
「そんなんじゃないわよ」
リールは誤魔化すように焼き芋を手に取り新聞紙を破くなりかぶりついた。
「あっつい……けどホクホクで美味しいわ!!」
バクバクと食べながら、その視界には閻魔が写った。
(ある世界では人間同士の争いの火種になった兵器が調理器具に……
でも1番恐ろしいのは……)
「マスター、妾も頂いて良いかのぉ?」
「おぉ食え食え!! 食べ方分かるか?」
「ハネル大陸にも似たような料理はあります故」
アルネブはふぅふぅと焼き芋を冷ましながら頬張った。
彼女の表情筋は、一瞬で緩み、魔王としての威厳は更に薄まっている。
(あの子、異世界の魔王なのよね? それ手なずける翔矢って何なのよ?)
「リールちゃんだったっけ? 早く食べないと無くなっちゃうわよ?」
「あっまだ食べ……ってなにやってんのよ!?」
リールの隣で焼き芋をバクバク食べていたのはルーシィだった。
彼女は縛られていたハズだが、何事もなかったかのように振る舞っている。
「数千年ぶりの、まともな食事だもん、多めに見なさいよ」
「遠慮はしなさいよぉ!!」
リールが隣で騒ぎ立てても聞く耳持たずとばかりに焼き芋を食べ続けるルーシィに、ため息を吐くしかなかった。
「数千年ぶりって、投獄中は何を食べてたんすか?」
「翔矢も、普通に談笑するんじゃないわよ!!」
「天使は実態の無い魂だから、食べなくても死にはしないの。
まぁ著しく調子を崩したりはするけどね」
「へぇ」
翔矢はふと、天使は人間の10分の1の速度で成長するという話しを思い出した。
となれば数千年も生きているのは妙だが、その疑問は口に出さず、焼き芋パーティはその後も続いた。
***
その頃、近くの畑では老婆がサツマイモの収穫作業をしていた。
「ふぅ、何とか誤魔化せたみたいね」
日よけの麦わら帽子を脱ぎ捨て、顔の皮をベリベリと剥ぐと、老婆は天童ユリアへ姿を変えた。
玲奈に焼き芋を渡したのは、彼女だったのだ。
「ふぅ翔矢君や蓮さんならともかく、玲奈さんを誤魔化せるとは思わなかったわ。
隕石とか降ったのに、平然と農作業してたり、おかしい所は沢山あったと思うんだけど。
今回は人がいっぱいいたし、私が居なくなった事にも気がついてないみたいね」
服も着替え、老婆の面影が完全に消えると、胸の谷間からペンダントを取り出した。
「で? 当然説明はあるのよねえ? デモン様?」
『あはは、ユリアこんな沢山のサツマイモ、勝手に配ってよかったのかい?』
「……誤魔化さないで!!」
『怖い怖い、いいだろ? 一時的とはいえ君の肉体から妹のサヤは分離できたんだ。
宮本翔矢との戦闘が無ければ、あのままだったかもねぇ』
「サヤは無事なんでしょうね?」
ユリアの表情は、今までに無い険しさを見せる。
『それは君の方が分かってるだろう?
サヤは君の肉体に戻っていったんだから』
「……魔法が使えない世界での戦いだったとはいえ、翔矢君にも負けるなんて、本当に天界を滅亡出来るんでしょうね?」
『約束するよ、好奇心に負けてで無駄にエネルギーは使ってしまったけど、収穫は大きかった、あのルーシィという天使、とっくに死んでると思った僕の昔の知り合いと同一人物だ』
「大天界祭……楽しみにしてるわ(私にも協力者が出来たしね)」
ユリアは思いを巡らせながらサツマイモ畑の小屋に視線を送る。
そこには北風エネルギーのドクターのサインの入ったパソコンが置かれていた。
***
同時刻、ルーシィ・ザ・ワールドのラナンキュラス・バーベナ・シトラス・トレニア・サクラの5人は、巨大な地下迷宮に来ていた。
「せっかく翔矢君と一緒だったのに……また迷子になってしまったのね」
サクラは大きく肩を落としていた。
「しかし我らルーシィ・ザ・ワールド5大臣が集まるとは、まさに運命」
「私は分かっていたは、これを手にした時から」
シトラスは、ポケットから矢の先端の様なモノを取り出す。
「それなんですの?」
「バーベナ様には見せて無かったもんね、何処かにある何かの鍵よ」
「鍵なんて必用でしたのね、後は本体を見つければいいのかしら?」
「サクラちゃんだの何だの捜し物ばかり、面倒だから、もう寝たい辞めたい!!」
トレニアは大あくびをしながら、布団を取り出し寝る準備を始めた。
「トレニア、こんな地下で寝たら体冷やしますわよ?」
「人は日光を浴び目を覚ますという、つまり日が当たらない地下で寝れば永遠に寝ていられる」
「いや、そうはならないと思いますわ!?」
彼女達にとっては日常のたわいも無い会話。
しかしラナンキュラスは深刻な顔で、ゆっくりと数歩進む。
だが目の前には、ただ大きな岩盤が道を塞いでいるだけだった。
「トレニアよ、休むならばこの中にしておけ」
ラナンキュラスが手で岩盤を撫でると、グォンと巨大な機械が稼働するような音が聞こえ、直後に立っていられなくなるような地響きが発生する。
「何ですの!?」
地響きはすぐに止んだが、目の前の岩盤が大きく崩れ始めた。
「お爺ちゃん、また厄災の権能?」
「迷子ばかりの私が言えた事じゃ無いけど、人を巻き込まないでよ!!」
「私はこうなることが分かっていたわ、今回はお爺ちゃんの権能のせいじゃない」
岩盤から崩れ、現れた巨大な物体に、一同は唖然とした。
「こっこれは……!?」
「私は少し前から知っていた、これが何処かにある何かの正体。
この世界の人間は“宇宙船”って呼ぶらしいわ」
シトラスを先頭に、5人はその中へと歩みを進めるのだった。
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