251話:包囲から交代が始まりそうです
翔矢達の前に現れたルーシィ、睨み合いが続く中、沈黙を破ったのは蓮だった。
「その質問、そのまま返そう、お前は俺達……いや、この世界の敵か?」
「さぁ? 来たばかりだし決めてないわ」
「天界から脱獄したと聞いたが目的は何だ?」
「時が来たから“大天界祭”が近いからね」
ルーシィの口から聞き慣れないワードが出ると、説明を求めるように、ペネムエに視線が集まる。
「天界祭とは40年に1度、様々な世界の人間を天界に集め行われる大規模な催しです。」
「え? 世界の移動って天使と悪魔以外は死なないと無理なんじゃないの?」
「翔矢様の仰る通りです、しかし天界は世界でないのです」
「どゆこと?」
翔矢だけでなく、蓮や鈴、それにバーベナとトレニアまでもが、首を傾げる。
「世界と世界は魂のみが通れる道、ゲートで繋がっています。
隣り合っている世界同士は、ゲートが開いていれば行き来が可能です。
しかし離れた世界通しは、世界を経由して移動する必要があります」
「あぁ電車とかの乗り継ぎ的な!!」
その解釈にペネムエは微笑みながら頷いた。
「世界同士のつながりとは、そんな物理的なモノだったのか?」
「魂のみが通れるゲートを、物理的と言って良いか分かりませんが……
この世界の方々に説明すると、そういうイメージになりますね」
蓮の疑問に答えると、そのまま話を続ける。
「その数多のゲートが交わる交点を先代の天使達が開拓したのが天界です。
そして今年の天界祭は、大天界祭とも呼ばれる特別な年。
全てのゲートが同時に開く年になります」
「それって……全部の世界から天界に人間が集まるって事?」
ペネムエが静かに頷いたタイミングで、ルーシィは大あくびをした。
「はい、銀髪天使ちゃん説明ありがとね」
「しかし大天界祭と、あなたの脱獄が結びつきません」
「天界でやる祭りで何か企むなら、天界にいればいいしな」
「牢屋に何千年いたと思っているの?
力も実戦経験も衰えたわよ、その腕試しにね。
まぁ魔法が使えないノーマジカルに着いちゃったから、腕試しは出来そうにないけど……収穫はあったわ」
今まで話を大人しく聞いていた蓮と鈴が、ここで数歩前に出る。
「おい銀髪天使、こいつは囚人だと言ったな?
何をして捕まったんだ?」
「……1つの世界の住人を、全員他の世界に送ったと伝え聞いております」
それはルーシイが、大勢という言葉では足りないほどの犠牲を出したことを意味する。
「なるほど……話す余地はなさそうだ」
蓮はソルを、鈴はクラッシュダマーを構え、ルーシィに襲いかかる。
「ちょい……それ明らかにノーマジカルに存在していい武器じゃないわね」
2人の武器に驚いたモノの、ルーシィは左手に持つ水晶玉を見つめながら後ろに飛び、攻撃を回避した。
それに一番驚いたのは、バーベナとトレニアだった。
「トレニア、今の気がつきまして?」
「うん、考えるの面倒だけど、あれシトラスちゃんと同じ動きだね、占い担当大臣の」
戦いが起こっているこの場で、その会話は他の者に聞こえている様子はない。
「ペネちゃん、どうする?」
「分からないことだらけですが、加勢するしかなさそうです」
「黙っててもどうしようもないし、私も手伝うわ」
「依頼は翔矢を探すってとこまでだけど、放ってはおけないニャ」
玲奈とグミも前に出たが、ペネムエは左手を伸ばし、それを制止した。
「お待ちください、狭い場で1人を相手に大勢で戦っても動きにくくなるだけです。
お二人はユリア様と一緒に、囚人の方々の安全を確保しつつ、万が一の為のバックアップをお願いします」
2人は戦況を一目見て確認すると、奥に隠れていたユリアと合流し走り出していった。
「では翔矢様、参りましょう!!」
「うん、さすがに4対1で魔法使えなくて戸惑ってる相手なら大丈夫だろ!!」
「翔矢様……妙なフラグ立てないで下さいよ」
「あははゴメン」
少し気の抜けた話をしていると、交戦中の蓮と鈴が、後ろ飛びで攻撃を回避しながら2人の元へ寄ってきた。
「おいっ!!」
「戦う気が無いなら、何処かに行って頂戴」
「あはは……」
「誠にゴメンなさい」
一応の謝罪をした後、2人揃って頬をパンと叩き気合いを入れた。
「今度こそ行きますか……最初から全力で!!」
【コネクトリニティ】
翔矢の服装が替わり、赤青銀からなるマントが彼の身を包む。
「ほう……大魔王マモンの遺産がこんなにも、相変わらず誰にでも力を与える男だ」
「知ってるの? じゃあこういうのはどう?
来い!! ベルゼブラスター!!」
何処からともなく飛んでくるベルゼブラスターの持ち手を掴み、そのままルーシィへ斬りかかる。
「それは中々に“面倒”な力ね」
相変わらず水晶を一点に見つめる彼女は、攻撃の軌道を知っていたかのように回避する。
「ちくしょう、何で当たらないんだよ」
苛立ちを見せながらも武器を振るが、結果は変わらず、それどころか攻撃が乱雑になっていく。
「選手交代です、この狭い場所では翔矢様の力は生かし切れません」
「面目ねぇ」
翔矢が後ろの下がり、ペネムエがブリューナクを構える。
「せっかく4人いるんだし、まとめて相手しても良いんだけど?」
「一斉に戦うのが必ずしも有利とは限りません、戦闘スタイルによって同士討ちのリスクも高まりますからね」
「あら賢い、やりにくいわね」
「大先輩から、お褒めに預かり光栄です」
言葉を言い終えると同時にペネムエはブリューナクを振るう。
無数に生み出された氷柱は、軌道が読めたとしても、全てを回避するのは不可能だった。
「くっ神器ブリューナク、英雄アリスの武器と記憶していたけど時代は変わったのね」
「前の使用者アリス様は200年ほど前の人物と記憶しています。
何千年も収監されていた、あなたとは、どの道時代が合わないはずですが?」
「そう、でも知っているわ、言われてみると、あなたアリスに似ているわね」
「……かもしれませんね」
ペネムエは少し悲しそうな表情をすると、今度は吹雪を生み出す。
ルーシィは、その勢いに目が開けられなくなり、手で顔を覆った。
やがて吹雪がやみ、手を戻そうとすると、何かに引っ張られているような感触を覚える。
「これは……蔓?」
「油断したのぉ、貴様はさっき“4人がかり”と言った、だが我は戦略的に隠れておったのだ!!」
牢の中からヒョッコリと姿を現すアルネブ、しかしルーシィが一睨みすると、冷や汗を流し隠れてしまう。
「この女、マスターと同じくらい恐ろしくて敵わん、押さえとるので早う対治してくれ!!」
「アルネブ、サンキュー!!」
「アルネブ様……魔王と思えぬ臆病さでございますね」
「異世界の魔王まで、この世界にいるなんてね、まぁ私やあなたが恐怖の対象なのは仕方ないと思うけど」
「どういう意味だ?」
その翔矢の質問が、ルーシィの耳に届く前に、蓮は彼女の首元にソルの刃を突きつけ、鈴もクラッシュダマーを向けていた。
「5対1は、流石に厳しかったかぁ」
拘束されながらも降伏したように両手を挙げるルーシィ。
それでも油断できない何かを感じ取り、翔矢とペネムエも彼女に武器を向ける。
「信用されてないわね、でも警戒は大事。
降参してるのは“私”だけだから」
「仲間がいるのか!?」
警戒を強め、蓮は辺りを見渡す。
特に誰かが潜んでいる様子は無かった。
ハッタリかと視線をルーシィに戻すと、彼女の体は闇に包まれ姿を変えた。
「お前は……」
一同は唖然とする、そこにいたのは転生教を能力者へと変えた双葉サヤだった。
彼女の浮かべた笑みは、ただただ不気味に映る。
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