247話:変身から拘束が始まりそうです
異世界ハネル大陸の魔王を名乗るアルネブによる奇襲。
ペネムエと鈴は為す術もなく吹き飛ばされ、意識はあるものの、体に痛みを感じ、起き上がる事が出来ない。
戦闘能力を持たないユリアは、2人を気にかけながらも、戦いをグミに任せ柱の陰に隠れていた。
「異世界の魔王が、どうしてノーマジカルにいるのよ!?」
恐る恐る様子を見ると、グミとアルネブは拳と剣を合わせながら互角の勝負を繰り広げていた。
「いやいや、おかしいでしょ、いや助かるんだけど何で生身で剣と渡り合ってるのよ、あの子は!?」
今は互角だが、戦いが長引けば、剣を持つアルネブが優位に立つだろうとユリアは見ていた。
「こうなったら……魔王相手なら大魔王よ!! デモン様、お願いします!!」
ユリアは胸から黒く禍々しい石を取り出しそれに声をかけた。
しかし石は、ユリアの声に答えることは無かった。
「デモン様!? え? 中にいない? 今までこんなこと……」
手に持つ石は、今は禍々しく珍しいだけのただの石。
その“中”には何もいなかった。
「サヤもいないし……グミちゃんの無事を祈るしかないわね」
頭の中が考え事で、グチャグチャとしているユリアは、隣に立つ者の気配に気がつかなかった。
「ユリア様、独りでブツブツとどうなさいました?」
「がーーーーっはぁぁぁペネムエちゃん!? いつからそこに?」
「そこまで驚きませんでも……今し方です、あの2人の戦いに割って入れそうもありませんので……」
2人は目にも止まらぬ速度で衝突を続けている。
「巻き込まれて1発でも食らったら、命は無いわね」
「すすっ鈴ちゃんも無事だったのね、いつからそこに?」
「今さっきよ、吹っ飛ばされた程度だったし、もう平気だけどど、念のためあいつに見つからないように、コッソリ移動して来たの」
「あはは、吹っ飛ばされた程度って……2人とも無事で良かったぁ~」
胸に手を当てため息を吐くユリア。
彼女が安心した理由が他にある事を、2人は知る由も無い。
「しかし参りました、あのアルネブという者、恐るべき剣技です」
「グミがいくら強くても、拳と剣、いつかは押し巻けてしまうわ」
「私は明らかに戦力外だし、上で待ってようかなぁ……」
「奴の仲間が潜んでいるかもしれませんよ?」
「魔王と言えば四天王とかだしね」
ソロリソロリとエレベーターへ戻ろうとしていたユリアだったが、その足をピタリと止めて引き返してきた。
「でもでも、ここでジッと見てても仕方ないでしょ?」
「隙をみて、一撃を入れようかとは思っているのですが……」
「私のクラッシュダマーも、遠距離攻撃には向いているわ」
高速で戦い続ける2人の様子を、今は伺うしかなかった。
「なかなかの身のこなし、貴様、ただの人間ではないな?」
「悪魔族だからニャ、ただの人間どころか人間ですらないのニャ」
「悪魔族? 見聞きしたことはあるが、我が世界にはおらんかったな。
どれ、魔法を使えぬ状況にも慣れて来たところだ、本腰を入れるとしよう」
今までと比べものにいならない一撃がグミを襲い、両手をクロスさせ防いだが、そのまま後ろに押され、仰け反ってしまった。
「ニャーも魔王とか言うのとタイマンは初めてだニャ。
でも今までは、殺す訳にはいかない相手ばっかだったからニャ。
こっちも本腰入れさせてもらう……ニャッ!!」
目にもとまらぬ回し蹴りが、アルネブの眼前に迫る。
少し焦りを見せたが、剣を盾の代わりにし、直撃は防がれてしまった。
「おいおい、今のを防げるのニャ……」
「頭にでも当たれば即死か、悪魔族とは恐ろしいものだ」
短い会話を終えた途端、アルネブの剣はパリンと音を立て砕け散った。
「なにっ!?」
「勝負あったニャ、トドメニャ!!」
【奥義:獅子王・百打ノ型】
黒猫の姿での高速移動と、人間の姿での打撃を目にも止まらぬ速度で繰り返すグミの必殺技。
剣を破壊された動揺も重なったからか、アルネブは何も反応が出来ずに攻撃を受け、膝から崩れ落ちてしまった。
「かはっ……」
「勝負あったニャ、一応魔王なら命取っても問題ないだろうけど、気は進まないのニャ。
とっとと尻尾巻いて逃げるニャ」
「尻尾を巻くのは、猫娘のお前の方だろう?」
「何だ、結構余裕あるのニャ」
アルネブは声は弱々しいながらもヨロヨロと立ち上がった、しかし今までのような戦意は感じられない。
彼は砕けた剣を手に取ると、グミに背を向けた。
このまま立ち去るのかと思われた、恐らくアルネブも、そのつもりだったろう。
しかし、自信の剣が再生しているのに気がつくと、その態度と状況は一変する。
「……魔力の使えぬ世界で黒猫へ姿を変えれる悪魔族。
再生する我の剣、そういえば我を呼び出した女も珍妙な道具を使っていたな」
「何をブツブツと、こっちは戦いに来た訳じゃないのニャ。
さっさと行くニャ、しっし!!」
グミには、こちらに目を向けるアルネブに、虫を払うような仕草を見せる余裕があった。
しかし、彼から異様な気配を感じ取ると、表情が引き締まり、戦闘態勢に戻る。
「我が“この姿”の地点で気がつくべきだった、あらゆる魔法が封印されている訳ではないと」
「おーーーい、ペネムエ、鈴、出て来て手を貸すニャ!!
ヤバい気配がプンプンニャ!!」
その呼びかけに、2人は迷うことなく駆けつけた。
「グミって、こんなに強かったのね、敵じゃなくて安心したわ」
「そのグミ様が手を借りたいとおっしゃるとは……しかしお役に立てますかどうか」
「猫の手も借りたいならぬ、猫が手を借りたいのニャ」
「あっ、やっぱり余裕ありそうですね」
「暢気なこと言ってないで前を見て、いかにもって状況になっているわ」
鈴が指を指すと、アルネブは剣から吹き出す黒く禍々しい闇に覆われていた。
やがて闇が晴れると、そこに現れたのは、額に槍のような角を生やした黒く巨大なウサギだった。
「ニャニャニャ!! 魔王がウサギに変わったニャァァァァ!?」
「……ツッコミ待ちですかね?」
「でも結構かわいい、攻撃するのに気が引けるわ」
普段は好戦的な方に入る鈴だが、思わずクラッシュダマーを握る手が、下に下がってしまっていた。
「貴様らぁぁぁぁぁ!! 聞いていればお気楽にしよってぇ!! この姿になるのは久しいのでな、手加減はできぬぞ!!」
ウサギとなったアルネブの足下から、黒い木々や草が生い茂りはじめた。
「これは……いけません!!」
ペネムエはブリューナクを振るい、その木々を一瞬のうちに凍らせる。
「これに触れたら最後、生命力を吸われ続けます、お二人とも注意してくださいませ」
「この世界で魔法は使えないんじゃなかったの!?」
「さっきの口ぶりからして、ニャーの変身みたいに、体の一部が魔法の道具の代わりになってるとかかニャー?」
「とはいえ氷タイプのペネムエがいれば草タイプには一致抜群が取れるわ」
「何の話ニャ?」
「変な草は封じられるんだから、こっちのもの!!」
鈴は凍った床を滑るようにして高速で進み、アルネブの眼前にまで迫る。
「気は引けるけど……能力はヤバそうだから、さっさと決めさせてもらうわ!!」
そのまま大ジャンプを決め、クラッシュダマーを巨大化させ額の角めがけて大きく振るう。
「その心意気は好し」
次の瞬間、凍り付いた床や壁の中から木々が貫通して現れ、鈴の四肢を拘束した。
「しまっ……」
言葉を発する間もなく力を奪われる鈴。
視線を下に向けると、ペネムエとグミも、同じく木々に拘束されているのだった。
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