246話:到着から落下が始まりそうです
翔矢はサクラとリールと別れ、無事にユリアの部屋のクローゼットに到着した。
「あれ? クローゼットの扉が開いてる、服もハンガーから落ちてるな……」
クローゼットと部屋を観察すると、部屋全体が前に来たときよりも散らかっているのが一目で分かった。
「うーん? 誰か部屋に来たのか? 玄関に行くまでに散乱してるモノのが踏まれて道が出来てるて……ユリアさん1人で慌てて外に出ましたって感じではないな」
無意識に片づけたくなる程に散らかった部屋、床に一際目立つ淡いピンク色の何かが落ちており引き寄せれれるように手に取ってしまった。
その正体が分かった瞬間、翔矢は顔を真っ赤に染める。
「俺は人の部屋で何をやっているんだ……ユリアさんごめんなさい」
翔矢は逃げるように外に飛び出し、北風エネルギー本社を目指す事にした。
「って言っても、俺行ったことないんだよなぁ」
足を止める事なくスマホで地図を見てみると、ルート案内が始まったので、そのまま向かうことにした。
先ほどユリアの部屋で手にしたモノを思い出すと、ここから歩いて行けるのか、どれくらいの距離かなど、気にすることもなく走る事が出来た。
どれくらい全力で走ったのかは本人にも分からない、ゾーンから抜け、ようやく疲労を自覚し始めたその時だった。
『ルート案内を終了します』
そのアナウンスを聞くなり翔矢の表情は達成感と優越感が滲み出ていた。
「ヨッシャーーーー!! サクラの権能にさえ巻き込まれなければ、東京だろうとこんなもんよぉ!!」
自分が調子に乗っている事を自覚しながらも、翔矢は建物の看板で、間違いなく北風エネルギー本社であるのを確認し中に突入した。
「勝手に入ってよかったのかな? そういや爆発事故ってニュースでやってたのに消防車の一台もいない……どうなってるんだ?」
この場に誰もいないので、これは答えの返ってくる事を気にしない独り言。
しかし、どこからかそれに答える声が響いた。
『そりゃあ、私が根回ししたからだよ、本社に部外者が入って調査なんて困るからねぇ』
「その声はドクターのおっさんか? 今どこだ?」
『おっ私の声が聞こえている反応だねぇ、助かった、しかしマイクがやられたのかそっちの声は聞こえたり聞こえなかったりだ、悪いけど受付にメモ用紙があるから、それに君のスマホの番号を書いて掲げてくれるかなぁ?』
ドクターに不信感はあるが、今は他に誰も頼れないので、指示に従いメモ帳に大きめに自分のスマホの番号を書き、それを掲げながらエントランスを1周した。
しばらくすると、非通知の番号から電話が掛かってきた。
「もしもし、謹慎中って聞いてるんだけど、会社のカメラをハッキングとかしていいのか?」
「ハハハハ、一言目から厳しいじゃあないか、もちろんハッキングなんて行為は謹慎中じゃなくてもダメだよ?」
「少しは悪びれろよ!!」
「非常時だから多めにみてくれたまえ、それにそんな事を話している余裕はないよ?」
「あぁ、ここは平気みたいだけど、会社を爆破されたんだってな」
「それなら、爆破したのは私だよ?」
「……はっ!?」
翔矢の頭の中は、真っ白になった。
「マッドサイエンティストだとは思ってたけど、とうとう自分の勤め先をやったのか……」
「ちょいちょい!! 誤解だよ誤解!! 実はウンヌンカンヌンで~」
「バーベナってサクラは戦闘能力は無いって言ってたけどな」
「君や鈴君と同じ大魔王のマモンキューブを覚醒させたようでね、それで異世界の魔王を名乗るアルネブとかいうのを呼び出したんだ、例のごとく魔法は使えないようだが剣技で蓮を圧倒していたよ」
「蓮のおっさんを剣だけで圧倒ってヤバいな」
「そうそう、そんな意味の分からない奴らだ、血涙を流して味方ごと爆破するしかないだろぅ?」
「それはない!! とりあえず俺を地下に案内しろ」
「言われなくても、そのつもりだよぉ、と言っても地下へのエレベーターは今は塞がっているのさ」
「じゃあ、どうするんだよ?」
「こんな事もあろうかと、私しか知らない地下へ続く通路がある、一度会社の外に出てくれたまえ」
「何で企業のビルに、あんたしか知らない通路があるんだよ!?」
ドクターへの不信感は、相変わらず高止まりだが、その指示に従う他ない。
ビルの敷地から出て少しだけ歩くと、緑色の電話の入ったガラス張りの箱があった。
「これ何!?」
「ヘイヘイ、電話ボックスをご存じない? まぁいい……受話器を取って『666』と入力してくれたまえ」
「えっと、こうか? ……ん?」
翔矢が入力を終えた途端、電話ボックスの床が抜け、そのまま静かに垂直落下してしまった。
***
翔矢がそんな事になっているとは知らず、ペネムエ・ユリア・鈴・グミは、本社の地下を慎重に進んでいた。
「大企業って、ずいぶんと散らかっているんだニャー」
「そんな訳ないでしょう、誰かにやられたのよ」
「確か、転生教の信者達が収容されているのですよね?
皆様ご無事なのでしょうか?」
「ここの牢は、ドクターの研究もかねて特殊な加工をされているわ、中にいる限りは平気だと思う」
ペネムエがチラリと牢を覗き込むと、元転生教信者達は、ここで爆発があったとは思えないほど、無気力で廃人のようだった。
「元々、この世界を捨てて異世界に行くことを目的にしていた奴らよ。
教祖に裏切られていた訳だし、その可能性も閉ざされ、あの事件以来みんなこんな感じよ」
その言葉にペネムエは少し複雑で、心に刺さるモノがあった。
「異世界転生を信じて活動してたって事は、そういうアニメを見てた子達よね?
私が歌でも披露すれば、元気になってくれるかな?」
「ユリア様、わたくしも彼らがこのままで良いとは思いませんが、今はそれどころじゃないかと」
「2人とも甘いニャー、異世界に行きたいだけならともかく、事件のどさくさで好き放題やってた奴らニャ、悠ニャも巻き込まれたし同情の余地ないニャー」
囚人達の様子を確認しながら、奥へと進むにつれ段々と、瓦礫や天井が崩れているのが目立ってきた。
「これは酷いですね……」
「崩れたりしないわよねぇ?」
ユリアは建物の壁や柱をノックするように叩き始めた。
その姿を見たペネムエとグミは顔色を変えて、彼女に飛びかかった。
「ユリア様!! なんという命知らずな事を!! 建物が倒壊したらどうするんですか!?」
「そうニャそうニャ!!」
「ちょっちょっとぉ!!」
まるで食い逃げの犯人のように取り押さえられるユリア。
2人の目が、本気のそれなので、恐怖を感じ思わずジタバタと暴れてしまう。
この場で冷静なのは鈴だけだった。
「いや全員落ち着いて……上層階が何ともなかったんだし、これくらいは平気よ」
ここで今まで騒がしくしていた3人の動きが止まり真顔になる。
「どうしたの? 急に真顔になって?」
「静かにするニャ!!」
「いや、うるさくしていたの君たちだし……」
「そうではありません、邪悪な魔力が……近づいてきます」
「天使と人間のハーフの私でも感じるピリピリの奴がね」
この場で1人純粋な人間である鈴は、魔力を感じる事が出来ない。
しかし、後ろにとてつもない威圧感のようなモノを感じ、反射的にクラッシュダマーで身を護るように構えた。
次の瞬間、鈴の体は風圧と共に吹き飛んでしまった。
「鈴様!? ……キャッ」
何が起こったか分からず、鈴に気を取られたペネムエも同じく吹き飛んでいく。
「2人共、しっかりするニャ!!」
得体の知れない高速な攻撃に、グミだけは反応し拳を合わせる。
「天使に悪魔とは……なかなか珍妙なパーティーだな」
「お前……何者ニャ?」
「我が名はアルネブ、ハネル大陸の魔王なり」
グミの拳とアルネブの剣が、再び激しくぶつかり、戦いの火蓋が幕を開けるのだった。
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