244話:到着から連打が始まりそうです
ペネムエ、ユリア、グミの3人は15分程の全力疾走を続け、北風エネルギー本社へ到着した。
「はぁ……はぁ……ようやく到着しました」
「はぁ……はぁ……コンサートで踊ったり配信番組の企画で運動会とかやって体力には自信あったけど……全力疾走はしんどいわね」
天使といえど、その体力は人間を一回り上回る程度。
ペネムエとユリアは肩で息をしており、これから何が起こるか分からない場所へ突入するには、心許ないコンディションだ。
「あんだけ走る意味が分からんニャ」
グミも2人と同じペースで走っていたのだが、動物の力を持つ悪魔族の彼女は、息を切らす事無く平然としている。
「グミ様、体力を回復する豆とか持っていませんか?」
「私も、それ欲しい!!」
「どこの世界の代物ニャ……これから何が起こるか分からニャイのに、回復アイテムとか消費出来ないニャ」
「それはそうですね……ひっひっふー少し体力が戻りました!!」
「本当に!? それじゃあ私も……ひっひっふー確かに楽になるわ」
「いや……どういう原理ニャ、まぁ楽になったなら突入するニャ!!」
緊張感の欠片もなく、緩みきった空気の中、3人は北風エネルギー本社内部へと突入した。
「爆発事故と聞いたので、もっと大変な事態かと思いましたが、代わった様子は感じませんね」
「なーーーんにも無い会社だニャ」
「ペネムエちゃんグミちゃん、オフィスビルの1階は、だいたいエントランスとエレベーターがあるだけだから、爆発元でもない限りは、何かあっても分かりにくいと思うわ」
「流石、現地の方の意見は違いますね」
「それほどでもー」
ユリアはエレベーターのスイッチをポチポチと連打している。
「動かない、ニュースで見たから当たり前だけど、何かあったのは間違いなさそうね」
「ちょっと、こっち来るニャ!!」
エントランス内をウロウロしたグミが何かを見つけたようで、大きな声を挙げる。
ペネムエとユリアが駆けつけると、そこには鈴が倒れていた。
「鈴様!? 大丈夫ですか!!」
「うぅ……」
ペネムエが鈴の体を2、3回揺らすと、彼女は目を覚ました。
「よかった!! 立ち上がれますか?」
「ペネムエとグミだっけ? 初めましての美人さんも……ってここ東京だけど?」
「あっ私、天道ユリアって言います、一応そこそこ名の知れた声優なんだけど……知らない人の方が多いわよね」
ユリアは露骨に落ち込み、肩をガクッと落とした。
「そういえば見覚えはある」
「本当に!?」
「ドクターの資料で」
「あぁ……そっちね、まぁ私も鈴ちゃんの事は聞いてたから知ってるんだけど」
「そんな事より!! 鈴、ここで何があったニャ?」
「私も途中から1階にいたから、地下で何が起こったかは知らない」
そう前振りした上で、鈴はルーシィ・ザ・ワールドと名乗るバーベナ・トレニア・サクラを捕らえた事を話始めた。
「それで……仕事に戻って1階にいたら、地下で大きな爆発音がして、向かおうとしたら、双葉サヤに眠らされたの」
「双葉サヤ様が!?」
「確かに転生教の事件の元凶の子よニャ?」
意外な名前を耳にし驚く2人。
しかしユリアは、それとは違う驚きを感じていた。
(サヤが……!? 私はココにいるけど、どういう事!?)
恐らく鈴が、誰かと見間違えたのだろう。
そう結論付けたユリアは、自分の心の中のサヤに呼びかけた。
(あれ? 返事が……ない?)
ユリアの予測が外れた事を意味している。
そして、何か得体の知れない事が起こっている事も。
「ユリア様、どうしました? 顔色が悪いですよ?」
「えっいやぁ……走りすぎて疲れちゃったのかなぁ?
それより、そのサヤって子はどこにいったの?」
「私に一発食らわせた後、会社の地下に向かって行ったわ」
「地下に?」
ペネムエのその反応で鈴はハッとした。
二葉サヤは、北風エネルギー本社の地下が、収容所になっているとは知らないはず。
それなのに迷うことなく地下へ向かって行ったのだ。
「サヤ様の目的は分かりませんが、タイミングを考えるにニュースを見てこちらに来たようですね」
続いてペネムエは、ルーシィ・ザ・ワールドについて自分たちの持っている情報を鈴に伝えた。
「六香穂にも奴らが来ていたなんて……
ってえ? そのサクラっていう子なら、地下に収容中のハズだけど?」
「それが権能というモノなのでしょう、それで爆発事故があった地下の様子は?」
「向かう途中で双葉サヤに遭遇したから、何が起こったのかも私も知らないわ」
「サヤ……その子も事件を追ってるってとこかしらねぇ?」
ユリアは少し安心したような声色だった。
「これ以上は、地下に行かないことには話が進まないようですね」
「権能とやらで地下に翔矢も迷い込んでるかもしれないしニャ」
グミは体を伸ばすようにストレッチを始めている。
一見リラックスしてるようにしか見えないが、彼女なりに臨戦態勢に入っているのだ。
「そうね、案内するわ」
鈴はそのまま歩き出し、3人もその後に続いた。
その先の、普通に歩いては見つからないような物陰にエレベーターがポツンと設置されていた。
「アレ……?」
「動かないみたいね」
鈴が話し始めるより前に、ユリアはエレベーターのボタンを連打していた。
「他に入り口はないのですか?」
「本当に一部の社員しか知らない秘密の施設だから……」
「なんニャその災害起こったら終わりみたいな構造は」
3人が考え込んでいる間も、ユリアはボタンを連打し続けている。
「ユリア様、いくら押しても動かないかと」
「でもサヤって子は、会社から外に出ていないんでしょ?
私達が来てから、何かが壊れたみたいな音もしてないし、何とかして地位に行ったんじゃないかしら?」
「転生教に能力配ったような奴なら、地下に移動する手段があっても不思議じゃないニャ」
「それに精密機械のエレベーターそんな力業じゃ動かないわ」
「わたくし、ポーチに何か使える物がないか探してみます」
ペネムエは何処かの猫型ロボットのようにポーチから次々と魔法の道具を出し始めた。
めぼしいモノが見つからないまま辺りは散らかるばかりだったが、それを気にすることなくエレベーターのボタンを連打するユリアに変化が訪れた。
「ヨシッ!! 動いたわ」
「やってみるもんだニャ」
「途中で止まったりしないわよね?」
ペネムエが驚きフリーズしている間に、3人は次々とエレベーターに乗り込んで行く。
「ちょっと待ってくださ……」
床に散らかった魔法の道具を必死に片づけるペネムエ。
あと少しで拾い終わるかという所で『ウィーン』という機械音が耳に届いた。
「えっ?」
「ゴメンねペネムエちゃん、開くボタン押してるんだけど反応しないわ」
「まっニャー達に任せるニャ」
「ちゃんと片付けてね、そっち側にまだ残ってる」
3人が一言づつ言い終えると、計ったようにドアが閉まりエレベーターは動き始めた。
「……」
ペネムエは無言で鈴が指差した方の拾い残しを回収する。
「さて……」
その後、深呼吸しユリアのようにエレベーターのボタンを連打するのだった。
***
その頃、地下で爆発に巻き込まれた蓮と玲奈は気を失い倒れていた。
しかしハネル大陸の魔王アルネブとバーベナトレニアは、少し服や体が汚れる程度だった。
「あのドクターという男、仲間にも容赦ありませんのね」
「危うく永遠に眠らなきゃ行けない所だった。
バーベナちゃんオヤスミナサイ」
「オヤスミナサイ……じゃありませんわ!!」
いつものように眠ろうとするトレニアに気を取られるバーベナ。
そんな2人を気にも止めず、アルネブは蓮の首元に刃を向けるのだった。
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