表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
256/285

240話:演奏から魔王召喚が始まりそうです

 地下牢の中にサクラがいない事に気がついた蓮は、バーベナの首元にソルを突きつけていた。 


 

 「ピンク髪の女は、どこに行った!?」


 「サクラの権能は、あなたも見たはずですわ、彼女に関するあらゆる事象は迷子になる。

 こんな牢に閉じ込めたところで、迷子になってしまうのですわ」


 「……訳が分からんぞ」


 「妾達も、あの子の権能には手を焼いていますの、東京にいるのか日本にいるのか、この世界にいるのかも怪しいですわね」


 「……普段どうやって行動しているんだ?」

 

 「まぁ行き当たりバッタリで」

 

 

 蓮は大きな溜め息を吐きながらソルを下げた。

 

 

 「これ以上話しても無駄なようだ」

 

 「感謝いたしますわ」

 

 

 ここにいても仕方ないと、サクラを探しに行こうとした蓮だったが、背後から背筋が凍るような気配を感じ取った。

 勢いよく振り向きながら再びソルを構えると、バーベナがドス黒いオーラに包まれていた。

 

 「何事だ?」

 

 

 戦闘態勢に入りながら様子を見ていると、バーベナはオカリナの演奏を始めた。

 蓮が初めて聞いたときには感じられなかった得体の知れない気配を感じる。 

 

 

 「またオークやゴブリンか? いや時空の歪みは発生していない……

 何が起こるか分からないならば、何か起こる前に叩くまでだ!!」

 

 

 蓮は勢いよくバーベナに斬りかかった、しかしバーベナを包む闇が巨大な手へと代わり、彼の体を握り潰すように掴んだ。

 

 

 「ぐ……こいつも魔物なのか?」

 

 

 必死にもがき闇の手から脱出を図るも、抜け出せる気配はなく、それどころか掴む力はみるみる強くなっていき、ミシミシと人体から鳴るべきでない音が痛々しく響く。

 

 

 「王の降臨だ、邪魔するでない」

 

 

 声も口調もバーベナのモノに間違いはない。

 だが、この強気な態度は、今までも彼女とは別物に感じられる。

 

 

 「多重人格? いや何かに体を乗っ取られたか? いずれにせよ、あのオカリナを取り上げなかった私のミスだ……」

 

 

 考察しながら藻掻き続ける蓮だが、抜け出せる気配はなく、体から嫌な音が鳴り続ける。

 

 

 「地球の戦士とは、この程度か?」

 

 

 その問いに反応する力は、蓮には残っていなかった。

 すると、この騒ぎで今までウトウトと横になるばかりだったトレニアが、背筋を伸ばし起き上がった。

 

 

 「おぉ……バーベナ様強い!! 思わず目が覚めちゃったよ」


 「当然、性格に欠陥はありましたが、使うべき力があれば、これくらいは出来ますわ」

 

 

 闇の手から蓮が気を失ったのを察したのか、バーベナは、まるでゴミのように投げ捨ててしまう。

 

 

 「ガハッ」


 「おぉ確かに気を失ったと思ったのじゃが前言撤回、少しはやるようですわね」


 「これでも、この世界を護る為に戦っているのでな」

 

 

 武器を構える蓮だが、その息は荒く、立っているのがやっとに見え、とても戦えるような状態ではなさそうだ。

 

 

 「トレニアを見習って、少しは休んではいかが?」


 「バーベナ様、照れちゃうよ」


 「褒めてませんわ……」

 

 

 気が抜けるような2人の会話にも蓮はペースを崩さず、睨みを利かせている。

 

 

 「怖い怖い、これだから社畜は……妾の手で休ませて差し上げますわ!!」


 「文字通り、バーベナ様の手で!!」

 

 

 先ほどと違い人間の手と代わらない大きさだが、20はあるだろう闇の手が蓮を目がけて向かって来る。

 いくつかの闇の手はソルで切り裂いたが、全てに対応出来る訳もなく首を捕まれてしまった。

 

 

 「安心して下さいな、妾達の目的は、あくまで“何処かにある何か”を探し出すこと。

 よほどの邪魔をしない限り命まで取りはしません」

 

 

 蓮の意識は今度こそ薄れており、バーベナの言葉は頭に入ってこない。

 そんな中、爆風が巻き起こり、煙と共に闇の手が全て消え去っていった。

 

 

 「がはっ……何事だ?」


 「ここは会社の中、あなたの仲間が助けに来たのではなくて?」

 

 「いや……」

 

 

 彼の記憶の限り、今の闇の手を一掃できる程の爆発を起こせる仲間は社内にいない。

 だが“仲間”という制限を外せばこれが可能な者には1人だけ心当たりがあった。

 

 

 「やれやれ、急に牢が開いて手を貸せと言われて様子を見に来れば……彼女たちは異世界人? としか言いようが無いのでしょうけど、天使や悪魔以外は異世界に来れないんじゃ無かったかしら?」

 

 

 キョロキョロと辺りを見渡しながら、冷静に状況を分析している女性。

 元転生教教祖ゼロこと水瀬玲奈だ。

 

 

 「貴様……どさくさに紛れて脱獄する気か?」


 「そんな事して私にメリットが無いのは、あなたも分かっているでしょう?

 大人しく投獄されている事、北風エネルギーの研究に協力する事。

 それが私の息子、始を治療してもらう条件なんですから」


 「では、何をしに来た?」


 「見れば分かるでしょう? 加勢よ、ドクターに頼まれましたからね」


 「ドクター? 謹慎中の奴が、なぜ今の状況を……」

 

 

 言葉を言い終える前に、監視カメラが蓮の視界に入ってきた。

 

 

 「まさか……」


 「ハッキングで、ずっと見ていたのでしょうね」


 「信頼していいんだろうな?」


 「母親なんて、子供が第一よ」

 

 

 玲奈の視線がバーベナを睨み、火花を散らした。

 

 

 「おばさんが1人増えた所で、状況は変わりませんわよ?」

 

 

 無数の闇の手が、2人に襲いかかる。

 

 

 「足手まといは下がってなさいな」

 

 

 玲奈は蓮を後ろへ押し飛ばすと同時に、袖から砂を撒き散らし、その一粒一粒を爆弾へと換え、再び闇の手を一掃してしまった。

 

 

 「どうやら、まぐれが続いた訳でも、なさそうですわね」


 「この歳になると、少し運動しないだけで体が訛るのよ、牢獄生活で退屈もしてたし丁度良かったわ」

 

 「舐めれたものですわね」

 

 

 バーベナは再びオカリナに口を付けた。

 

 

 「気をつけろ!! あれは宮本翔矢や鈴と同じ力だ!!」


 「あぁドクターのレポートで見たけど、異世界の大魔王の力みたいねぇ」


 

 玲奈は警戒を強めつつも、その口ぶりと態度には、まだ余裕が見て取れた。

 しかしバーベナの後ろに、空間の歪みを見た瞬間、その表情はすこし引きつった。

 

 

 「あれは……まさか異世界と繋がっているの?」


 「またゴブリンやオークか!!」

 

  

 手負いとはいえ、蓮にはゴブリンやオークを圧倒する実力も自信もあった。

 加勢しようとソルを構え体制を立て直したが、そこから現れたのは、ゴブリンでもオークでもなく、薄い紫の髪にコウモリのような翼を生やした男だった。

 

 

 「誰だ……オレ様を呼んだのは」

 

 

 男は威厳のある声で、この場の1人1人を睨み現れた、その姿はまるで……

 

 

 「魔王……なのか?」


 「まぁ異世界が存在するなら、魔王くらいはいるでしょうけど……」


 

 蓮と玲奈は、その雰囲気に圧倒され冷や汗を流し、後ずさりをする。

 

 

 「あなたを呼んだのは妾、ルーシィ・ザ・ワールド首相代理、バーベナですわ!!

 ちなみに、そこに寝ているのは、サボり担当大臣のトレニア」


 「ふん、人間ごときが、このオレ様を呼び出すとわ……」

 

 

 男は話の途中で考え込み、言葉に詰まってしまった。

 

 

 「いや、お前ら人間か?」

 

 「他に何に見えまして?」


 「ムニャムニャ、諸説ありぃ」

 

 

 さっきまでの男の威厳は、今の会話で薄れたように感じる。

 その隙を蓮は見逃さなかった。

 

 

 「知性を持った奴を呼び出したのが間違いだったな、初対面同士だろうと話し込んでいる暇はないぞ!?」

 

 

 蓮は既に男を射程範囲に入れており、ソルは、その首元にまで迫っていた。

 

 

 「人間風情が……その程度の鈍で、オレ様を仕留められるとでも?」

 【ファイヤー・ウォール】

 

 「何!?」

 

 

 蓮は一瞬の判断で攻撃を中断し、後ろに飛び距離を取った。

 しかし男の魔法が発動した様子はない。

 

 

 「何だ、ハッタリか?」

 

 

 そう思ったのだが、男も自らの手のひらを眺め困惑している様子だ。

 

 

 「何故、オレ様の魔法が発動せんのだ?」


 「この世界で、魔法とやらの類いは使えませんわよ?」


 「ふっふはははははは!!」

 

 

 男は高笑いをした後に腰に下げた剣を抜いた。

 

 

 「ときたまオレ様を討伐しに来る人間は弱すぎて退屈に感じていたが、そうか魔法を使わないと決めれば楽しめたか、そこの女、オレ様に気付きを与えた礼に力を貸してやろう」

 

 「それはどうも」

 

 

 蓮と男は、事前に分かっていたかのように動き出し、鍔迫り合いを始めるのだった。

 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 ストーリは一生懸命練って執筆しております。


 少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。


 下の星から評価も、面白いと感じたら、入れてくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ