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239話:依頼から忘却が始まりそうです

 翔矢がサクラから逃げようとアクセルを発動させていた頃、ペネムエは不思議な感覚に襲われていた。

 

 

 「妙ですね……翔矢様にお姫様抱っこで抱えられた感覚があったのですが……

 翔矢様もサクラ様も目の前から、いなくなってしまいました」

 

 

 今一度、目の前で起こった出来事を整理しようと、顎に手を当て考え込む。

 すると、ペネムエにとって衝撃的なシーンがフラッシュバックした。

 

 

 「あれ? わたくしと入れ替わるように、サクラ様を抱えていったような……

 いえいえ、何かの間違いでしょう、翔矢様が出会って間もない女性に、そのような事をするハズが……」

 

 

 自分に言い聞かせるようにし、もう一度、翔矢とサクラが目の前から消えた時の状況を思い出す。


 

 「ぎゃーーーーふん!!」

 

 

 何度思い出しても、ペネムエの記憶には“翔矢はサクラを、お姫様抱っこで抱え去って行った”と刻み込まれている。


 

 「いったん餅つきましょう!! ルーシィ・ザ・ワールドの方々は、珍妙な権能を持っています、記憶の1つや2つ書き換えがあっても不思議ではありません、むしろ自然な事です!! 辻褄合いまくリングでございます!!」


  

 独り言にしては大きな声で呟いていると、ペネムエの肩を誰かがポンと叩いた。

 ペネムエには、その感触とリズムだけで、これは翔矢では無いと確信が持てる。

 

 

 「ペネムエちゃん久しぶりね!!」


 「ユリア様でしたか、ご無沙汰しております、六香穂にいらっしゃるとは珍しいですね」


 「出演してたアニメのキャラが、思ったより早く退場してスケジュール空いたから、帰省してたのよ」


 「それはまた、独特な理由ですね」


 「独特と言えば、ペネムエちゃんの悲鳴もね?」

 

 

 一瞬ユリアが何を言っているのか分からなかったが、数秒の沈黙の後、ペネムエは頬を赤く染めた。

 

 

 「ユリア様……いつから、見てらしたのですか?」

 

 「ぎゃーーーーふん!! の辺りからかな?」


 「ほとんど最初からじゃないですか!! というか声優様のスペックふんだんに使って、わたくしの声完全再現しないでください!!」


 「私は声優、与えられた役は、完璧に演じてみせるわ!!」

 

 「別に役をお願いした訳じゃ無いですよ……」


 「そんな事より、大声出して何があったのよ?」


 「そうでした、実はウンヌンカンヌンでして」

 

 

 ペネムエは、ルーシィ・ザ・ワールドの事から翔矢がサクラをお姫様抱っこして何処かに行ってしまった事まで細かく説明し、ユリアはフリーズしてしまった。

 

 

 「すいません、一気に話しすぎましたね」

 

 

 しかしユリアは、その呼びかけに答えない。

 

 

 「ユリア様?」

 

 「ぎゃーーーーふん!!」


 「うわっビックリしました!!」

 

 

 ペネムエの真似事で無い、ユリア自身の声の奇声が響く。

 

 

 「ペネムエちゃん!! 翔矢君を迷子泥棒猫から取り戻すわよ!!」


 「はいっ!! しかし何処から探せばいいのか……本当に珍妙な権能を持つ集団でして」

 

 「迷子泥棒猫を探すなら、こっちも猫よ!!」


 「はい? ……あっそういう事ですか!!」

 

 

 珍しく意気投合した2人は、ある場所へ向かった。

 


 

 ***

 

 

 

 2人は翔矢のクラスメイトである悠奈の家を訪れた。

 幸いにもグミ以外は留守で、3人は悠奈の部屋で話し合っている。

 


 「ニャルほど、ルーシィ・ザ・ワールド……またヘンテコなのが、この世界に来たもんだニャ」

 

 「それで、権能に巻き込まれてしまった翔矢様を探し出して欲しいのです」

 

 「それは構わない……でもペネムエ、何か忘れてないかニャ?」


 「悪魔族に、何か依頼する際は対価でございますね?」

 

 

 その言葉にグミは沈黙する。

 

 

 「違うニャ、いや対価が必要なのは、その通り。

 でも、コレを忘れてないかニャ?」

 

 

 グミが取り出したのは、鞘に収められた状態でもボロボロだと分かる剣だった。

 

 

 「これは……転生教の事件の際、ドクター様から受け取っていた聖剣ですねぇ……」

 

 

 ペネムエは何かを思いだし、分が悪そうに視線を反らした。

 

 

 「聖剣は他の世界には持ち出せニャイ、様々な世界で取引する悪魔族が対価として受け取るのは、本来お断りするモノニャ……

 転生教の事件の時は、ペネムエが後で対価を払って引き取ると言うから、ドクターから特例として受け取ったニャ!!」

 

 

 その話を聞きながら、ペネムエは必死に魔法のポーチを漁り対価になりそうなものを机に並べる。


 

 「いやガラクタばかりニャ!! 聖剣も渡せなければ翔矢を探すのも厳しいニャ!!」


 「うぅ……普段の戦闘がブリューナクで事足りるのが仇になってしまいました……

 魔法石も小さいのしか残っておらず、ポーションはグミ様から仕入れているモノですし」

 

 

 ペネムエは魔法のポーチの中身を隅から隅まで調べたが、めぼしいモノは見当たらず困り果ててしまった。

 ユリアは黙って座っていたが、このまま待っていても状況は変わらないだろうと、顎に人差し指を当て考え事を始めた。

 

 

 「あっそうだ!! 私のサインとかどう? この前出したばかりのCDに書くわ!!」

 

 

 ハンドバックの中から自信のCDとサインペンを見つけたユリアは、グミの答えも聞かずにサインを書いている。

 

 

 「ユリア様!! 世界を危機から救う力を持つ聖剣が、サインで釣り合う訳無いじゃないですか!!」


 「別にいいニャ」


 「えっ? 今何と?」


 「サイン付きCDで大丈夫ニャ、聖剣なんて他の世界に持ち出せない、選ばれた者しか使えない、悪魔族にとって商品価値は皆無ニャ」

 

 

 ユリアとグミは対価の交換を行い、ユリアは聖剣をペネムエに渡した。

 


 「だったら、わたくしの魔法石でも」


 「お前、それ天界なら袋に詰め放題で売られてる奴ニャ」


 「あははぁ……翔矢様がいれば、何か良いモノが出たかもしれませんがぁ」


 「そう、それよ!! 翔矢君を探してもらう対価が思いつかないわ」

 

 

 ペネムエとユリアは、慌ててお互いの持ち物を確認を続ける。

 その姿を眺め、グミは自分が悪者になった気分だった。

 

 

 「はぁ……仕方ないニャ、今回の相手は得体が知れないからニャ。

 ニャーも、どれくらいのモノを対価として受け取ればいいのか分からニャイ。

 とりあえず探して、その労力で決めさせてもらうニャ」 

 

 「グミ様!! ありがとうございます!!」


 「やっぱり猫は、ツンとしてても良い子が多いわねぇ」

 

 

 ユリアはグミの頭をポンポンと撫でた。

 


 「やめれニャ」

 

 

 こうして3人は翔矢を探しに出発したのだった。 



 

 ***

 

 

 

 その頃、東京にある北風エネルギー本社では、渡辺蓮が地下で囚人達の見回りをしていた。

 時刻はまだ夕方だが、何もすることの無い牢屋で囚人は横になっている者がほとんどだ。

 

 

 「後は、昨日捕まえた訳分からん連中の所だけか……」

 

 

 同時刻、バーベナとトレニアは、蓮が向かっているとは思ってもないが慌てふためいていた。

 いや正確には慌てているのはバーベナだけで、トレニアは眠りには付いていないものの横になったまま動かない。

 

 

 「ちょっと!! トレニア!! 起きてくださいな!!

 サクラが、何処かに消えてしまいましたわ!!」


 「ムニャムニャ~そんなのいつもの事、お腹が空いたら帰って来るぉ~」


 「寝ないでくださいまし!! いつもなら気にも止めませんが、ここは牢屋ですのよ!! あの日本刀振り回し男がやってきたら、何されるか分かりませんわ!!」

 

 

 バーベナはトレニアの体を必死に揺らすが、彼女はウトウトするばかりで、起き上がろうとすらしない。

 

 

 「別に寝てる間にエッチな事される訳でもないし気にしない気にしない、今はお昼寝の時間だよぉ~」


 「あなた、ほぼほぼ寝てるでしょうが!! 猫やナマケモノでも、もっと動いてますわよ!! というか命が危ないんですの!! エッチな事された方が、まだ辛抱できますわ!!」


 「バーベナ様破廉恥……命が危ない~すなわち永遠に眠れるチャンス~スヤァ~」


 「スヤァじゃありませんわ!!」


 「おい……何を騒いでいる!?」

 

 

 その声の方向を、恐る恐る向くと、やはりと言うべきか蓮が立っていた。

 

 

 「あははぁ……お仕事お疲れ様……ですわ!! 残業ですの?」


 

 蓮はそれに返答せず、牢の中を見渡した。

 その異変を見逃すわけも無く、ソルを構え臨戦態勢に入っている。 


 

 「ピンク色の髪の奴がいないようだが?」

 

 「あはは……彼女は持病の迷子で……」

 

 

 バーベナは、滝のような冷や汗が止まらなくなるのだった。

 

 

 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 ストーリは一生懸命練って執筆しております。


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